奇妙な弁護士「就職難」記事

     弁護士の就職難に絡んだ、ちょっと奇妙な新聞記事が出ています。4月3日付け毎日新聞大阪夕刊の「憂楽帳『就職難』」

     紹介されているのは、司法修習を終え、就職難で焦っている20代の女性の話。弁護士志望の彼女は既に10を超える弁護士事務所の門をたたいているが、採用してもらえない。その彼女が、「関西のベテラン弁護士」に相談した、と。いまや、この世界を知っている人ならば、珍しくもない、この女性に限らない「普通」の話です。

     ベテランに「弁護士として何がしたいのか」と問われ、彼女は言います。「仕事内容のこだわりは捨てた。とにかく就職したい」。

     記事は、修習後の弁護士未登録者過去最多、就職難で弁護士会費が払えない弁護士の現実に触れたうえで、場面を前記ベテランと新人の相談に戻し、こう締めくくります。

     「喫茶店でベテラン弁護士と向かい合った女性の目には涙が浮かんでいた。弁護士は熱くなって叱ったという。『泣いている人を助けるのが弁護士の仕事じゃないか。自分が泣いていてはだめだ』。難関をくぐって獲得した法曹資格。今は厳しくとも、志だけは決して捨てないでほしい」

     この記事を見た弁護士の感想として、このベテラン弁護士の対応に首をかしげるものがネットに出ています(「弁護士のため息」 「Schulze BLOG」)。要は、ここは「熱くなって」叱るところか、と。それは、全く同じことを感じました。ベテランは、いかにもという精神論を掲げています。確かに弁護士の仕事は泣いている人を助ける仕事ですし、こういう場面で、「泣いている場合じゃない」という、それこそありきたりな、なぐさめともいえない対応は、一般的といえるのかもしれませんが、いわば、それだけの話です。

     新人弁護士の窮状をよく知っているはずの、このベテランが、そんなありきたりな切り口で、彼女を叱ることに意味があると思っていること自体が不思議です。そのベテランが、自分の就職時に、どれだけ苦労されたかは分かりませんが、おそらく、今、10事務所にふられている彼女を、そのベテランは自分のところでの採用も、紹介もしてあげられないようにとれることからも、この反応は不思議な感じです。「すまん、僕は力になってあげられない」という、一言は、記者が引用していないだけなのだろうか、そんな気持ちにさせられます。

     そもそも、この記事は一体、何が言いたかったのでしょうか。弁護士就職難の実情と女性弁護士志望者の同情したくなるような姿。それを叱咤するベテラン。結論は「今は厳しくとも、志は捨てないで」。今、乗り切れば、やがて道は開かれるはずだ、それまで志はなんとか捨てるな、ということでしょうか。これがどうしても無責任に聞こえるのは、その肝心の道がやがて開かれる話をだれもリアルに想像できていないこともさることながら、これが就職のためには志を捨てるしかないと言っているようにとれる人間、いや、捨てても就職がない人間に向けられていることです。中身のない「なんとかしろ」は、時に見捨てているのと同じ響きを持ちます。

     結局、この記事は、なんの裏付けもない精神論だけが突き付けられている弁護士志望者の状況を伝えているというべきです。「甘えるな」「弁護士以外みんなそうだ」という声も聞こえてきそうです。ただ、仮にこの就職難の先に「仕事へのこだわり」を捨てた弁護士だけが残るというのであるならば、それが本当にこの社会にありがたいことなのか、その覚悟を導き出したものがなんだったのかは考えなければなりません。彼らが捨てる「仕事へのこだわり」は、決して手取り額や待遇だけの話ではありませんから。

     もう一つ、この記事は、嫌なことを想像させます。このエピソード、記者は、この記事をあくまでベテランの方の取材に基づいて書いたともとれることです。ネットの反応ではお気づきの方もいるようですが、「女性の目には涙が浮かんでいた」という表現は、それを推察させます(もちろん、「私、その時、泣いてしまったら、熱く叱られちゃったんですよ」という彼女の言を、こう表現した可能性がないとはいえませんが)。もし、この推察が正しいとするならば、ベテランとしては、前記精神論を、さもあるべき弁護士の姿勢のように、「言ってあげたんですよ」と、記者に語っている姿が想像できてしまいます。なんか、これも違うんじゃないかな、と思います。


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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    本日、事務所にとてもKYなFAXを賜りました。
    従前からあった判検交流に弁護士も加えろというもので、裁判官・検察官が任期付きで弁護士事務所に勤務するというものですが、その給与
    指定です。
    裁判官経験何年以上は平均給与が・・・円
    ロー卒の弁護士が見たら泣くぞ。

    No title

    いつも記事を拝見し、感謝してます。

    某法科大学院に合格したという30歳近い学生が2人、挨拶に来ました。
    「おめでとう」と言えばよかったのかもしれませんが、2人とも300~400万円の奨学金を利用しており、さらに同程度の奨学金を受けるというので、「新司合格しても就職先はない。奨学金とは借金の別名だし確実に返せなくなる。法科大学院は辞退すべきだ。どうしても夢を諦められないなら働きながら予備を通れ。私に言えることは以上に尽きる。次の相談はない」ときっぱり申し上げました。

    ちなみに65期たちからは1000万円近い奨学金債務があると聞いていますし、無事に就職できたはずの64期たちも1年経ってどんどん馘になっています。アドバイスするなら精神論ではなく、相手のために苦いことを指摘するべきでしょう。それは依頼人に対する場合でも後進に対する場合でも変わりません。

    なお、海千山千の弁護士なら女性の涙には慣れてます。この記事は若い司法記者さんが美談仕立てにしようと気張らはったんでしょうから、目くじら立てるのは大人げないかもしれません。

    No title

    もしかすると、最も親切なアドバイスは、「無理して弁護士としての就職をかなえても、将来どこかで破綻する可能性が高いから、いっそのこともうこの時点で弁護士は諦めて、理解のある一般企業で専門性を磨いた方がいい」ということでしょうね。

    実務についてから、仕事の才能や商売の才能を花開かせる人もいますから、万人に当てはまるアドバイスでもないですけど・・・。

    No title

    就職難の問題は、別に今年からはじまったものではないです。それこそ、ロー制度になる前から、増えすぎた司法試験合格者の就職が問題となっていました。当時は、まだ過払いバブルやリーマン前でそれなりに仕事はあったので何とか吸収できていたのですが「いずれ大変なことになる」ことは皆わかっていたはずだと思います。

    最近は、事件数も減り、過払いなどほぼ消滅し、リーマンショックで案件は激減・し規模も縮小、国選は取り合い、法律相談は閑古鳥であるにもかかわらず奪い合いのような状況です。
    女性修習生の涙に男性弁護士は感じるところがあるかもしれませんが、こうなることは、それこそ「年3000名合格させる」などと喧伝していたロー制度がはじまった時から分かっていたはずです。

    ですので、女性修習生と年配弁護士のやりとりだけを切り取って云々するのはいささか視野狭窄ではないかと思われます。

    ちなみに、似たような修習生からの相談の打診があったとき、私だったら断ります。
    対処しようがないので。変な期待を持たれても、裏切ることになることが確実であると分かっている以上、先方にも迷惑だからです。
    責められるべきは、就職相談が来ることが分かっていて、適切な対応策がないのにもかかわらず、応じてしまった、年配弁護士の軽率さ、及び、発言でしょうか。ただ、どういう発言をしたところで、根本的に問題を解決する打開策とはなりませんが。

    何が人を腐らせるのか

    東大闘争に立ち上がった、かつての医学部生の皆さんを尊敬します。
    あの人たちは、インターン制度の待遇の悪さに抗議して立ち上がったんですよね。
    一番有名な大学の、つまり後でいい目を見られる確率が一番高いはずの人たちが
    率先して立ち上がった、権威も何も怖れず、団結してという事実に私は素直に脱帽します。
    これは、学歴や生まれ(東大の医学部なら富裕層出身者が多かったはず)が人間を腐らせるとは限らないという、強力な反証になるでしょう。

    翻って、現代の法科大学院生たちが同様の闘争を起こさない、起こそうともしないことに、私は何を感じれば良いのでしょうか? 時計台を占拠しろとは言わない。だが、授業ボイコットとか、国家試験の受験拒否を呼びかけるような度胸のある奴がタダの1人もいないのを見ると、こんな奴らに法律事務の独占なんかさせてたら、暴力団や総会屋はさぞ仕事がやり易いでしょう。何か紛争が生じたら、弁護士ごときよりも老医師のほうがよほど頼れそうだ。そう思わずに居られません。

    No title

     しかし、このベテラン弁護士採用は経費的に難しくても数件でもいいから共同で事件を振ってやるくらいのことはしてもいいのにと思いますね。扶助の破産でも新人にとっては貴重な収入なので。
     架空の記事かなと思う一方で、この業界の縦関係の崩壊、すなわち法曹養成の根本的崩壊のような気がしますね。

     最近は指導担当は就職先斡旋の義務はないといいますが(まあ、確かに義務付けられても無理ですが)、せめて、即独、宅弁になってもOJTの端くれくらいはやってあげてもいいのではと思います。

    No title

    Schulze先生のブログに「このベテラン弁護士は許せない」旨のコメントを同じハンドルネームでさせてもらった者です。同じ感想をお持ちの方々が少なからずおられることに少し救われた思いがしてます。私はこのベテランと就職できない女性の意識の格差,立場の格差こそが,「改革」の失敗を端的に表わすものの一つだと思ってます。ただ,もしかしたら,「改革」はこんな人の悩みに適切に対処できない弁護士が多いこの業界を何とかしようとしたのかもしれない,そしてその中に自分自身も入っていたのではないか,というところも胸に手を当てて考えてみなければいけないとも思います。

    No title

    私は、このベテラン弁護士というのは記者の想像上の産物だろうと思っています。
    もし実在して、どや顔で新聞記者の取材に答えているベテラン弁護士が居るなら気分が悪くなります。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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