企業「新人弁護士」採用の不安な一面

     日弁連機関誌「自由と正義」3月号の特集で、「企業ニーズの進展と弁護士の新たな価値創出」と題した座談会が掲載されています。顧問等の従来型の「社外弁護士」、組織の一員となる「社内弁護士」、取締役・監査役になる「社外役員」、不祥事発生で委任される「第三者委員会」という4つの、弁護士の企業に対するかかわり方における現状や課題が取り上げられています。もちろん、あくまで弁護士団体の機関誌の企画ですから、その「価値」というところに視点があり、弁護士の「べき論」につながっている話です。

     冒頭、参加メンバーの一人である、久保利英明弁護士は、こう言います。

      「(前記4つの)いずれの立場においても共通する弁護士の本質的価値、弁護士が企業に提供できる価値やサービスの本質を明らかにしたいと思います。その背景として、社会やステーク・ホルダーが企業に求めるものが変容してきており、これに呼応して、企業が弁護士に求めるものか変容してきたのだといえます」
      「企業そのものが社会的存在であり、社会にとって価値ある存在であることが求められている、そうした企業にサービスを提供する弁護士も、そのサービスの中に社会的価値を備えなければならない、既成概念とはやや異なったと考えています」

     企業そのものの発想が、単純に自社の利潤や都合だけで行動するのではなく、社会的な視点を持たざるを得なくなってきた。そのなかで、それにこたえる弁護士の価値も変わってきている、ということのようにとれます。それは、弁護士同業者間で古くからある「独立性」への批判的視点、ひたすら企業ニーズにこたえるなかでの、弁護士の本来的な立場を問題視する見方に対して、「サービスの中の社会的価値」という一つの答えに結びつけようとするものにも見えます。

     ただ、この座談会のなかで、最もリアルな「不安」を感じとったのは、ここに登場した「新人」をめぐる状況でした。弁護士経験よりも、修習後、即採用するという発想の企業は少なくありません(座談会の引用によれば、2009年11月企業内弁護士アンケート結果で43%)。最近は、即戦力を求めた経験弁護士を求める企業もあって、コミュニケーション経験も評価の対象になっており、逆にそうしたことも新人側の課題であるという指摘がなされています(池永朝昭弁護士)。

     しかし、リアルな「不安」とは、もちろんここではありません。その次に出てくるこうした現状です。

      「私が怖いと思うのは、雇う側のリテラシーの極めて低い会社に新人が企業内弁護士として一人で入るケースです。弁護士が安く採れるらしい、社外の弁護士よりも言うことを聞くらしいという発想で採用し、おまえの法律知識のフル活用して会社の都合のいい意見を出せという変なバッジの使われ方をする。採用された弁護士がないため、そんなものかと誤解して問題意識すら持てない、そういう企業内弁護士も実はすくなくないんじゃないかと心配になります」(竹内朗弁護士)

     正直、この企画のなかで、よくぞ、この実態について言及した、という感じを持ちました。あくまで推測も含めてですが、こうした立場に置かれた(置かれている)新人の噂はよく耳にしていましたし、私個人としても、そういう立場に置かれただろう新人弁護士を知っています。法務部採用といっても、法務部の組織はもちろん仕事の実態もなし。幸い彼の場合は、様子が変であることに気付いて、早々に退社できましたが、残念ながら別の道を選んでしまうことになる新人もいるということです。おそらく、竹内弁護士の耳にも、こうした新人たちのことが、少なからず入っていたのだろうと思います。

     もちろん、この現象の本質的問題は、竹内弁護士もいう「変なバッジの使われ方」の方です。つまり、新人が「分からない」ことをいいことに、内容証明をやたらに送りつけたりして、弁護士という肩書の脅威を利用したり、法律家からすれば無理筋の主張を掲げさせたり。安く弁護士を使える環境が、そうした非常識な経営者に利用された弁護士に、われわれが遭遇しなければならない環境を生んでいるということの問題です。司会の齊藤誠弁護士からは、これを受けて、サラ金訴訟で出てくるのが、昔は社員、今は若い企業内弁護士ばかり、「そういうのを雇った方が部長クラスを出すよりも安くすくという発想」か、という指摘もありました。竹内弁護士は若手インハウスが道を踏み外さないための取り組みの必要性にも言及しています。

     この座談会の下りでは、前記久保利弁護士の発言はありません。あるいは久保利弁護士がお付き合いされているような企業の世界の話ではないのかもしれませんが、世の中には、いうまでもなく企業の「社会的価値」にこだわり、弁護士ともそうした意識のなかで関係性を構築していくような、そんな「まともな」経営者ばかりではありません。

     そんな企業も、経営者も生き残ることはできない、といわれると思いますし、それはその通りですが、その淘汰の過程でそうした経営者に「活用」され、その目論見を背負った新人弁護士に、われわれが遭遇する状況は、弁護士の「価値創出」のなかで見落とされるべきではありません。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の質」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    >企業顧問が減る可能性があって、初めて司法改革に対する疑問ですか?
    >企業内弁護士が、あごでこき使われるのは見ていて楽しくないですか?
    こういうわけのわからない残念な方のために、無駄な司法改革が行われている。他人が顎で使われるのを喜ぶより、もっと有益な趣味を見つけてもらいたい。ちなみに、中堅以上のまともな弁護士はわれわれクライアントに対し相当に礼節してくれますよ、顎でこき使おうとしなくてもね。対応もスピーディ。

    No title

    >新人弁護士でなくても、雇用されたら、経営者の犬になるのは避けられないのではないでしょうか。

    ここですが、経営者から意に反する仕事を強いられた時に、「辞める」という選択肢が取れるか否かが論点かと思います。

    他に行くあてがなく、「そのまま意に反するが残る」という選択肢しかなければ、そのままズルズルです。

    昔は、弁護士の人数が少なかったので、インハウスにおいても「辞める(て別に行く)」という選択肢がとれたのですが、現状は、弁護士が余っている状態なので、この選択肢を取れない方が結構いるのではと推察いたします。

    No title

    >弁護士という肩書の脅威を利用したり、法律家からすれば無理筋の主張を掲げさせたり。

    市長自身が弁護士の某自治体でも、弁護士会費を公費負担していたことが批判されたときに、弁護士職員に無理筋な反論をさせていましたね。
    しかも、法律素人の市民や議員を相手に。
    他にも公務性を欠く出張に同行させられたり。
    新人弁護士でなくても、雇用されたら、経営者の犬になるのは避けられないのではないでしょうか。

    No title

    > 弁護士が安く採れるらしい、社外の弁護士よりも言うことを聞くらしいという発想で採用し、おまえの法律知識のフル活用して会社の都合のいい意見を出せという変なバッジの使われ方をする。採用された弁護士がないため、そんなものかと誤解して問題意識すら持てない、そういう企業内弁護士も実はすくなくないんじゃないかと心配になります

    これって、ようするにそんな分別もない弁護士がいるってことでしょ。
    それを雇う側のせいにするのはどうかね。
    高い倫理観を持ち合わせているんじゃなかった?
    だいたい、会社の都合のいい意見を書いても、それが実際に通用するかどうかが問題であって、相手方にキチンとした弁護士がつけば、誤魔化されることもなくなるでしょ。

    弁護士を安く広く使えれば、悪用側も使うだろうが、防戦するほうだって使えるんだし。あとは、弁護士業界の自浄作用で、悪徳をとっととつぶすこと。
    ま、そこに期待できないから、問題なんだけど。

    No title

    いいんじゃないですか、司法改革の効果でしょう。
    企業顧問が減る可能性があって、初めて司法改革に対する疑問ですか?
    企業内弁護士が、あごでこき使われるのは見ていて楽しくないですか?
    サラ金の訴訟に部長クラスの従業員よりも、人件費の安い弁護士を出廷させる、もう感激で涙が止まりません。
    支配人登記も必要なくなりましたね。
    このまま是非とも、司法改革マンセーの人たちが青ざめるくらい、顧問弁護士を減らして社内弁護士に替えたらいいんじゃないでしょうか、それで奴らの意見が変わったら「なんでやねん」とつっこんであげましょう。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR