札幌弁護士会「法曹養成制度」決議が示した「限界」

     またもや弁護士会が、法科大学院を「中核」とする法曹養成制度を見直す方向の決議を採択しました。札幌弁護士会の「法曹養成制度の抜本的改革を求める決議」(3月27日)。2月の千葉県弁護士会に続き(「千葉県弁護士会『法曹養成制度』見直し決議が持つ意味」)、法科大学院修了の司法試験受験化資格化撤廃、修習期間延長、給費制復活を提言しており、その理由とする現状認識も基本的に同様のものといえます。

     特に注目したいのは、今回の札幌弁護士会決議では、提案理由の中で、現在出されているような法科大学院を「中核」としたままでの改善策には、法曹志望者激減という法曹養成制度の危機を回避するうえで、限界があることを大略以下のように、はっきりと提示している点です。

     ① 法科大学院生の経済的負担を軽減するための、助成予算増額や給付奨学金制度の提案は、多くの問題を抱える法科大学院に更なる財政支出つながり、国民的理解を得ることは困難。
     ② 法科大学院の統廃合・定員削減を行って法科大学院における教育の質を高め、司法試験合格率を上げることによって、制度を改善するという提案があるが、準則主義によって設立要件を満たせば設置が認可されるものであることから、強制的な統廃合は困難。一定の「基準」を満たさないとした設置認可取り消しは、法令違反がないにもかかわらず認可を取り消すこととなり、法令上運用上、無理がある。法科大学院は専門職大学院とはいえ、憲法上、学問の自由、大学の自治が保障された主体であり、定員充足率、司法試験合格率などの指標をもって統廃合を行うことは、憲法上問題。
     ③ 自校が統廃合対象となることは、当該大学全体にマイナスイメージとなることは避けられず、自主的統廃合相当の抵抗が予想される。
     ④ 各法科大学院は既に定員削減を行っており、さらなる定員削減を行うことは、財政的基盤を悪化させることになることから、定数削減について同意を得ることは困難。
     ⑤ 定員充足率、司法試験合格率などの指標で法科大学院の統廃合を推し進めた場合、統廃合の対象とならないのは首都圏のごく一部の法科大学院に偏ることになり、地域適正配置は困難になり、その理念とは矛盾する。
     ⑥ 未修者コースの低迷を受けて、1年次から2年次の進級に関して「共通到達度確認試験(仮称)」を導入することが提言されているが、法科大学院在学中に「振るい」にかけるというだけで、法曹志望者数激減に対する有効策とはならない。

     法科大学院関係者のなかにも、実は、この限界を感じている人たちはいます。ただ、そうした意識を持っている関係者が直面しているのが、まさに内部的抵抗です。ある関係者は、この限界を自覚しながらも、弁護士会がいうような「受験資格化撤廃」といった提案は、それこそそのまま内部議論の俎上にはとても上げられない、という趣旨のことを漏らしていました。この提案が、法科大学院の事実上、息の根を止めるものになるという認識を多くの関係者が持っているからです。現実的に彼らが手を降ろせる提案でなければ無理、として、前記問題意識を共有しながら、そこを模索する立場の関係者もいます。

     ただ、それも、もはや限界ということだろうと思います。「中核」の旗をいったん降ろさない限り、この状態が改善に向かわないという認識は、急速に広がっている感があります。

     要になるのは、やはり札幌弁護士会決議の提案理由がいう、次の点だと思います。

      「法科大学院課程修了が司法試験受験資格でなくなっても、法科大学院において高度な専門教育が行われることによって、法科大学院生は新司法試験合格に必要な知識を習得し、経験を積むことができる。優れた教育を行い、多くの司法試験合格者を輩出することになれば、その法科大学院は存続するであろう。   
      「また、法科大学院課程修了者が専門的教育を受けた後、法曹を含めた各分野へ進出し、社会で活躍することが期待できるようになるだけでなく、実務法曹が先端的・現代的分野や国際関連、学際分野などを法科大学院で学ぶことで、法科大学院制度の存在価値を高めることになる」

     千葉県弁護士会決議の理由も同趣旨のことに言及していますが、むしろこれが本来「改革」がこの制度に期待したものであったはず、ということもいえます。その本来の姿を目指して、内容で正面から勝負をして、その存在価値を示せばいいではないか、という提案です。

      「限界」が現実化しているなか、この本来の目的に向かって、存在価値を示していくという意識に立ち返れるのか、実はそこが法科大学院の試金石のようにも思います。そして、その意味では、利用されなくなる脅威に基づいて、強制的に制度に向かわせようとする法科大学院制度存続論は、ただ、「中核」の旗を降ろさないための邪道にも見えてくるのです。


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    法科大学院の延命策

    もうこの際,法科大学院修了を国会議員の資格要件としては,いかがでしょう?

    立候補時点で修了していなくても,当選後に2年間通えば良い,
    ってことにすれば,立候補を不当に制限することにもなりませんし,問題ないのでは?

    一国の首相がまともに憲法すら勉強したことがない
    由々しき状況も少しは改善されるでしょうし,
    2世・3世のボンボンどもが全国の法科大学院に入学してくれて,
    学費は,歳費から確実に支払われるので,
    法科大学院も延命が図れて,まさに一石二鳥。

    このアイディア,いかがでしょうかね。
    あ,もちろん,その代わり,
    法科大学院修了を司法試験受験要件からは外すということで。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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