「3000人」撤廃の「朝日」的受けとめ方

     法曹養成制度検討会議で司法試験合格者年「3000人」の旗を降ろす方向が示されて以降(「司法試験合格『3000人』撤廃報道の印象」 「ゆっくりした『改革』路線撤退」)、朝日新聞が初めてこの動きに論評を加えました。3月31日付け社説「法律家の養成 『利用者のため』貫け」。

     正直、これまでの同紙の論調を知る人間からすれば、何も目新しいものはない、聞き飽きたという方も少なくないと思います。前記エントリーで、いずれ同紙が論評する際には「しれっと新方針にすり寄る」か、「改革」が描いた法曹人口増加の必要性が正しかったことを繰り返すか、と書きましたが、この社説は、まさにその両方をやっている感じです。

      「『3千人』は一連の司法改革の旗印だが、私たちは社説で、こだわる必要はないと書いてきた」。昨年2月26日付けの社説で「朝日」は、「私たちも無理な増員を進める必要はないと唱えてきた」と書き、「いつ、そんな話をしていた?」と弁護士界ではいぶかしがる声が聞かれましたが(「『朝日』が見ようとしない『改革』の現実」)、今回は「3000人」堅持ではかった、と。「3000人」絶対と書かなかったことは、旗を降ろすことも是とするという意味だったのだよ、ということでしょうか。少なくとも、私が知っている「朝日」関係者は、増員の方向は変わらない日弁連のペースダウン論にさえ、「需要の有無で減員に舵をきるな」「開拓要員が必要」という立場を強調していましたが。

     一方で、増員の必要性については、おなじみの論調。「身近で頼りがいのある司法」へ「質量ともに豊かな法律家が必要」、「点」による選抜から「過程を大切にする」考えは「色あせていない」。法廷以外にも、国際ビジネス、福祉、地方自治、犯罪者の社会復帰など新分野で弁護士が活躍している。こうした潜在的需要をすくい上げ、形にできていないのが問題。弁護士が頼めない人のために、政府は十分予算をつけろ。条例づくりや政策の立案、コンプライアンス体制の確立などで活用せよ。弁護士も積極的に飛び込んで行け、魅力を再認識してもらうため、活動領域拡大に全力で取り組め――。

     まさに司法制度改革審議会意見書という「バイブル」に基づき、えんえんと繰り返されてきた主張です。ただ、「朝日」は大事なことを見落としています。つまり、こうしたお題目のように並べられる現状認識と「べき論」、精神論の果てにあったのが、現在の状況と「改革」の象徴たる「3000人」計画撤退であったという現実です。潜在的需要が顕在化しないことや、活動領域が大きく拡大しないことが、果たして「すくい上げ」「形にできない」弁護士側の手法や心構えの問題なのか。予算を十分につけろ、というのはたやすくても、そんな前提が整う方向にあるわけでもない。「身近で頼りがいのある司法」「質量ともに豊かな法律家」という言葉も、字面をみれば、誰もノ―と言わないようなものであっても、それが現実的に何を指し、どういう前提のうえに語られるべきことなのか、そこを根本的に捉えなおす気が「朝日」には、全く感じられないのです。

      「朝日」はこの社説で、「こだわる必要がない」としてきた「3000人」方針の旗が降ろされることについて、合格者2000人の現実を挙げ、「事実上、意味を失っている」と、あっさり片付けていますが、逆に言えば、なぜ、この旗印たる「3000人」から撤退する事態になったのか、それが「朝日」が以前、放棄・後退するなと叫ぶ、どういう「理念」が現実と乖離した結果なのかという現実を直視しない姿勢そのものを、そこに見ることになっているのです。

     タイトルの「『利用者のため』を貫け」という文字は、やはり法律家、とりわけ弁護士が、「弁護士のため」に「改革」を後退させるな、というニュアンスに読み取ることができるものです。しかし、「理念」の失敗に立ち返って、「改革」を見直すことをしようとしない「朝日」や「改革」推進派の姿勢が、果たして本当に「利用者のため」になるのかどうかこそ問われなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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