日弁連の「矛盾」への感性

     今年2月、日弁連は、奨学金の返済問題に関する全国一斉の電話相談を実施しましたが、そもそもこの問題に日弁連が取り組むことの「矛盾」を指摘する声が聞かれます(「福岡の弁護士 菅藤浩三のブログ」 「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」)。奨学金が必要不可欠とまでされている法科大学院制度を基本的に支持し、そこにあっては奨学金の利用を推奨していることとの関係です(「法科大学院進学を考える皆さんへ」)。

     詳しくは前記ブログをお読み頂ければと思いますが、奨学金受給者の概ね3 割が、半額(全体の2 割程度)または全額(全体の1 割程度)の返還免除を受けていることから、少なくとも法科大学院については残る7割(あるいは9割)の債務負担者が、日弁連が取り組む問題を抱える対象ということになります。前記ブログには、「マッチポンプ」という表現も出てきますが、こうとられても不思議ではない状況があることは事実です。

     しかし、こうした「矛盾」は、他にもいわれてきました。「給費制」廃止で日弁連側から出ていた「金持ちしかなれなくなる」論でも、それ以前に志望者に大きな経済的負担を課している法科大学院本道主義堅持の姿勢との「矛盾」もいわれましたし、そもそも「給費制」維持自体が、国費の使い道という問題として、法科大学院存続との間で不都合とする立場との関係もいわれました。

     さらに、弁護士の増員にしても、ペースダウンとは言っているものの、増員基調の弁護士拡大政策を支持する立場からすれば、弁護士の就職難・OJT対策についても「矛盾」を言われる余地があります。いうまでもなく、今の状況を生み出したのは、前記政策であることは明らかだからです。悪いのは、すべてペースの問題といえるのかどうか。1500人へのペースダウンが実現しても、こうした状況が改善するという楽観的な見方をする弁護士は少ないのが現実です。

     そもそもこの政策が生み出す競争、それが予定している淘汰ということを考えれば、弁護士が就職できない、仕事がない、といっても、全体を生存させることが「改革」の目的ではない、「生き残り」をかけた競争による良質化が織り込まれているならば、現在の状況こそが淘汰の過程という見方だってできます。退場すべきものは退場すればいい、と。

     放置できない、なんとかしなければならない、という言葉が重ねられることは承知していますし、その意味をすべて否定することはできませんが、一方で、「矛盾」「マッチポンプ」とみられる余地が、これらの日弁連の姿勢に存在していることは事実です。

     元来、弁護士は、タイプとして、どちらかといえば、こうした行動の矛盾には敏感で、自己においても極力そうしたものを回避する(回避しないことを弱点と認識する)傾向が強い存在だと思ってきました。テーマは、全く異なりますが、かつて弁護士報酬のクレジットカード払いをめぐり、「カードの乱用に警告を発すべき立場の弁護士がカード会社と提携することは相当でない」として会員に対して「自粛」を求めたことがありました。その後の利便性から来る会内の推進論に対しても、「弁護士が向き合っている多重債務問題に弁護士が加担する形になる」という点にこだわる反対論が強くいわれました。まさに「マッチポンプ」には絶対になるわけにいかない、と。

     一種の「筋論」ととらえることもできますが、国民目線を意識した委縮・脅威論というよりは、むしろ「利便性」に引きずられないプロフェッションとしての正当性・廉潔性、もっといえば信頼性の基盤へのこだわりというべきかもしれません。「利便性」に拍手をおくる人がいたとしても、失うものがあるという認識だと思います。

     こうした弁護士の意識傾向と、前記のような日弁連の姿勢を考え合せると、やはり「改革」路線へのこだわりが、弁護士としては当然、こだわるべき「矛盾」に対する目線を曇らせているのではないか、という気持ちになってきます。カード利用の現実的利便性に弁護士が傾斜することよりも、もっとはっきりした「矛盾」に、既に多くの弁護士が敏感ではなくなってきている、ということでしょうか。


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    奨学金という名前の借金をしてまで、行くところじゃないですよ。崩壊大学院なんて。
    そういう私は旧試験なので、崩壊大学院には行っていませんでしたが、つくづく今のような残念な制度の前に合格できてよかったと思います。
    それにしても、弁護士というルートに最短だと思われていたからこそ、法学部というのはそれなりに客集めが出来たはずなのに、その看板を自らたたき壊して、一体何がしたいのでしょう?

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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