「開拓論」への疑念と本音

     弁護士の潜在需要は、まだまだあるから開拓せよ、という「改革」推進派のベテラン弁護士たちから聞こえてくる声に対して、弁護士会内でずっと言われていることかあります。それは、「まだまだあるならば、まず、それを言うベテランがやってみせてくれ」というものです。

     行政や企業での必要論、外部監査人や社外取締役への進出。内部統制・コンプライアンス・予防法務・中小企業支援・外国法分野・国際競争力といったことが、お決まりのように並べられる弁護士のニーズ。さらには、相続・離婚・交通事故・未払い等々、既存分野にある「空白地」。ここに投入されるべき弁護士の総量が、どの程度のものなのかも分からないまま、弁護士が増えていく中で、こうした分野への進出・開拓が、「新人」にのしかかっているようにとれる現実に対する疑問です。

     それは、一つには、「新人」の能力という問題があります。前記したものについては、進出の難易度には差がありますが、経験のない弁護士、とりわけOJT確保すら課題となっている即独時代の若手に、それが現実的なのかという話です。はじめから組織内弁護士として、就職するという場合は別として、企業がどういう能力の弁護士を、即戦力として求めるのか、ということもありますし、社員として雇用するという前提ならば、やはりキャパの問題となります。

     もう、一つは、ベテランの対応です。こういう開拓論・進出論は何も新人を対象にしたものではなく、すべての弁護士に向けられているという反論が用意されていそうですが、業務スタイルを確立している既存弁護士は、現実的には既存形態にしがみつく。個々の弁護士や事務所の発想には、大きなバラツキがありますが、少なくとも「新人」の目からみれば、先輩たちが開拓・進出に積極的に乗り出し、「新人」にも容易な分野を譲り渡す風には見えませんし、そもそもそんな余裕がないことは誰の目にも明らかです。

     つまり、威勢のいい開拓論・進出論は、結果として新規参入してきた弁護士への「無理」を強いるものではないか、ということです。需要があるというのならば、法律事務所はもっと新人を雇っていいはずで、なぜ、就職難が現出しているんだ、ということも言われますし、この状況で「まだまだ」論をいうのは無責任とする見方は既存弁護士のなかにもあります(「『採用しない』責任、『採用する』責任」)。

      「改革」推進基調の大マスコミも、ある種の「アイディア」で乗り切ろうとしている若手を取り上げて、「やればできる」論を流してきましたが、もちろん、これには若手に限らず、冷やかな目線を向ける弁護士が沢山います。「まず、新聞社が新人弁護士を採用しろ」「新聞の需要がまだまだあるといって、新人社員に新規開拓させればいい」。そんな言葉も飛び交います。

     大マスコミがこうした姿勢に立ち、さらに弁護士会の主導層からも、「まだまだ」論が掲げ続けられていれば、「新人」弁護士にのしかかっている「無理」の現実が、「甘えるな」「どの世界でも同じ」の声に打ち消され、社会に伝わらなくても当然といえば、当然です。
     
     冒頭の声が、弁護士会のなかで聞かれる、その弁護士の意識のなかに、沈殿しているものをもう一つ、付け加えておけば、それは、こうした推進派ベテラン層の主張を、必ずしも認識不足として受け取っていない、ということです。大量の無償のニーズに対して、有償のニーズはどの程度のものなのか、しわ寄せは結果的にどこにいくのか、実は分かって言っているのではないか、ということへの疑念です。もちろん、「改革」の経済的な影響は、若手のみならずベテラン層にも及んでいるわけですが、少なくとも「まだまだ」を声高にいう推進派のベテラン層は、自らは安泰な境地からこれを言っている、他人事のような無責任さを、そこに感じとっているということです(「『新しい水夫』への期待と責任」)。

     真っ先に「淘汰」されるのは、新規参入者になる。そもそも真っ先に「淘汰」されるようならば、この世界に当然新人がやって来なくなる――。そうしたことへの危機感も、それぞれの弁護士の現実的な立ち位置によって、かなり違うことを、多くの弁護士は感じ出しています。そして、そこには、断絶と表現するのが、ふさわしいものも生まれ出しているのが現実なのです。

      「まず、総理から前線へ。」。ベテラン層に向けられた冒頭の言葉は、1980年代にある雑誌に掲載された、この反戦コピーを思い出させます。前向きで楽観的な姿勢だけでは、どうにもならず、多くの血が流れることになる「前線」を前にして、弁護士会内の溝は、かつてないほどに深いものになりつつあるように見えます。


    ただいま、「地方の弁護士の経済的ニーズ」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    >「新人」の目からみれば、先輩たちが開拓・進出に積極的に乗り出し、「新人」にも容易な分野を譲り渡す風には見えませんし、そもそもそんな余裕がないことは誰の目にも明らかです。

    弁護士業界にかぎらず、新規参入者に、既存業者が、既存顧客や販売網を譲り渡すなど、あるのでしょうか?寡聞にして知らないので、もし、そんな業界・業者があるなら、是非、教えて貰いたいです。
    もし、新人がそう考えているとしたら、世間知らずにも程がある、ですかね。

    No title

    そういえば、尾崎純理先生は「一万人の弁護士を行政機関に送るんだ」という話をなさっていたそうですね。

    日弁連市民会議

    第35回 2012年9月27日
    ・行政と弁護士との連携について
    第37回 2013年3月6日
    ・行政分野への弁護士の活動領域の拡大について
    だんだん露骨になっているような気がしますが。
    ちなみに、市民会議の議長は北川正恭氏。
    弁護士職員を一挙に5名採用した兵庫県明石市長をマニュフェスト大賞に選定したときの審査委員長です。
    地元議会では、明石市長が公務として北川氏を訪問し、懇親会の費用として市長交際費から25000円支出したことが問題視されたそうです。

    No title

    確か学者だったと思いますが、「被災地には無料の法律相談を求めている人がまだまだたくさんいる。だから需要はまだまだある」とのたもうた方がいらっしゃいました。
    「無料」相談が需要って・・・。

    ※ 法テラスなどつかうことで、無料相談でも弁護士に相談料入ることは一応ありますけどね・・・。

    日弁連会長は国民に謝罪を

    現日弁連会長からして、雑誌インタビューでは
    「ニーズがあるから弁護士増員は必要だ。」と公言しながら、自分の事務所は
    「現在募集はしておりません。」でしたからねえ。
    もちろん、弁護士増員が必要だと公言しながら、ローにお金払えない人の合格者枠を減らして減らしまくってた事実には、決してふれませんと。

    山岸氏をはじめとする司法改革翼賛派の方々は、ペテンや隠ぺいを重ねて、国民の血税を大学利権のためだけにばらまく卑劣な政策に賛同してしまった事実について、
    1日も早く、謝罪すべきです。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR