弁護士「不要」と「可能性」の狭間

     4年前、弁護士の仕事が「サルでもできる」と書いた弁護士がいました。西田研志弁護士の「サルでもできる弁護士業」(幻冬舎)。ここまでのタイトルをつけてしまうと、この本が相当な挑発と話題づくりを狙っていることは一目了然ですが、内容は確かに弁護士による、弁護士・会に対する批判・内部告発的なもので埋め尽くされていました。もちろん、前記狙いからも推察できように、業界内からの予想される反応には「批判上等」という姿勢ですが、むしろ業界内には、外部の弁護士批判論調の「バイブル」になることを恐れる声も少なからずありました。

     なぜ、「サルでもできる」というのか。彼は、要するに弁護士の仕事のなかで、定型化されたもの、定型化できるものについて、弁護士不要論が成り立つということを言っているのです。マニュアル化、システム化、IT化を徹底した事件解決システムです。

     多重債務者がテレヒCMを通してモバイルでアクセス。実際にあったケースと処理方法、結果がデータベース化されており、それで自分の立場と解決方法を理解した後、ヒアリングシート入力。するとコールセンターから簡易診断シートが返ってくる。依頼する場合、契約し、コールセンターが返済プランを設計し、和解交渉に入り、3ヵ月後には過払い金まで回収できる――。

     彼は、こんな無人化の未来を例示していました。これは、むしろ素人ほど連想しやすい弁護士不要の社会に思えます。彼は、企業法務にも定型化され得る領域があることを挙げたうえで、こう括ります。

      「この結果を総括すれば、法務も税務も弁護士や税理士もわざと難しく見せているにすぎないといえる。簡単で明解なものをわざわざもって回った言い方をすることで難解に見せ、自分たちのフィールドを守っているだけなのだ」

     なるほどヘイトスピーカーたちがこの本で勢いづくのを、業界関係者が恐れたのも理解できます。しかし、彼が、前記した弁護士不要論に立って、定型化領域を外せば、弁護士の需要などない、だから弁護士の激増など全く不要なのだ、という主張を掲げているかといえば、そうではありません。

      「弁護士の新たな可能性」と題された最終章で展開されているのは、まさに、「改革」推進論者から聞こえてくる進出論、開拓論です。政治分野、法務ビジネスの可能性、高齢者ビジネス、中小企業サポートと並べられる「まだまだある」論。

     一方で、彼はこの本で、弁護士会内共産党勢力をやり玉に上げつつ、弁護士を弁護士会の「会蓄」と表現するなど、会を個々の弁護士活動の足を引っ張る規制団体と位置づけています。これは、なぜか、この本で法曹一元必要論を掲げているのを除けば、むしろ会内批判どころか、個々の弁護士の賛同を見込んでいるととれますし、実際、この本ついて聞こえてくる会内の声は批判ばかりではありません。少なくとも、弁護士会から離れつつある弁護士の意識傾向のなかで、この本が読まれることは無視できない現実です(「弁護士会に『見切りをつける』会員」)

     要は、この本が言いたいのは、実はこちらの方なのです。「サルでもできる」弁護士不要論ではなく、弁護士の仕事がそんな領域ばかりではないことを筆者は百も承知。「弁護士解放のための弁護士の決起書」と書いていますが、実は、むしろ弁護士たちに向けられた、弁護士の「生き残り策」指南書、そのための意識改革、あるいは何と決別すべきかを唱えている本ととれるのです。

     しかし、やはりこの本は、弁護士・会について、一面的にしか見ていない、あるいは著者はそれも十分分かっていながら、意図的に伝えていません。弁護士や弁護士会がやってきたことは、彼がこの本でイメージづけているものでは、到底おさまりきれません。人権活動をしてきた弁護士が、すべて共産党の票田を開拓するためにやってきたわけでは毛頭ありませんし、「人権ビジネス」などと括れるもので満たされているわけでもない。本当に、儲け度外視で大衆と向き合ってきた弁護士が沢山います。それは、およそ彼がいう「サルでもできる」仕事ではない、本当に大衆が必要になるはずの、この国の弁護士像です。それを、彼が知らないわけもないのです。

     一方で、彼が「サルでもできる」という定型ビジネスに妙味を見出し、群がった大量の弁護士たちがいました。現実の需要が支えきれなくなった大量の弁護士たちは、次なる妙味と「生き残り策」を模索しなければならなくなっている。定型ビジネス、あるならば大いに結構、いや、「生存のためならば何でもやりますよ」という声は、弁護士の中からいくらも聞くことはできます。

     それが、この「改革」がもたらしている現実です。彼が指し示す「決別」と弁護士の「自由」の先の、彼や「改革」推進論者がいう「まだまだ」論が、果たしてこの現状の「受け皿」になり得るのか、そして、彼の描く弁護士生存の未来に、本当に大衆が必要とする弁護士がどれだけ生き残っているのか――。このことをまず、押さえておかなければ、彼がいうような弁護士が「国民の側に立ち戻ってくる」などという未来は、決してやってこないように思えるのです。


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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    その著者の事務所は一体どのような方向に向かっているのか,大勢いた子分達はどうなってしまったのか,定型化ビジネスモデルに今後の展望はあるのか,是非,続編を期待したいところです。

    No title

    ひいきの引き倒しでしょう。
    その著者が新たな定型化ビジネスを模索し、過払いから、残業代、B型肝炎と渡り歩いているだけであることは業界の人間なら承知していることです。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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