司法試験合格「3000人」撤廃報道の印象

      「遂に」というか、「今さら」というか、「当然」というか。3月17日の朝日新聞朝刊の、法曹養成制度検討会議が、司法試験合格者数「年間3000人」計画撤廃を提言する見通しになったという記事に、そんな気持ちにさせられている方々は、少なくとも弁護士界には、沢山いるかと思います。法科大学院が結果を出せていないという点からも、需要が伴っていないという点からも、それでもこの計画にしがみつくという無理は、もはやあり得ない話。なぜ、もっと早くこういう方向にならないのか、いや、もともと無理があった話ではないか。むしろ、方向そのものよりも、舵を切れない現実の方が問題だったといってもいい話だったからです。

     ただ、この記事を、「朝日」の紙面で、目にすることになっている現実からは、もう一つ、前記したような印象とは、別のことが気になりました。「見通し」段階の報道であり、かつ、一面肩という重たいバリュの扱いを差し引いても感じる、この記事の「そっけなさ」です。

      「『社会の隅々に法律家を』という理念のもとで進められた司法制度改革の柱が見直されることになる」ということを、「提言が実現すれば」という仮定をはさまずに、伝えていることからすれば、現段階で「朝日」は、この「改革」の大きな方針転換を事実上、決定的なものと認識したことをうかがわせます。だとするならば、この旗を振ってきたものとしてのとらえ方を、どうしても聞きたい気持ちにさせられるのですが、この紙面にはそれが見当たりません。事実を伝えているだけの記事です。

     検討会議では「3000人」を「司法改革の理念として目標を残したほうがいい」との指摘もあったが、「現実的ではない」という意見が大勢を占め、「人為的な目標を設定すべきでない」との意見もあって、今後、目標を設定しないという方向、とも報じています。これが事実だとすれば、「3000人」の妥当性以前に、こうした数値目標の具体的な設定そのものが無理、もしくは妥当でなかっことを、今さらのように「気付いた」話になります。

     達成時期を掲げて「3000人」目標を打ち出すことが、「改革」の姿勢として望ましいと主張した人もいましたし(「『合格3000人』に突き進ませたもの」)、経済界からも達成への懸念が出されながら「大丈夫」と太鼓判を押した人(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」もいました。ただ、これは彼ら(ともに弁護士)の個人的な見解におさまらず、この「改革」を推進する側が、その後、えんえんと「3000人」の旗のもとで押し通してきたとスタンスだったといっていいと思います。最近、弁護士会が主張しているペースダウン論にしても、「3000人」が描いた50000人の弁護士があふれるわが国の描き方を「誤りだった」といっているわけではありません。

     しかし、もし、「朝日」が報じたように数値目標設定自体が妥当でないという方向だとすれば、それこそ日弁連内が増員政策に舵を切る過程で、さんざん反対・慎重派から出されていた、増やすにしても一気に目標を設定して増やすのではなく、徐々に状況を見ながら、妥当な数を模索すべきという意見が、やはり正しかったことになります。それに、今、「気付いた」のかと。

     そして、前記したような「改革」の姿勢論としても、数の実現性にしても、これについて「妥当」「正当」というイメージを、えんえんと大衆に流し続けてきたのは、ほかならない「朝日」です。この記事から感じる「そっけなさ」は、どうしてもこの事実に頭がいくからだろうと思います。「朝日」は、何かに「気付いた」のでしょうか。

      「朝日」のことだから、いずれこれが正式方針になった時に、「社説」などでなんらかの括りはしてくるようには思います。今回、「解説」の一つもあっていいように思いますが、取りあえず「留保」したということかもしれません。一方で、流れがこっちでなければ、あるいはひっくりかえせる流れならば、「朝日」は、このニュースを小さく扱う手もあった。それだけに、しれっと新方針にすり寄る手かもしれません。あるいは、こうした事態になった、しかし、「改革」の描いた法曹人口増加の必要性は間違っていなかった、ということを繰り返すだけのようにも思います。

      「3000人」が象徴した「理念」や「姿勢」が、一体、何をもたらしたのか。その責任はどこに、誰にあったのか――。いずれ「朝日」の紙面で、もし、前記したような「総括」といえないような「総括」記事を見ることになるとすれば、少なくともそれ自体が、責任の所在なき、この「改革」の象徴になるように思います。


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    もう今更ですね。
    失われた時間が戻る訳でもなし、崩壊させられた業界が回復する訳でもなし。
    法科大学院を壊滅させ、大学も壊滅させ、ロー教授を路頭に迷わせるまで闘いは続くのだと思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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