「専門性特化」をめぐる意識と事情

     この司法改革の流れのなかで、弁護士の口から、「専門」ということを意識した言葉を頻繁に聞くようになりました。もちろん、以前から、「専門」が存在していなかったわけではありませんが、「特化した分野のプロフェッショナル」といった存在になることが、時代の要請のようにいう言い方です。

     もちろん、これは弁護士の増員時代と競争を意識したものです。以前にも書いたようにその根底には、弁護士を求めている市民にとって、「専門」は、最大関心事といっていいもので、選択という過程での重要なファクターになっているという現実があります(「弁護士の『専門』アピールと『誤導』のおそれ」)。弁護士にとって、より専門性をアピールする、あるいはできることが、より彼らに選ばれ、競争に勝つことにつながるはず、ニーズの的確な受け皿になるという発想です。

     では、弁護士が現在、こぞって専門性特化の方向を向いているかといえば、必ずしもそういう状況ではありません。もともと弁護士の意識傾向として、オールマイティ志向、何でもこなす存在でありたい、むしろ、一つの分野だけでなく、いろいろこなしたい、という気持ちはあるように思いますが、最大の理由は、経済的な事情だと思います。つまりは、特化したならば、やっていかれない。

     弁護士は医者のイメージがよく被せられる仕事で、専門についても、すぐに医師には内科、外科といった専門区分が引き合いに出され、弁護士にもこうした区分があるほどに市民は助かる、という話につながります。しかし、多くの弁護士は、「離婚」など専門性特化して、現実的にやっていかれる状況にない。マニアックな専門性の特化は、「売り」になっても、多くの街弁といわれる、庶民・大衆に近い弁護士たちは、経営のために、何でも屋にならざるを得ない事情を抱えているということです(「弁護士の『専門』表示を阻む事情」)。

     こうした現実は、実はあまり市民に伝わっていないように感じます。よほど、弁護士が「食えない」というイメージから遠いことにも気付かされますが、問題は、今回の「改革」は、この点で何をもたらそうとしているのか、ということです。

     国民の中にある多様なニーズに対して、多様な能力をもった弁護士が対応する。選ぶ側からすれば、オールマイティが沢山いても、専門家が沢山いて、対応してくれればいいわけですが、少なくとも競争状態のなかでは、より「専門」を期待する。しかも、本来は単なる自己申告ではなく、裏付けを伴ったものがほしい。多くの弁護士が抱える前記事情と、この要請をどう結び付けるのかということを、「改革」は増員政策のなかで、結局、弁護士側の士業努力に丸投げした格好にみえます。日弁連による「専門」分野の認定制度が取りざたされていますが、問題は「表示」のあり方だけてはありません。前記したような中身の裏付けもありますが、経済的な裏付けがない弁護士という仕事の現実が横たわっているのです。

     オールマイティの事務所が、一つの特徴として、専門を看板に掲げればいい、という人もいますが、競争状態のなかでは、当然、逆に「それ以外は劣る」というイメージにとられる可能性があり、そのことをすごく気にしている弁護士も少なくありません。結果、「専門」の看板が沢山並ぶことになれば、オールマイティとなり、競争状態のなかでのアピール度が下がる。

      「専門」表示の要請は、少なくとも弁護士についていえば、市民の「選択」の利便につながっても、そのニーズにこたえているだけで、その先の利便を保証するものではありません。その競争状態の弁護士の広告に対して、業界内からは「広告で大衆をひきつけるのがいい弁護士か」という声が上がれば、それこそそれが競争だ、甘えるな、といった声が業界外から浴びせられたりしています。ただ、誤導によるリスクの大きさということを、弁護士という仕事の特殊性と結び付けることが、それほど理解が得られないこととは、とても思えません。ある分野に特化といっても、実は判断のうえでは、総合的に精通していなければならないのが弁護士の仕事だという人もいます。

     生き残るためには、どの道をいくべきかということは、多くの弁護士が今、共通して突き付けられている深刻なテーマです。ただ、こうした弁護士という仕事の性格や抱える事情が、いまひとつ市民に周知されないまま、「生き残り」をかけた競争と士業努力任せ、そして選択する側の自己責任の世界に突入していこうとしている状況の先に、本当に大衆が出会いたい弁護士と出会える世界が待っているのか、そのことが気になります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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