弁護士会大派閥の目線の先

     東京弁護士会所属の最大会派(派閥)、法友会の2013年度政策要綱がネット上で公開されました。タイトルは「利用者のための司法~頼りがいのある弁護士と司法」。

     内容は多岐にわたりますが、一口にいえば、これまでの日弁連の「改革」路線堅持を強力に打ち出す内容です。司法制度改革審議会意見書を度々引用し、あくまで下敷きに、その理念は失われていないことを確認。弁護士の潜在的需要の顕在化と、法曹人口増加政策自体は間違いではなかったが急激過ぎたという、いわゆる「ひずみ」の弊害論で、法友会としては、今回の政策綱領で初めて年間司法試験合格者数1500人という具体的な数値目標を提示しています。法曹養成検討会議が法曹養成・法曹人口ついて8月に一定の結論を出す方針であることをにらみ、日弁連の意見反映へ強力にバックアップする姿勢です。

     全体的な印象は、前回の要綱と大きく変わらず、同文のところも多くれみられます。その維持されている姿勢のなかで、あえて取り上げておきたいのは、大弁護士会の派閥としての、弁護士会内の動きに対して向けられている目線です。

      「ひずみ」の諸問題への懸念を背景に、2010年以降、毎年の司法試験合格者の人数を具体的に主張する決議を行う弁護士会、弁連が登場し、現在までに、群馬県、山形県、新潟県、静岡県、沖縄県が合格者1500人、埼玉県、栃木県、中部弁連、兵庫県、長野県、千葉県、大分県、四国弁連が合格者1000人を決議。 また2010年度の日弁連会長選挙で、合格者を1000人から1500人とする宇都宮健児候補の主張が会員の支持を集め当選した。しかし、「合格者1000人というような『大幅な合格者数削減』という結論を性急にしかも短期間に実現すべしと弁護士会が主張することは、司法改革の後退を対外的にイメージ付けることになるとともに、現実に司法改革の進展を遅らせることとなり、法科大学院や受験生たちに与える影響も大きく、市民の理解と共感は得られにくいと思われる」――。

     要は、会内にこうした合格者減員の意見があることは承知しているが、司法改革後退ととられるし、社会的に通用しないという冷ややかな目線。結論からいえば、採用できないという話で、ほぼ前回と同文ですが、一点だけ違うところは、「大幅な合格者数削減」の前に、「合格者1000人というような」という、ここでも具体的な数値を挙げているところです。より1000人というラインに対する、はっきりした「ダメ出し」であると同時に、あえてこれを加える意味を推察すれば、1000人論への脅威の裏返しととることもできます。

     ただ、その「ダメ出し」の理由は、どうなのでしょうか。相も変わらない「通用しない」論。マスコミがどう取り上げるかという問題があっても、本質的に「市民の理解と共感が得られにくい」という前提に立つべきなのかどうか。「法科大学院や受験生たちに与える影響」を挙げるは、絶大な影響を与えている法科大学院制度を含む「改革」路線を堅持する立場での発言とみると、片面的な印象も持ってしまいます。

     政策要綱は、これまで法曹人口論議の経緯を詳しく説明する一文も、維持していますが、そのなかで日弁連の合格「3000人」方針選択も、ギルド批判などのマスコミ論調に包囲された状況での、いわばやむを得ない選択であると同時に、この方針を受け入れた2000年11月の臨時総会決議を「社会的に大きく注目を集めた」と持ち上げています。政策要綱も言及しているように、司法審内でも経済界側委員から慎重論があった、この方針をあえて押し進めた責任には触れず、一方で、マスコミ論調を意識した対応は、さも当然のような印象を与える記述になっています。

     結局、マスコミの表立った切り口だけを根拠に、よく分からない「通用しない」論が、日弁連の方針選択に大きく影響してきた、別の言い方をすれば、影響する形で使われた現実です。その手法が今日、「改革」の結果を問題視する弁護士会内の意見に対しても、また向けられているということになります。

     いうまでもなく東京弁護士会の最大派閥としての、この政策要綱の主張は、現日弁連執行部の方向と一致し、また、最大のバックアップ勢力としての宣言とも読めます。一方で、彼らは、この綱領のなかで、弁護士自治の歴史的意義を強調し、これも堅持する姿勢を表明しています。先日のエントリー(「弁護士会に『見切りをつける』会員」)で紹介した4種類の弁護士のうち、3番目のタイプの方々になるわけですが、そこで指摘したような、この「改革」がもたらす会員意識の離反が、自治・強制加入の息の根を止めることを懸念していない、そもそもそうした会員意識を直視しない姿勢に取れます。

     先日、東京弁護士会の別の会派、期成会の基本政策について書いた先日のエントリー(「東京の弁護士会内派閥がみせた『自信』」)には、「弁護士会のお偉方というのは、別に実現できる自信があっていろいろな政策を掲げているわけではなく、実現の見込みもない単なる理想論を延々と並べ立てて自己満足しているだけ」という、弁護士のそれこそ冷やかなコメントも寄せられています。


      「改革」の「ひずみ」を是正しながら、路線の堅持を掲げる彼らには、彼らの足元にある「ひずみ」と、その先に何が待っているかが、どこまで目に入っているのだろうか――。「内向きの議論に傾きがちな昨今の流れは、弁護士の意識改革、自己改革が道半ばであることを示している」という主張も維持している、この政策要綱からは、そんなことを考えさせられてしまいます。
     

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    No title

    現在の執行部って、何してるのですか。何にもしてないでしょ。いいからもうさっさと解散してほしい。

    No title

    今の日弁連会長なんて元々法科大学院擁護派の上、司法改革まんせーですよ。
    だから、前回の会長選挙で、「本気で法曹(弁護士だけ)激増を止める候補者」を当選させなければならなかったのに、あれ対これ、な訳です。もう地獄絵図ですよ。

    No title

    現会長は合格者数1500人や給費制復活を公約に掲げて当選しましたが,(その当否は別にして)宇都宮氏以上に全く何の成果も上げそうにありません。それどころか活動している様子もありません。

    No title

    宇都宮健児弁護士の名前はもう不愉快なので聞きたくないです。
    会員の期待を裏切った弁護士は二度と会長選挙に出てこないで欲しい。
    それにしても合格者1000人が性急だ?
    はぁ?何を抜かしてんの?
    もう弁護士の地位なんて大暴落して、有能な人材は目指してくれないよ。
    受験者自体が1000人になるのも時間の問題でしょ?

    No title

    この期に及んでまだこんなばかげたことを東京の弁護士(の一部)は言っているのですか?
    日弁連なんて存在意義ないでしょ。もう。
    さっさと任意加入の団体にしてしまえば良いのに。

    No title

    「(予備試験)受験資格の制限についても検討すべきである。予備試験が法曹界への最短ルートとして若い志願者に利用されているが,法科大学院の教育理念である,かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養,向上(「意見書」)を満たさなければならない。」
    http://www.hoyukai.jp/xoops2/modules/tinyd0/content/2013/mokuji.html

    法科大学院修了生にアンケートを採ってもらいたいですね。法科大学院教育が「かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養,向上」に寄与したかどうか。法科大学院を肯定的に捉えている人でも,この問いには苦笑するか沈黙するかしかないでしょう。否定的に捉えている人はさらなる絶望を感じることでしょう。

    脳内で空想するのは自由ですが,決して現実社会には出てこないでもらいたいですね。

    No title

    合格者1000人どころか500人でももう手遅れ
    東京に現実逃避のお花畑な派閥があることは知っていますよ。
    何が最大派閥かしりませんが、弁護士会内の最大の派閥は、法科大学院の息の根を止め、返す刀で日弁連の強制加入団体性をなくすというものだと思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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