弁護士という存在の隔絶した描き方

      「弁護士、頼ったことってありますか?」。こんなタイトルで、エキサイトニュースが、弁護士について取り上げています(3月10日7:00)。

      「海外の映画やドラマなどを見ていると、何か事件があるたびに『弁護士を通してください』と、ひょいひょい弁護士が登場する。訴訟・裁判沙汰・弁護士依頼……など、人生の中でも滅多にお目にかからない事だ、そう思っていた。が、最近は日本でもずいぶんと身近になったらしく、裁判所サイトの司法統計などによると一時、訴訟件数が著しく増えたという」

     こんな書き出しで始まるこの記事は、このあと大阪の法律事務所への取材をもとに、増えたのは過払い返還訴訟だけで、その他は減っているという事情とともに、大まかに弁護士を頼んだときにかかる費用を説明し、結論としては活用を促す形にはなっています。弁護士事情を知っている人にとっては、特に目にとまるものがない内容かもしれませんし、「今ごろこんな話」という感じも持たれるとは思います。

     もちろん、知識についていえば、それを周知させるために、そのレベルに応じて(あるいは想定して)、何度でも分かりやすく説明することに意義がないわけではありません。ただ、それは認めたうえで、この記事は、全く別のことを伝えているようにとれてしまうのです。

      「弁護士にお願いせず自分で訴訟を起こすなら、“本人訴訟”となる。その場合は自分で訴状や答弁書を作成しなくてはならないなど、手間も多く煩雑だ。できればないほうがいい訴訟問題。しかしいざ、何かあった時には弁護士さんに一任するのが賢そう。いざという時のために、いつでも相談できる弁護士さんを見つけておくのもこれからの時代、いいのかもしれません」

     この記事の結論部分。この認識は、極一般的だと思います。平均レベルという言い方は、印象に基づく以外できませんが、これが取り立てて少数派だとか、少なくとも弁護士という存在に対して、その認識において「劣った」市民のレベルとはとても思えません。

     できればかかわりたくない、巻き込まれたくない訴訟問題について、いざという時は弁護士に一任する方がいい、その時のために、これからの時代は弁護士を見つけておくのもいいかもしれない――。こうした大衆にとっての、弁護士の存在を、飛び越えようとしたのが、実は今回の「改革」の描き方だったように思えます。予防ということを含めて、弁護士が必要になる社会がやって来る。町医者のように、弁護士が身近になることを、社会は拍手を持って迎えるはずだ、と。しかし、弁護士という存在について、大衆の意識変革まで促すような「改革」の成功を、どこまで多くの人が信じていたのか、ということを、それこそ「今さら」のように思ってしまうのです。

     あえていえば、10年前に、「改革」路線を提唱した方々は、10年後の社会の大衆の認識が、前記したようなレベルの距離感だと想定していたのでしょうか。これは、別に10年前と大きく変わったとも思えません。要は、大衆にとっての、等身大の弁護士の存在を直視せず、大きく描いて見せた方々がいた、ということだと思います。

     そして、いまだに「社会生活上の医師」や「社会のすみずみ」論を引きずる方々は、大衆の感覚とは隔絶した社会を思い描いているように、見えてしまうのです。

      「法律専門家としての弁護士の社会的活動の場は、十数年前、法科大学院制度が準備された頃に想定されたほど拡大しませんでした」

     先ごろ、学生募集停止を発表した東北学院大学法科大学院の、学長の言葉には、こんな下りがあります。増員政策の誤算が、結局、法科大学院の撤退につながっていることを伝える、虚しい恨み節のようにも聞こえます。そして、この誤算の大きな要素として、やはり前記推進派弁護士たちの「あるべき論」に彩られた、大衆の意識と隔絶した弁護士の描き方があったように思えてならないのです。


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    No title

    >しかし、弁護士という存在について、大衆の意識変革まで促すような「改革」の成功を、どこまで多くの人が信じていたのか、ということを、それこそ「今さら」のように思ってしまうのです。

    司法修習の給費制の話になると、すぐに「国民の理解が得られない」などと主張する連中がいますが、そもそも、法曹増員自体について「国民の理解」があったのかということ自体が怪しいのです。

    普通では

    「ディスる」という表現はおかしいでしょう。現実なのですから。
    弁護士やその家族を貧困に追いやるかわりに、
    大学利権を手厚く手厚く保護する政策が取られているわけですから。莫大な血税もつぎ込み続けて。

    逆に無理して業界は明るいみたいな記事かいてたら、それこそ国策の不当性をごまかすものでしょう。

    No title

    ここの記事って弁護士業界をディスる内容にしかなってないよね。現実がそうだから仕方ないのかもしれないけど・・・
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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