弁護士会に「見切りをつける」会員

     もう随分前の話になりますが、ある親しい弁護士から、こんな風に言われました。

      「私はとっくに弁護士会に見切りをつけている」

     当時の私には、この言葉が彼の口から出たことが、ちょっと驚きでした。もちろん、弁護士会にはおよそ会活動には無関心の大量の弁護士が所属していることは、当時から分かっていましたが、彼はいわゆる人権派に属し、会の委員会活動にも積極的にかかわってきた人物だと思っていたからです。

     さらに、会の方針への不満や、それによる離脱の話は、そのころもいくらもあったのですが、彼の言はちょっと違う印象を受けました。彼は、日弁連・弁護士会という組織に期待できない、ということを私に言いたかったと同時に、まだ日弁連を拠点として考えて、いわば自分たちの手に取り戻そうという意識のもとに、その方針を批判している会員たちの活動も無駄、ということを伝えたかったのです。

     彼が、そこまでの日弁連・弁護士会の活動に対して、冷めた考えに至っていた理由は、彼が携わる人権活動における会の実力、あるいは能力そのものというよりも、端的にいって、今、やらなければならないことを実行しない、後回しにされてしまう、いわば組織の論理に納得できない、ということを通り越して、嫌気がさしてしまったというのが、正直なところだったと思います。

     前記言葉を使った文脈からすると、新聞社の記者だった私が、前記した、いまだ会への拠点意識を持ちながら、その執行部方針に反対の会員たちへ積極的にマイクを向けていることに対して、いわば忠告的なニュアンスが込められているともとれました。

      「改革」がもたらした弁護士の劇的な経済環境の変化の前に、弁護士会では、大まか・乱暴に括れば、今、4種類の人間を目にします。1番目は、増員問題をはじめ、現在の弁護士を「変質」させている「改革」を正面から批判すると同時に、日弁連・弁護士会が方針転換し、これまでのように弁護士自治も委員会活動も堅持しようとする立場。現在の執行部方針を批判しつつ、日弁連の組織そのものは、前記したような、反「改革」としても拠点として奪還する方向を目指しているととれる人々。

     2番目は、「改革」批判までは、一番目の立場と同じながら、もはや奪還は無理であり、そうであるならば「改革」が弁護士に突き付けている状況(競争、あるいは生存のたの活動)を優先するという立場。個々の認識の度合いには幅がありますが、この立場からは、弁護士自治・強制加入は不要・もしくは廃止はやむなしと見ると同時、これまで携わってきた委員会活動からも手を引く方向です。まさに、かつて私に忠告した弁護士を思い出させる、「見切り」をつけた(つけようとしている)人々です。

     3番目は、「改革」を積極・もしくは消極的に受け入れて、なおかつ、弁護士自治も弁護士会活動も、これまで通り、維持していくと考えているととれる立場。会執行部サイドの、いわゆる「主流派」といわれている人々が、これに当たります。

     そして、4番目は、そもそも弁護士会は関係ないと思っているととれる人々。もともと会務には無関心で、本心は日々の業務にしか関心がない。この中には、「改革」がもたらしている状況に不満を持ち、「改革」反対派に一部同調する人もあれば、そんなこと言っても仕様がないとして、現実を受け入れる人もいるものの、弁護士自治・強制加入制度についてもどちらでもいい、多数派が維持という方針ならば、受け入れる。少なくとも死守するなんてことは全く念頭にない人々です。

     もともと日弁連は、大量の4番目の人間を抱えてきた組織ですが、それでも弁護士自治・強制加入を守り、それでも活動拠点としての形を維持し、社会的対外的な意思表明をしてきたのは、弁護士会を「見切らない」方々の意思が、積極的にまとまり、4番目の人間を先導、もしくは黙認を引き出してきたからということができます。「改革」以前の選挙では、その時対立しても、終われば一応まとまった弁護士会の時代がありました。

     しかし、「改革」路線による対立から、1番目の勢力が、いわば「野党」的勢力として、選挙で毎回主流派と対立するととも、4番目のなかにある「改革」不満層の支持を徐々に獲得し始めました。そして、その先に、1番目の立場よりも4番目の不満層を取り込みやすい修正論を掲げた会員が、主流派候補を破って会長になり、「政権」を樹立するという事態も生まれたわけです。

     ただ、こうした中でも、とりあえず維持できてきた、弁護士会という組織に対して、今、決定打となることが起きているように思えます。それは、やはり2番目の方々が増える状況です。増員路線や法曹養成問題に対する弁護士会の主流派の「路線維持」の姿勢が続くほどに、嫌気をさすように弁護士会そのものに「見切り」をつける会員たちが増えていくという事態です。

     実は、この現象を3番目の方々が、果たして全く理解していないのか、本当に楽観視しているのか、という疑問もあります。つまり、分かっているのではないか、という推測です。分かっていて、それでも「改革」路線の旗を降ろさないとすれば、彼らの中にある、弁護士会活動や弁護士自治に対する、本音の優先順位に対する疑問が生まれて当然です。

     そうだとするならば、もはや弁護士会という組織は、風前のともしびといえるかもしれません。そして、2番目の方々の存在が、これまでなんとか自治・強制加入の旗のもとに維持されてきた弁護士会の息の根を止めることになるかもしれないということです。

     既に、ここまでのストーリーは、もはや見通せるところにきているというべきですが、本当に私たちが見通さなければならないのは、実は、そこから先です。一般市民の多くは、そんなことは考えてもいないと思いますが、弁護士会が本当に会員たちによって完全に見切られた段階で、それを生み出した「改革」と弁護士の姿勢に対する評価を下方修正しても、もはや手遅れかもしれないことは念頭に置かなくてはなりません。


    ただいま、「弁護士自治と弁護士会の強制加入制度」「弁護士会の経済的窮状」についてもご意見募集中!
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    No title

    栃木県の県庁所在地と同じ名前の某弁護士は、自分さえ良ければ良いという発想で、誰を支持基盤としたかを忘れて、会長になった途端に自分のやっていた市民運動を日弁連の名の下、全国に要請した。強大な権力を持っていい気になった、というところだろう。
    もう二度と騙されない。
    それにしても、二期目の立候補の山・対宇都・は全国の会員にしてみれば阿鼻叫喚というところだろう。
    どちらに転んでも司法の未来はないという選挙だった。

    そして、今現実に司法の未来はない。

    No title

    >でも、上記の記事で修正論を掲げた会員が旧主流派を破って当選とありますが、結局当選した奴も口先だけで、しかも二度同じ口先だけの論法で二期目再当選を狙って、会員の失望を広げました。

    >あの時点で修正に向かっていたらと思うと、失われた時間はもう二度と戻ってきません。
    会員の信頼を踏みにじった弁護士は、最初からあざ笑ってい旧主流派と同じだけの罪だと思います。

    取り巻き連中も含めて何か民主党みたいだね。
    口だけで,パレードとか意味不明なことに人的資源を浪費し,外の人達(諸外国)から奇異な目で見られて全く相手にされず,内部の会員(国内の日本人)の利益より外部の貧者(中韓)に利することばかり考え実行し,会員(国内の日本人)の失望を買って,左巻なのも,極めて似ているんだよね。

    No title

    分類で言うと私は2番ですかね。
    でも、上記の記事で修正論を掲げた会員が旧主流派を破って当選とありますが、結局当選した奴も口先だけで、しかも二度同じ口先だけの論法で二期目再当選を狙って、会員の失望を広げました。

    あの時点で修正に向かっていたらと思うと、失われた時間はもう二度と戻ってきません。
    会員の信頼を踏みにじった弁護士は、最初からあざ笑ってい旧主流派と同じだけの罪だと思います。

    No title

    日弁連を強制加入団体にしなければ良いのです。
    別に見切りを付けるつもりはありません。
    関わりたくない人まで強制参加させる必要はないのです。

    任意団体になれば、もちろん私は参加しません。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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