東京の弁護士会内派閥がみせた「自信」

     「混迷の時代に司法の灯りを」。こうしたタイトルで、東京弁護士会内の会派(派閥)、期成会が、2013年度の基本政策を発表しています。2012年度版も、このブログで取り上げましたが、昨年度基本政策のタイトルにあった、「人権の担い手として打って出る弁護士会を」という、「改革」推進派からよく聞かれるような、威勢のいいムードとは、やや異なる印象を与える今年のタイトルです(「『打って出る弁護士会』の論法」)。

     2012度年版との大きな違いは、法曹養成・法曹人口問題を直接的に取り上げていないところです。昨年は、弁護士増員政策の成果を確認したうえで、それを前向きに受けとめ、弁護士会活動の存在感を前面に打ち出す、会務拡大路線を基調としたものでした。今回は、冒頭、「法曹人口の増大を前提にした新しい法曹養成制度が機能している」という基本的な認識を提示したうえで、「『市民に身近で利用しやすい頼りになる司法』を目指した司法改革の理念を後退させず、困難な時代に司法の灯りで社会に照らすべく、弁護士・弁護士会にはその役割が求められている」とし、社会的に取り組む課題や業務対策・若手支援への弁護士会活動のあり方が中心になっています。

     内容は多岐にわたりますが、この中で、目を引いたのは、昨年具体的検討課題として挙げていた弁護士会法律相談の無料化を、さらに強力に推進する姿勢を打ち出しているところです。今回の基本政策は、会内にある代表的な無料化反対論に言及しています。一つは、本来的に弁護士としては、知的情報提供であるがゆえに有償の扱いであるべき法律相談について、間違った認識が広がること。これは確かに聞かれることですが、要は市民の認識として無料が当たり前になるというのでは困る、もしくは筋違いという話。もう一つは、法テラスに加えて、弁護士会までもが無料化すれば、またぞろ個々の法律事務所の経営・業務に影響する、つまりは「民業圧迫」という話(「『功』が上回る話の落とし穴」)。

     今回の基本政策は、次のような主張で、これをはねのけています。

      「法律相談の無料化は、弁護士の増員の中で旧来の業務スタイルでは、若手はもちろん中堅の弁護士も経済的基盤が確立できないという現状がある中で、大いに市民の中に打って出て、新しい法的需要、権利の掘り起こしを行うことを目的として検討されているものである」
      「弁護士の法律相談が、大家を要求するに値する知的サービスであることはもちろんであるが、その価値あるサービスも、利用され、体感されない限り意味はない。多くの市民に、弁護士への相談および事件の受任が自らの権利を守るために有用であることを知ってもらうためには、弁護士と市民との接点となる法律相談について無料化という方法により敷居を低くすることは、全体として見れば、弁護士業務の有償性を否定することにはならない」

      「上げ潮」路線とでもいうべきでしょうか。無料化が法的需要の掘り起こしにつながるのだからプラスだ、と。サービスは認知されない、利用されないでは、始まらないのだから、まずは無料化でその拡大。「打って出る」という威勢のいい表現が、ここで登場していますが、いわば、無料化は投資というような扱いに読めます。もちろん、無料化は会事業収入の減収にもつながるわけですが、前回基本政策が触れているように、これで相談件数が増加し、それによって直受事件が増えれば、会への納付金(東京弁護士会法律相談センターでは、事件受任は弁護士報酬100 万円以下の部分10%、100 万円超500 万円以下の部分15%、500 万円超20%プラス消費税。ちなみに現在の有料法律相談は相談料の20%プラス消費税)の増加が見込めるという皮算用です。

     しかし、これはあくまで一つの前提に立っています。つまり、有償のニーズがやはり市民の中に存在しているということです。無料化でどのくらいの件数拡大が見込めるかは分かりませんが、それによって事件受任が相対的に増えたとしても、無料から先の有償のニーズが、この皮算用が描くような、投資での損失を大きく上回るような形で顕在化するだけ、存在しているという前提です。やはり、十分に疑わしくなってきている「改革」の、掘り起こせばあるという絵に寄りかかっているようにみえます。

     無料化で敷居が低くなれば、全体として、弁護士業務の有償性否定につながらない、という見方は、正直、今、一つ意味が分かりませんが、大量の有料サービス希望者の掘り起こしで、前記反対論にある「間違った認識」にはつながらないで事が進むということでしょうか。これも、大量の有料を希望しない、あるいはそのつもりはない無料希望者の殺到を、前提としていないようにみえます。

     この東京の弁護士会の派閥が示している、ある種の「自信」を、他の多くの弁護士は、どういう風にとらえるのでしょうか(ちなみに東京弁護士会の二大派閥、法友会と法曹親和会は、これまでに発表した政策綱領では、無料化方針を打ち出していませんが)。「混迷の時代」に司法が灯りをともすという志は、分かりますが、この「改革」によって、弁護士・会自体が混迷していることの方を、やはり直視する必要があるように思うのですが。


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    No title

    >どうでもいいけど、本当にどうでもいいけど、「言動」って「行動」も含む概念じゃない?

    くだらねえ。本当にくだらねえ揚げ足取りで、内容を減殺しようとする輩
    司法改悪推進派と見た。

    No title

    どうでもいいけど、本当にどうでもいいけど、「言動」って「行動」も含む概念じゃない?

    No title

    というか、単純に暇なんですよね・・・
    単価も下がっていますし、数を増やすしかない

    No title

    法科大学院が無為徒食の間抜け教授に天から降ってきたボーナスを与えるための制度であることは万人の疑いのないところですが、問題はこういう記事とコメントがガス抜きにしかなっていないことです。
    行動する時期としても遅すぎるくらいです。
    会務は一切やらない。修習は一切引き受けない、持ち回りの理事者負担は無視する。法科大学院のエクスターンも引き受けない。弁護士会の研修も担当しない、今できることから一つずつ。
    言動よりも行動の時期です。

    単なる理想論です。

     弁護士会のお偉方というのは,別に実現できる自信があっていろいろな政策を掲げているわけではなく,実現の見込みもない単なる理想論を延々と並べ立てて自己満足しているだけです。
     「そんな政策,実現可能性ないんじゃないの?」と聞いてみても,「どうせ弁護士会の意見なんか通らないからいいんだ」という答えが返ってくるだけで,彼らに現実的な議論をさせようとすること自体が無意味なのです。

    No title

    東京も、もう派閥離れの時期でしょう。
    本当になんとかに付ける薬はないんでしょうね。
    ただの老害なんだから、これ以上迷惑を掛けるのは辞めて欲しいですね。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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