「貸与制」をめぐる思惑と現実

      「貸与制」でも、やれるはずだから問題ない、という声は、相変わらず聞かれます。「弁護士6年目の平均所得は1千万円」「返す額は月2万数千円」など、大マスコミも報じた「やれる」データや、5年間の返済猶予の話もいわれます(「『貸与制』がもたらしつつあるもの」)。

     法曹養成検討会議第8回会議でも、委員の井上正仁・大学大学院法学政治学研究科教授からは、次のような認識が示されています。

     弁護士の収入は、「法曹の養成に関するフォーラム」や弁護士会の調査結果に照らして見ても、ほかの職種と比べて低いかというと社会的に見て低いとはいえない。弁護士の間で以前より収入レベルが下がったということなのだろうと思うが、恐らく社会的にはそういうふうには評価されない。若い人はお金よりはやりがいのある仕事を求めて法曹となろうとしており、高いモチベーションを持って法科大学院に入ってくる人が、私の周りには多い。そういう人をもっともっと受け入れたい。そのためには経済的な問題もあれば就職難の問題もあるが、恐らく一番大きな桎梏は司法試験合格率である――。

     法科大学院、貸与制、就職難という法曹になろうとする人間にのしかかる経済的な問題。しかし、「やれる」かどうかよりも、「なれる」ということを現実化させられれば、あとの問題はどうにかなるという、法科大学院関係者から、時々、聞こえてくる論法です。貸与制は、現状でも「やれる」データがある、就職難は弁護士の努力、競争と淘汰も進めればよし。OJTの機会が失われるというのであれば、「継続教育」ということで法科大学院が協力することはやぶさかではない。つまり、経済的な負担論議では、ぜったい火の子を被ることがみえている法科大学院を守るためにも、「やれる」ということとともに、問題はそこではない、ということが強調されているようにとれます。

     さらに、委員の鎌田薫・早稲田大学総長からは、もっと生々しい、概ね以下のような意見が出されています。

     仮に給費制を復活すればおおむね給費分だけで100億円。1万人の法科大学院生を抱える法科大学院に対する財政支援は全部合わせても71億円。法曹界に若くて優秀な人たちが来てくれるかということを考えている、そのときに給費制が貸与制になったことが法曹志願者を激減させている、という認識があるようだが、これに数万円の経費を与えたからと言って、どれぐらい志願者が増えるかというとほとんど効果がないだろう。私立大学の場合には平均して年間の授業料は120万円~150万円だが、恐らく全ての法科大学院は大赤字。数年間百数十万円を払って,そして3回試験を受けても未修者の場合には合格率が50%を切っている。合格しないと、返還猶予などなくて、在学中の奨学金はすぐに返させられる。そういうところの障害の方がはるかに大きい。法科大学院に対する補助金を削減されれば、多分授業料は更に上っていく。入り口でかなりのリスクを引き受けながら、しかも時間とお金をかけなければいけないというところの負担感の方がはるかに大きくなる。そこよりも司法試験に合格した人たちの生活保障の方を優先させて法科大学院に対する財政支援を削減していくという方向には賛成はし難い――。

      「給費制」を復活させて、法科大学院の補助金を削減するようなことなどしたならば、法科大学院は、もっと時間とお金がかかる存在になる、だから司法試験合格者の生活保障を優先させて、法科大学院への財政支援削減をしてはならない、と。補助金カットのしわ寄せは、学生側にいくということを振りかぶっていますが、受験資格化をやめ、法科大学院本道主義を見直す、つまりは負担をかけたい人、かける価値があるという判断をした人が利用するものに転換すれば、この話の前提は一気に崩れます。

     ただ、そのこともさることながら、やはりここではっきりするのは、やはり「貸与制」という問題は、法科大学院にとって、自分たちに回って来る、お金の話だということです。どうしても「やれる」という見通しに立つということも、志望者たちの負担感の忖度も、彼らにとっては、そのことが重要なファクターになっていることを、まず、押さえて見る、あるいは差し引いて見る必要があるということです。

     彼らのとらえ方に対し、別の視点を提示している意見が、医師の国分正一委員から示されています。

      「司法制度改革関連予算が増大した、修習生が増えるから修習生に回すお金はないということで、修習生にしわ寄せがいっているところに大きな問題があると思います。司法試験に合格していながら大人になれていない、ということが非常に不思議です。かつてのインターン運動は、卒業したのだから大人のはずなのに給料がもらえない、ということから始まりました」
      「司法試験に合格していながら、いつまで借金しなければならないのか。それは受益者負担であって、いずれ儲けるのだから良いではないか、というのはおかしいと思います。いつから大人として扱うつもりなのかを国家が考えるべきと思います」
      「私は、司法試験に合格した、すなわち厳しい関門を通った時点で大人として認めるべきと考えます。法曹三者と法科大学院の四者で知恵を絞って、修習生を安定した大人として扱う方法を考えるべきです」

      「やれる」ということを証明するデータが、果たして現状を反映しているのかという問題もありますが、根本的にどういう発想に立つことが志望者を遠ざけているのか、そして、その先に本当に社会とって、望ましいものが待っているのかということを、もう一度、フェアに考え直す必要があることを感じます。


    ただいま、「『給費制』廃止問題」「弁護士の経済的窮状」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    まあでも、その事例は弁護士に相当問題がありますよ。
    最低限の処理が出来ないなら、法テラス案件だからと言って受けるな、という感じになるのでしょう。
    依頼者に非はないですね。

    No title

    >つい最近、法テラス案件の弁護士が普通にやったら弁護過誤という事案を耳にしました。
    法テラス案件でも弁護過誤だろうと思うのですが、もらっている金額を考えれば一概に非難するのもどうかという気もしますが、でも、支障がなければ、早く処理した方が手間は掛からなくて済むんですけどね。

    法テラスは客筋にも問題があるので,通常のケースと同列で弁護過誤といわえるといろんな意味で辛いですね。お近づきになりたくない人には法テラスを紹介して難を逃れているのですが,誰かがその人の面倒を見ているのかと思うと胸が痛みます。

    No title

    「やれるはずだから問題がない」というのは、日本語として意味をなしていないのですが。
    「やれるはず」も「問題がない」もその人の意見の部分で、理由づけがないのです。
    つまり「なぜ」の部分が抜けてます。
    「なぜ」やれるはずなのか、「なぜ」問題がないのか。
    つまり、理由があって結論があるのに、結論だから結論だと言っているだけですね。
    もし、本当に司法制度改革検討会議が「やれるはずだから問題がない」と言っているなら、小学校の国語から始めるべきでしょう。

    No title

    つい最近、法テラス案件の弁護士が普通にやったら弁護過誤という事案を耳にしました。
    法テラス案件でも弁護過誤だろうと思うのですが、もらっている金額を考えれば一概に非難するのもどうかという気もしますが、でも、支障がなければ、早く処理した方が手間は掛からなくて済むんですけどね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR