問題を突き付けるべき対象

     司法試験に合格して、一日でも早く法曹になって、実務能力を身につけた方が得策か、それとも法科大学院というプロセスでしっかり学ぶのが得策か――。今の法曹養成の現実を挟んで、評価が分かれているようにみえる二つの意見。ただ、見方によっては、この二つのやりとりは、同じ土俵に乗っていないということもできます。

     つまり、志望者・利用者の観点に立つほどに、前者の立場が理解されやすくなり、法科大学院制度の意義、「改革」理念のうえに、これを貫徹することが正しいという、「改革」推進者の見方に立つほどに、後者の立場が正しいことにもなってしまう。どちらの土俵に立って、議論をするのかの話です。

     もちろん、形のうえでは、二つの土俵は存在しない、この国の「あるべき法曹」にとってどちらがふさわしいのか、という一つの土俵ということになるかもしれません。ただ、現実的には、この切り口で、前記分かれる二つの評価に、現段階で決着がつくとはとても思えません。抽象的な「あるべき法曹」にどちらが近いのか。

     これをはっきりさせようとすれば、二つの方法しかないように思います。つまり、現行プロセスを経ないで、一発試験で法曹になった現役が、全体的に「あるべき法曹」として不十分と位置付けられるか、それとも現在のプロセスが、実績として、「あるべき法曹」と位置付けられる人材として輩出してみせるかです。プロセスなき法曹養成を経た法曹が、この社会にとってなんとかしなければならない欠陥品ならば、プロセスの必要性は万人が認めるものとなるかもしれません。一方、プロセスがはっきりした実績を提示できないのならば、いくら理念、理想を掲げても、この話に決着がつきますし、実績を提示できれば、そもそも志望者・利用者自身が、前者のような考えを捨て、積極的にプロセスを支持するはずです。

      「予備試験」をめぐる対立的な意見が交わされた法曹養成検討会議第7回会議は、改めてそのことを考えさせられます。予備校が最短最速コースとして喧伝している現実。経済的事情等から法科大学院へ行けない人たちのためのものという趣旨から外れている、という主張。「改革」が描いた法科大学院本道主義を維持するためには、受験制限を含めてなんとかしなければならないという意見。旧司法試験の受験勉強偏重の弊害克服という目的をいう意見。これは早く実務家になる方が社会的な価値があるとする判断であり、法科大学院の現状からすれば、予備試験を制限したからといって法科大学院入学者が増えるわけでもないという意見。法科大学院本道主義の脅威となり得るものだが、まだ2回だから、直ちに制限などせず、もう少し様子をみようという意見(日弁連サイドのご意見は、やはり「予備試験」には冷ややか)。

     要するに問題を突き付けなければいけないのは、本道主義に脅威を与える予備試験なのか、それとも社会的価値としての評価が伴っていない法科大学院の方なのか、という話に、どうしても見えてしまうのです。法科大学院側の、いわば自覚次第で結論は全く変わってくるのではないか、と。これは10年前に掲げた「理念」が依然正しいことを主張するうえでも、ある意味、その方法の適切さにかかわるように思うのです(「新法曹養成の欠落した『視点』」 「法科大学院への『評価』としての予備試験結果」)。

     こうしたなかで、和田吉弘委員が興味深いこと言っています。

      「私は予備試験がむしろ法科大学院制度を支える機能さえ果たすように思います」

     法学部を卒業しただけでは既修者コースには入学できない。当初は大半は旧司法試験チャレンジ組で、法学部を中心に大学在学中あるいは大学卒業後に、旧司法試験の合格を目指して勉強した人たちで同コースの人材が確保されていた。ところが、現在ではその旧司法試験制度が終了したので、既修者コースに入学できるだけの法律の力を付ける機会となるのは、予備試験とその先にある司法試験の勉強しかない。現在、法学部生が卒業と同時に既修者コースに入学できるような教育が残念ながらなされていない以上、予備試験と予備試験経由での司法試験の受験勉強をした人が、重要な既修者コースの人材供給源ということにならざるを得ない。予備試験の受験資格を法科大学院への入学が極めて困難な事情のある人のみに限るとした場合、「予備試験の合格と法科大学院への入学との両方を念頭に置いて、とりあえず予備試験の合格を目指して勉強する」という人もほとんどいなくなる。既修者コースに入学させるに足りる人材も十分集まず、他方の未修者コースの教育はもともと問題が多く、法科大学院制度を維持は困難になる――。

     法科大学院を存続させるのであれば予備試験と共存するしかない、というのが、和田委員が指摘した、前記脅威を感じていらっしゃる方にとっては、皮肉な結果です。

     しかし、これとて現実を直視するかどうかの問題です。志望者・利用者の視点と、「自覚」がなければ、こうした現実もまた、スル―されていくように思えます。


    ただいま、「予備試験」「受験回数制限」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR