「顔が見える」弁護士会の功罪

     弁護士の不祥事がマスコミに取り上げられることも、すっかり珍しいことではなくなりました。お茶の間の反応も「えー弁護士さんが?」という反応では、もはやなくなっているのではないか、とも思ってしまいます。

     弁護士会内では、これまでよく、こうした弁護士の不祥事は、東京、大阪など主に大都市の弁護士によるものだ、という意見が、特に地方の弁護士から聞かれました。

     以前に書きましたように、日本の弁護士ははっきりとした大都市集中型の分布傾向を示し、6000人以上いる東京弁護士会から50人の旭川弁護士会まで、規模に大きな開きがあります。東京にある三つの弁護士会と大阪弁護士会の上位4会の会員数で、全国弁護士のほぼ6割を占める一方、200人未満の会員数の弁護士会が、全国52会中の6割に当たる32会に及んでいます。

     弁護士不祥事も、こうしたと都市偏重型の分布を反映し、またより経済活動が活発なところで発生しているとの見方がありますが、前記地方の弁護士の言い分には違うものがありました。

     それは、「地方会は会員の顔が見える」というものです。要するに人数の少ない弁護士会では、会員同士が顔みしりで、お互いの相互監視が働くが、大人数の弁護士会では、それができないから不祥事を招きやすいのだ、というのです。基本的に、資質の問題でもありますから、これが実際にどのくらいの効果があるのか明言はできませんが、確かにそうした環境の違いは否定できません。

     以前にも書きましたが、弁護士会の自治は、会による会員の指導・監督という形での自浄作用を期待されてはいますが、会員相互監視による自浄作用という意味では、前記地方会員のいう形は、ひとつのあるべき形だったのかもしれません。

     かつてこの話が地方の弁護士の口から出る時は、「都市の弁護士の不祥事によって、弁護士全体の評価が下がる」といった、迷惑視するような響きが伴っていたものでした。

     しかし、一方で、「顔がみえる」地方会の状況の、思わぬ弊害を指摘する見方もあります。

     小さな弁護士会だと、ほとんど全会員が顔みしりという状況のなかで、紛争の当事者となった市民が、戸惑う場面があるのです。地元で弁護士を探せば、敵対する相手側の弁護士と、こちらの弁護士は顔みしり、もしくは仲のいいお友達。それでも、弁護士が法律家としてり割りきって仕事をすればいいだけですが、実際はそれ以前に腰がひけて、ファイティングポーズがとれない方もいらっしゃるようですし、受任後も、市民に「癒着」をうかがわせる例もなきにしもあらずのようなのです。

     こう書けば、いつもながら「うちはそんなこと絶対ない」という反論が出てきそうですから、あらかじめ言っておきますが、もちろんすべての地方会会員がそんな状態であるわけがありません。

     ただ、現実にはそうした地域事情を勘案して、市民があえて隣県の弁護士を選んだり、わざわざ東京から呼びよせたりという実態があります。さらにいえば、そうした地域の弁護士が、裁判所や行政と深くつながっていて、さらに市民側がやりにくさを感じるケースもあります。

     知人にもいました。ある地方で行政を相手にした訴訟を起こそうとしましたが、行政側の弁護士と地元の弁護士会メンバーは全員顔みしり。なかなかその人を相手に闘いたがらない。とてもこれでは勝負にならないと、知人はわざわざ東京から弁護士を呼びました。

     もちろん、彼らからすれば、不当に依頼を拒否したわけではない、と弁明されると思いますが、少なくとも市民がそう感じてしまう時点で、ある意味「アウト」だと思います。

     もっとも、前記知人のケースでは、その東京から駆けつけた弁護士も、なぜか、あっと言う間に戦意を喪失しました。事案が手に負えなくなったのか、それとも、さらに修習や派閥、学歴などさまざまな人間関係が交錯している、弁護士界の「村社会」の論理の方が働いたのか、それは分かりません。

     ただ、このケースですっかり弁護士そのものに失望した知人は、その後、弁護士をつけず、本人訴訟で闘い、見事、行政に勝利しています。

     ところで、今、進行している弁護士の増員は、こうした状況に何をもたらすのでしょうか。あるいは「顔がみえる」ことの「罪」の方が消えていくと同時に、「功」の方もまた消えていく。こんな見方もできてしまいます。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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