「弁護士の論理」が伝えている真実

     昨年12月5日、長野県の若手弁護士でつくる「信州増員反対会議」(宮井麻由子代表)主催の、ある興味深い試みのイベントが長野市の弁護士会会館で開かれました。「尋問型パネルディスカッション」。同会議の若手弁護士3人を「証人」と位置付け、彼らに対する尋問形式で、問題を浮き彫りにしようとする企画です。当日は、どうしてもスケジュールが合わず、私はこのイベントに出席できなかったのですが、先ごろ同会議がまとめた会議録で、そのやりとりを把握することができました。

     証人登録7年目と1年目の勤務弁護士と、7年目の独立弁護士で、同会議のメンバーですが、特別や知識・経験があるわけではない「そのへんにいる若手弁護士」(宮井代表)。それに対し、やはり同会議メンバーの弁護士が、主尋問と反対尋問の、それぞれ尋問者となり、3人の体験に基づく話を引き出す形です。

     全体的に地方若手弁護士のナマの現状を知るうえで興味深いやりとりがなさているのですが、やはりみどころは、3人から現状と増員反対の理由を引き出した主尋問に続く、増員推進の立場に立って、彼らの増員反対意見に突っ込む反対尋問です。実は、宮井代表から以前、この反対尋問役には、「市民目線」という趣旨から、地元報道関係者が当たると聞いて、これもどういう展開になるのか興味を持っていましたが、先方の事情で実現できず、結果、この役も同会議メンバーが、当たることになりました。

     彼も会議のメンバーですから、この日限りは、意に反して増員推進派に頭を切り替えて突っ込んでいるわけですが、さすがに的確に推進派がよく持ち出す切り口を再現しています。

      「弁護士増員によって公益活動のパワーが減少する」といっても、増員で担い手の総量は増えるじゃないか。公益活動をして名を上げれば集客にもつながり、その意味でも自由競争が働き、公益活動が発展するのではないか。世の中には経済的観点度外視でボラティアをやっている人がいるのに「経済的余裕がないからできない」というのは、志の部分での弁護士の質が低下してきていることか――。

     まず、反対審問者は、まず、増員が弁護士の公益活動に影響するという言い分に突っ込みます。すべてを再現しませんが、これに対して、次のような趣旨の答弁かなされています。

     ○ 給費制が打ち切られ、かつ、弁護士になってから「自由競争でやれ」といれている弁護士の心理、物の考え方、スタンスは変化する。自由競争として割り切り、「国の世話にはなっていないからビシネスでやりたい」という弁護士し、マインドがあっても経済状況が許さないということもある。増えたから全体としてOKという算数のような議論にはならない。
     ○ 勝ったら有名なりお客さんが集まる、ということはあるかもしれないが、「勝てないだろうけれど、やらないわけにはいかない」という公益性がある事件もある。単純な勝訴率・敗訴率で弁護士の優劣を論じることができないのは、弁護士や裁判官ならば皆分かっていること。逆説的に言えば、「敗訴率が高い弁護士」「負けると分かって事件を引き受ける弁護士」がいなくなるということの方が深刻
     ○ 無償でも困っている人を助けるという、多かれ少なかれ先輩弁護士これまでやっていた活動を増員弁護士ができる状況か。
     ○ 経済的利益を追求せずボランティアをする気持ちは、自由競争によって、弁護士の中から消え、自分の生活を守るために依頼者を食い物にしたり、高額な報酬を請求したりすることが出でくるという意味での質の低下はある。

     しかし、反対尋問者はさらに突っ込みます。

     悪質な弁護士の出現は一時的な病理現象で、自由競争によって淘汰され、国民は安く、より質の良い弁護士に依頼できるのではないか――。

     ○ 人件費、家賃など事務所のコストがある。現実には仕事を取り合う状況あり、コストについて数少ない依頼者から多く取る必要が出できて、報酬は安くなるどころか逆に高くなる。人の権利を守るために必要な労力、時間に対し、人間の能力には限界があるので、薄利多売化は期待できない。
     ○ 自由競争で淘汰されるのは、営業が苦手な弁護士だが、そういう人が弁護士としての能力がないとは絶対いえない。自由競争で淘汰されるのは、果たして質が悪い弁護士か。

     それは弁護士の論理ではないか。「相談料無料、着手金無料」という広告を見かけるが、国民にとって、安い弁護士に依頼する道が開けてきたのではないか――。

     ○ 無料はお客さんを呼び込みやすくするもの。しかし、弁護士側からすれば、帳尻をあわせるために成功報酬の率を上げる必要があり、実際にそうなっていることが多い。市民にはこうした構造が分かりにくく、契約に呼び込まれ、後になって解決時に高額な請求をされることになってくる。弁護士による消費者被害ということさえ起こりかねない。
     ○ 弁護士の優劣を普通の依頼者は判断できない。医師も同じだが、なぜ、安心して自分の命や健康を預けているのかといえば、医師免許という制度があるからで、弁護士も同じ。両者が体験的に優劣を把握できる商品と、弁護士の仕事は違う面がある。

     こうしたやりとは、このブログをこれまで読まれてきた方ならば、既に分かっているということかもしれません。ここでも、何度となく、いろいろな形で取り上げてきた増員政策をめぐる負の影響です。しかし、その一方で、これを取り上げるに値しないこととする人々からは、この反対尋問者が口にしたように、「弁護士の論理」と烙印されてきたものでもあります。

     ただ、これが果たして本当に「弁護士の論理」なのか、その基本的なことに目を向けてもらうことこそ、こうした弁護士有志の試みの狙いであり、意義であるように思います。大マスコミが、「保身」という切り口で片付け、背を向けようとする、その弁護士の主張のなかに、本当に市民が直面する問題が潜んでいることを、何度でも粘り強く社会に提示していく必要があります。


    ただいま、「弁護士の競争による『淘汰』」「弁護士の質」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR