「どころではない現状」のとらえ方

     メディアが弁護士の経済的窮状を、「異変」として取り上げた記事を目にするのも、いまや珍しいことではなくなりましたが、その内容は以前より弁護士の現状について厳しいとらえ方なってきていることに気付かされます。別の言い方をすると、救いがない。以前は、厳しい環境の羅列に続いて、果敢に取り組む弁護士たちの姿、例えば新分野にチャレンジしたり、業務を工夫している、いわば士業努力を取り上げて、その可能性、将来性を示唆して終わる形がほとんどだったわけですが、どうも徐々にその部分のトーンがあやしくなってきているような印象があります。

     もっとも、そのほのかに明るい展望で締めくくる部分については、そもそも業界内では、あまりうけがよくありませんでした。一部のチャレンジャーや、それなりの成功者を現状にあてはめることに、よそよそしさを感じる弁護士は少なくなかったのです。彼らの努力は認めても、それで問題は解決しない、と。経済誌の記者のなかに、意外なほど「改革」に対する疑問や批判的なスタンスをみることもありましたが(「遮断されている『改革』疑問視の論調」)、少なくとも可能性を示すような締めくくりも、もはや置きにくいくらいの認識は、あるいは広がってきているのではないか、と思えます。

     雑誌「プレジデント」2012年12月3日号が掲載した弁護士業界を取り上げた記事は、そんな印象を強くさせるものです。タイトルは「年収70万円以下? 客の金に手を出す貧乏弁護士の懐事情」(PRESIDENT Online)

     司法改革での弁護士急増と過払いバブルの終焉で都市部の弁護士にも経済的窮乏が顕在化し、大手事務所でも給与遅配。軒弁、アパ弁、ケータイ弁の存在。2009年には東京を拠点とする弁護士の3割がいるという国税庁統計結果。割に合わないとされてきた国選に、背に腹は変えられず殺到する弁護士たち。会員を経済的に圧迫している高額の弁護士会費。こうしたなか発生している顧客の金の使い込み。集客ソースとしての法律相談の激減。そして、結果として弁護士の頭を押さえつけることになっている法テラス――。

     弁護士を取り巻く現実を網羅的に直視していますが、じゃあ、どうだという話も、それでも頑張って、なんとかする弁護士の話も出てきません。「やる奴はやる」という印象を読者に強く与える、そうした弁護士を登場させる形は、もちろん「改革」に対しても、結論として肯定的なメッセージを送っているととれるものがほとんどですが、この記事は少なくともそうしたものではありません。

     代わりにこの記者は、弁護士が「法務省の管轄である法テラスの“犬”と化して」いるとする若手弁護士のコメントをあえて引用したうえで、最後にこう括っています。

      「貧すれば何とやら、在野精神どころではない現状をどう打開する?」

     ここで「在野精神」という言葉を目にすることに、意外な驚きを感じます。いまや弁護士の間でも、気かなくなりつつあるこの言葉を、この文脈でみれば、直接的には、現在の法テラス体制ともいえる状況に対し、本来、もっと問題視していていい弁護士のスタンスを浮かび上がらせますが、もう少し目を離してみれば、「改革」がもたらしている現状が、根本的に弁護士を変質させていることを許すのかと問い掛けているようにもとれます。

     もっとも、「在野精神」という言葉が、多くの弁護士の心に響くワードでなくなっているとすれば、それに続く「どう打開する?」という投げかけは、無意味であり、人によっては時代錯誤という評価になってしまうもしれません。弁護士=在野精神を当然のものとしてとらえているようにみえる、この記者のとらえ方は、逆に弁護士に肩透かしをくらう形です。

     多様なニーズに必要な多様な弁護士を大量に生み出すことを目指した「改革」の結果としての、前記弁護士の現実。その「改革」の可能性、将来性を挙げた方向を指さす代わりに、弁護士に投げかけられた問いかけのなかに、現れた「在野精神」――。むしろ、「改革」の現実があるがゆえに、弁護士が「在野精神どころではない現状」を打開の対象どころか、当然のごとく、受けとめかねない今、「本当にこれでいいのか」という問いかけは、弁護士だけでなく、私たち社会がもう一度受けとめるべきことのように思えます。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR