新法曹養成の欠落した「視点」

     法科大学院を中核とする新法曹養成制度に「利用者」の視点はいらない。利用したくなければ、どうぞご勝手に――。いまさらいうのも変ですが、法曹養成制度検討会議第8回会議の和田委員提出資料にある「ビギナーズ☆パブコメ」自由記載の志望者たちの声を読むと、そういう制度であるという現実を改めて感じます。

     現実的に考えて、およそ「利用者」に経済的時間的負担を求めるものについて、利用してもらいたいと考える側に、その視点がないということの方があまりお目にかからないわけで、その意味では、「致命的」という評価をされる人もいると思います。

     ただ、制度がそれを出来ている(出来ると思ってしまっている)、その最大の理由は、それが司法試験という国家試験の「関門」とつながって存在しているからにほかなりません。つまり、「門番」の論理。「門番」にかかわる制度であることで、「利用者」の視点がないことの責任を転嫁できる。経済的な負担がいやならチャレンジしないことも、経済的に無理だと思って途中で断念することも、司法試験に合格できる教育を施してくれると思ったのに合格できなくても、1000万円の借金を背負って「三振」の憂き目にあっても、それらはすべて志望者側の自己責任で。結果を出せるか、はたまた出したいかは志望者次第。そして、法科大学院として言わせてもらえば、どちらかというと悪いのは合格させない司法試験の方で、われわれは、「理念」実現のために一生懸命やっているし、そういう大学もあるんですけどねえ――と。

     こういう考えで、基本いけるという自信が根底にあればこそ、法科大学院関係者が「詐欺的」で「ちっっとまずい」けど「詐欺ではない」なんてことを、平気で言えてしまうのだろうと思います(法曹養成制度検討会議第5回会議議事録)。そして、そこには「貸与制」「受験回数制限」を含めて、全体として過酷な負担を強要する「利用者」の視点がない制度であっても、司法試験にチャレンジする「利用者」はなくならないという高をくくった認識が存在し、それを支えてきたことも事実だと思います。

     こうとでも考えないと、前記自由記載から見えてくる法曹志望者残酷物語の現実を、理解し切れないのです。

     ただ、もう一つ重要なことを志望者の声は教えてくれています。「利用者の視点」と書きましたが、法科大学院を中核とする現在の法曹養成制度は、果たして法曹養成の視点には立っているといえるのか、ということです。自由記載なかには、社会的弱者のための弁護士を目指そうとした志望者たちの断念する声がみられます。合格しても借金の返済に追われ、やりたくてもできない。もちろん、この現実は、それがゆえに、そもそもこの世界を断念する、沢山の声なき声の存在を当然想像させます。

     これがこの国の法曹養成として、どういう損失であるのか、そのことによって、どういう法曹がこの社会に残り、その結果、今度は司法を利用する国民にどういうしわ寄せがくるのか。そのことを、この制度は、果たして考えているのかということを、やはり疑いたくなってくるのです。

     前記自己責任の妥当性ついて評価が分かれ、制度が「門番」の論理に逃げ込んで、たとえどんな残酷物語があっても「利用者」の視点はいらないということになったとしても、この声の向こうには、私たちの社会にかかわる、重大な視点の欠落があるように思えてなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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