「国会通過」という御旗

     2009年5月の裁判員制度スタートを控えて、その制度を問題視する側から出された延期論あるいは中止論に対して、それを批判する側からしきりといわれた論調がありました。

      「国会を通っているじゃないか」

     国民の代表が2004年にほぼ全会一致で法律を通している、その正統性を強調するもので、私がインタビューした司法制度改革審議会事務局長を務めた樋渡利秋検事総長(当時)は、このことを踏まえて、裁判員制度を「民主主義の申し子」とまで言っていました。

     ただ、一方で、その代表たちが果たしてこの制度の問題性を認識していたのか、そのことを疑いたくなる話はいくらも聞こえてきます。国会議員の裁判員制度勉強会に講師として出席した法律家は、制度の実像を初めて知ったような、出席議員の反応に驚いていました。法律施行直前には、超党派の議員連盟も発足。思想・信条による辞退が認められないことなど問題点を指摘し、延期・修正に向け運動をしています。施行日に開かれた議連総会に出席した議員の発言にも、こんなものが見られました。

      「(裁判員)法案を通してしまったことを反省している。国民の代表として私達が責任を果たしているのか問われている」
      「凍結法案は提出できなかったが、国民の多くが望んでいない制度を押し付けるのは問題だ。全会一致で通ったことでも勇気を出して見直していきたい」
      「多くの国民が理解していないものが一方的に実施されていいのか。立法府の一員として責任を感じている」
      「一般の方も『12の論点』のような疑問を持ち、おそれも抱いている。そういう声に応えたい」

     そもそも国民の関心が高いとはいいにくい司法改革のメニューのなかで、裁判員制度は国民がはっきりと背を向けた制度でした。法律成立直後の2005年内閣府の調査でも、積極・消極を含め、7割の国民ははっきりと「参加したくない」という意思を示し、2009年の調査でも、「義務ならば仕方がない」が6割で、3割近くが「義務でも行くつもりがない」という回答でした。それこそ、前記出席議員の発言の方が、国民の意思をくみ取ろうとしているようにみえる話です。一方で、こうした状況で聞くのが怖いのか、「強制してまで必要だと思うか」という問いかけは、同調査でただの一度もされていません。

     国会を通っているという民主的な正統性の主張をいくら重ねても、裁判員制度の導入が、前記代表たちの認識も含め、「国民の選択」「民主主義の申し子」とくくりきれない実態を持っていることは、紛れもない事実です。

     実は、当時、弁護士同士の間でも、このことで意見が割れています。自由法曹団のなかでも、ある団員が機関誌上で、国会が一度決議した制度について、無期限延期は「無責任」と主張。これに対し、別の団員は延期、廃止、延期なしの見直しのいずれを求めるかは、法律の内容の価値判断によるべきで、国会決議の有無によるべきではないと反論しています。

     もともと国会を通っていることを錦の御旗のようにいう言い分は、制度を正当化する与党側の言い分として、問題を提起する弁護士会や弁護士グル―プが対峙する形になるのがパターンだったわけですが、裁判員制度では、制度推進派の弁護士がこの主張を掲げています。前記反論した自由法曹団の団員も、「これまでも団は一度成立した法律の即時廃止を求めて戦った歴史を持つ」ではないか、と主張していました。

     今でも、時々、裁判員制度について、「国民の選択」だという弁護士の主張に出会うと、正直、違和感を持ちます。国会を通っているということが民主主義社会で重たい事実であったとしても、それをもって弁護士が、前記代表たちの認識も含めその「選択」の実態が本当に「民意」の反映と言えるのかや、強制の現実に目をつぶり、錦の御旗を振る側に回るということで果たしていいのか、という思いです。むしろ、弁護士であればこそ、そこはこだわりどころとして、筋を通すのも役割と思ってきたのですが。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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