「給費制」への国民理解

     先日、京都弁護士会主催で行われた貸与制移行の現状を検証するシンポジウムで、新64期の新人弁護士が語った次のような言葉が、武本夕香子弁護士のブログで引用されています。

      「法科大学院は、修習の代替にはならない。なぜなら、法科大学院生は未だ司法試験に受かっていない人たちであり、これから司法試験に受かるかどうかも分からない、まずは司法試験に受からなければならないといった状態に置かれているので、法科大学院教育で実務家法曹の教育をされても地に足がつかず、身につかないから」

     これは当然と言えば当然の話であり、多くの人間が容易に理解できることだと思います。新法曹養成の中核と位置づけられ、その教育に「理論と実務の架け橋」といった言葉があてがわれた法科大学院ですが、法曹の資格取得もおぼつかない状態で、その先の実務教育を施すという「無理」な建て前を抱えているのが現実です。逆に言えば、やはりこの制度で基本的には資格を取得できるという前提が、いかに、こうした現実を想定させない制度であったのかも、いまさらのように分かります。

     その意味でも、武本弁護士も指摘する通り、やはり法曹養成の中核というべきは、資格取得後の司法修習ではないのか、ということになります。そして、だからこそ、司法修習期の法曹教育に税金が投入され、しっかりした教育がなされるべきで、経済的強者の立場ではなく、弱者・少数者の立場に立つ法曹を生み出すためにも、「給費制」という存在は、社会の人的インフラとしての法曹養成を支えるものとして必要である、というとらえ方にもなります。

     このこと自体も、実は国民に伝わりにくい話とは思えません。そもそも法曹の卵に国費が投入されてきたという事実を知らない国民も少なくなかったとはいえ、「給費制」不要論が国民のなかに強く存在してきたというわけではありません。それを廃止論者をして、「給費制」維持は「国民に通用しない」と繰り返し強弁することになった、その最大の根拠は、いわば「弁護士」という存在だったといっていいと思います。

     民間の事業者となる弁護士を国費で養成すること。これが一種の不公平として国民に提示されたのが、「給費制」廃止議論の一つの側面でした。新人弁護士を採用し、利益を上げるのは、同業の弁護士であるという理屈からすれば、企業が自らの社員養成に自腹を切っていることも重ねられます。それは、あたかも弁護士の公共的な性格、あるいは対権力的性格よりも、私的に利益を追及し、儲けているサービス業の顔を暴くことで、この不当な慣例をやめさせるという風に描かれたものだったともいえます。

     ただ、問題は、前記したような本来的に中核になるべき法曹養成とそれを支える「給費制」の意義、さらにそれが失われるデメリットが正しく伝えられたとき、国民は果たしてこれを本当に「不当な慣例」として排除することに賛成するのだろうかという疑問を持ちます。法科大学院が法曹養成の中核を担うという建て前の制度のなかで、司法修習生への税金投入がカットされて、この国の法曹養成にとって何かいいことがあるのか。その疑問も、いまや決して国民に伝わりにくいものではないはずです。

     一方で、弁護士が競争のなかで拝金主義に走り、さらに不祥事を起こす、その姿が社会に伝われば、弁護士という存在が、逆に「給費制」復活の足を引っ張るものになるかもしれません。これも「改革」がもたらしている現実ではありますが、弁護士はその影響の大きさを十分に自覚する必要があります。

     ただ、それでも、法科大学院をあくまで法曹養成の中核にし、法曹の卵からから「給費制」を奪う、その先に待っているものが、果たしてこの社会と大衆にとって望ましいものなのか。大マスコミが背を向ける、その国民への問いかけは、何度でもなされていいと思います。


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    No title

    いっその事,全部元に戻せばいいんじゃないですか?
    民主党時代の政策を否定し,昔に戻すこともできるのですから。
    やろうと思えばできるでしょうよ。
    合格者500名,ロー廃止,給与制復活,司法研修所は修習期間2年etc。

    ただし,消費者が今後将来,弁護士被害に遭遇しないようにするために,弁護士に,旧司法試験合格者orロー合格者の表示義務,及び,修習期の表示義務を課したらどうでしょうか?
    あとは,依頼者が誰を選ぶかは自由という制度にすればいいのではないでしょうか

    No title

    ボランティア活動?公益活動?そんなことをしている余裕がある人だけがやればよいのです。
    司法改革を推進した弁護士が、自分の年収がロー卒業生と同じになるまで、私財をなげうって生活保障でも雇用でもなんでもしたら良いんじゃないでしょうか。
    新規弁護士登録予定者の就職先がありません、などという回覧を送ってくるな。
    そんなことは分かっていて司法改革だ、法曹一元だほざいたのではないのか。

    No title

    民事扶助や国選弁護は罰ゲームではありません!
    ボランティアを義務化して受け入れ先が迷惑しているように嫌々仕事をされたのでは扶助や国選の依頼者が迷惑します。

    No title

    司法修習期間の給付制をある意味復活させて、弁護士登録後、民事法律扶助制度と国選弁護制度の弁護報酬をポイント方式で消化・返済していくシステムを導入するか、余裕のあるビジネスロイヤーには一括または分割での出世払い方式を選択させればよいのでは。
    また、今から10年以上前の司法制度改革審議会が開催されていた時、当然アメリカの「プロボノ制度」なんかは俎上に登ったはず。自分達の利益のためにそれを揉み消した罪は大きいと思いますよ。

    蛇足ですが

    それによって利益を得ているのは誰かという点、利益を得ている団体メンバーが多数を構成している「会議」で法曹養成制度を論じるのがフェアなのかという点、についても、改めて問いかけがなされるべきだと考えます。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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