「余裕」が支える法科大学院

     以前、司法改革と法曹養成がテーマとなっていた市民集会で、法科大学院を経た修習期が異なる3人の若い弁護士が参加したミニパネルディスカッションが組まれていました。本音の部分で、彼らがこのプロセスを振り返って、どう思っているのか、どのくらい実務に役立っている、あるいはいないと感じているのかなどを、聞き出したいというのが、主催者側のそれこそ本音でした。

     その期待感からすると、コーディネーターとのやりとりは、やや淡々としたもので、少なくともこのプロセスに対する強い不満や問題性が強調されることはないものでした。印象としては、可もなく不可もなくという感じとともに、制度として、それを経て現在弁護士になっているという立場が、発言に反映している感じもありました。

     ただ、このディスカッションの最後、法科大学院の行く価値ついてどう思うかをふられ、各人が語る場面で、3人のうち1人が、こう語りました。

      「おカネと暇がある方は行った方がいいと思います」

     小さな笑い声とともに、「えっー?」という感じで、会場がどよめきました。まるで、オチのように、法科大学院という存在を評価するうえでの、決定的なテーマが最後の最後に提示されたようにとれました。おカネと暇がない方、要するに余裕がない方には、お薦めできないという反対解釈が、会場をどよめかしたことは間違いなかったのです。

     先日開催された「地方・夜間法科大学院シンポジウム」のコーディネーターを務めた菊間千乃弁護士が、その感想を述べている彼女のブログでの発言について、「Schulze BLOG」が取り上げています。地方・夜間法科大学院が必要とする彼女の立場は理解できても、看過できない点があると。それは、以下の点でした。

      「旧試は自分のペースで勉強ができたのに、ロースクールは時間もお金もかかって、面倒くさいという声を旧試経験者の社会人からはよく耳にしました。私の場合は、強制的に授業に出なければならないという環境を作らない限り、仕事を優先し、気づかないうちに勉強がおざなりになっていっただろうなぁと思うので、つくづく『面倒くさい』ロースクールがあってこそでした」
      「お試し期間として働きながら通える夜間は十分存在意義があると思いますが、そもそもお試ししてみようと思ってもらえないようでは、入り口を広げたところで意味がないので」

      「Schulze BLOG」氏いわく、「面倒くさい」かどうかの問題ではないのだ、と。ロースクールに行きたくても行けない、進学できる環境にない人たちがいる、ということが問題であり、そうした道を断たれている人のことが、菊間弁護士の目には入っていない、という指摘です。「お試し」などという考えは危険で、おカネや労力の負担を考えれば、とてもこんな生半可な気持ちで進学すべきではない、としています。

     この菊間弁護士の発言と「Schulze BLOG」氏の指摘をみて、結局は「余裕」ということか、と思いました。「ロースクールは時間もお金も」かかる存在という認識は共有されていても、「面倒くさい」と受けとめられるのは、それが決定的なハードルにならない人であり、それが「あってこそ」弁護士になれたと感じ、「お試し」でもいいじゃない、と言えてしまう菊間弁護士は、「持てる者」なのだ、と。

     そして、これはそもそも法科大学院が、現実的にどういう前提条件によって支えられているのかを端的に示しています。「持てる者」が利用できる制度、価値を見出す制度。果たして、「改革」の、この現実が十分に社会に伝わっているのかは疑問ですが、もし、それでいいというのであれば、話はそこで終わります。ただ、その場合、それが今後もたらし続けるものについては、当然、覚悟しておかなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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