保釈保証書に冷やかな米国司法の現実

     ここでも度々取り上げてきた、日弁連が構想し、全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が事業化を検討している保釈保証事業(「潜行する日弁連『保釈保証制度』事業」) 。全弁協が「保証機関」となり、裁判所が「被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えること」を許した場合(刑事訴訟法94条3項)を前提に、保証書を発行する、というものですが、そもそも、この保証書による保釈の運用が、どういう現実をもたらすのか――。

     そのことを考えるうえで、参考になる衝撃的なレポートが、日本保釈支援協会のホームページに掲載されています(「特集 保証書がもたらす保釈の末路」)。既に保釈保証会社による保証書による運用が行われてきたアメリカにあって、保釈制度改革よって、逆に保証書提出という制度を積極的に採用して「いない」マサチューセッツ州州都ボストンにあるボストン地方裁判所への、昨年同協会が行った派遣調査の結果です。

     冒頭、協会側が同裁判所の保釈担当責任者に前記全弁協の構想を説明したところ、その人物からは、次のような言葉が返ってきたと紹介されています。

      「保証書を利用した保釈制度は詐欺みたいなものだ」

     彼が批判している理由は、次のようなものです。保証書で保釈手続を行い、保険会社に担保させた場合、被告人の逃亡・罪証隠滅等の抑止力は低下する。裁判所は抑止のため、保釈金を釣り上げる。そして、そのことで保釈制度を利用してビジネスを展開する保釈業者が増加し、過当競争になり、更に抑止力が低下し、その結果、現実的に必要な保釈金額より遥に高い保釈金が決定される様になった――と。日本が保釈保証制度を運用することに対しても、アメリカのこの様な歴史に学び、運用は慎重に行うべきである、と、忠告しています。

     要するに、保証書による運用が、保釈の抑止力をなくしてしまう、という現実です。それに対する対策を講じければならなくなった裁判所は、保釈金額を上げるという手段をとることになったというわけです。協会が、資料として同裁判所から提供を受けた2001年のマサチューセッツ州最高裁判所による保釈許可決定の写しと保釈許可決定に関するレポートによれば、裁判所は被告人に対して、現金納付の場合と保証書を使う場合について保釈金額を二重に定めることができ、現金納付の場合の金額は保証書を利用する場合の保証料の最高額に等しい金額とすることができる、というものでした。

     これは、マサチューセッツ州の裁判所の多くで、保釈保証書によって10%の現金による保証金が指定されてきたことを踏まえ、結論として、保釈保証書については現金納付の場合の10倍の金額を指定して同等とする、ものです。見方によっては、完全に保釈保証を潰すことを意図しているととれるもので、保証書によって請求者の負担のハードルが下がってしまうことを回避するものです。

     全弁協の構想についても、この担保力がどうなるかという決定的な問題があることは既に書きました(「日弁連『保釈保証事業』の見えない担保力」)。没取の場合の求償権の行使が担保力を持たなければ、保釈請求のハードルを下げるだけで、今度は保釈制度そのものが形骸化してしまうということです。没取は確実に増えるという見方もあります。

     全弁協の事業の場合、保険会社と提携するスキームで、この求償が確実に行使されるのか、果たしてそれが抑止力としての機能するのかという問題があります。さらに、弁護士の中には、安価な報酬で担当している国選弁護人が、保証委託者として、求償の対象にされるリスク、そもそもこの事業が組合員の互助組織である全弁協の事業になじむのか、といった疑問の声もあります。

     もちろん、日本においても、最終的に保証書による運用を決めるのは裁判所です。全弁協の構想がたとえ現実化しても、保釈の形骸化というリスクを考えれば、裁判所が手のひらを返したように、この運用を活発化させるかどうかは分かりません。

     ただ、前記マサチューセッツ州のレポートをみれば、少なくとも全弁協の構想が、保釈のハードルを下げることばかりに目を奪われ、その先に待っているものをどこまで想定しているのか、そのことが不安に思えてくるのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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