「貸与制」がもたらしつつあるもの

     最高裁への情報公開請求をもとに、司法修習66期生の貸与制申請状況が、ブログ「一聴了解」で公開されています。それによると、採用者数2035人中、貸与制を申請したのは、撤回者を除くと、昨年11月27日現在、1645人で、申請率は80.8%。実に5人に4人が申請している現実ですが、ただ、新65期の申請率87.0%からは下がっていることが明らかになっています。

     ブログ氏は、別のエントリーで、この申請率低下の意味を分析しています。修習生の生活苦の実態が伝えられたことで、生活費を貯蓄した上で修習に臨んだり、連帯保証条件への嫌気から、親類などに借金を頼った可能性とともに、同氏が推測しているのは、貸与を受けなくても生活費に困らない修習生が相対的に増えた可能性です。

     つまり、経済的に余裕のある人間の比率が増えているということではないか、ということです。これは、見方によれば、ブログ氏も指摘するように、弁護士会側が散々主張した「お金持ちしかなれない」状況の現実化ともとれます。

     貸与制移行を決定付けたものは何だったのか。「法曹の養成に関するフォーラム」での議論を振り返れば、それは大きく二つに括れます。国庫負担への「国民の理解」が得られないという認識(あるいは決めつけ)と、貸与制でも「やれる」という認識(同)です。前者は、法曹、とりわけ個人事業主となる弁護士の養成を特別扱いすることの不公平感が生じるという前提、後者は結構弁護士は儲けており(6年目で所得平均値1073万円、中央値957万円等)、貸与制で資力がない人間の機会を担保できるという前提によっています。

     少なくとも現段階で5人に4人が貸与制を申請している事実だけでは、もちろん、後者の前提が正しいということにはなりません。修了後に彼らを待っているものが、果たして結構儲けている、「やれる」弁護士生活かどうか、多くの人にその見通しがあるわけではなく、確実なのは債務を抱えてスタートするということだけのはずです。

     一方、もし貸与制の申請率が今後も下がり続けるとすれば、「やれる」見通しがあるものが増えているとみることができます。同時に、法科大学院という負担が解消されていないなかで、その現象が起こるとすれば、8割が必要としたという実績がある以上、貸与制が属性の偏りを是正する形での機会担保として機能しているのか、ということを疑う余地が出てきます。貸与制を必要とした8割の人間が今後、「やれる」ということを実証すれば、この制度は一定水準で定着化するかもしれませんが、現実は修習辞退者の比率が増える傾向とともに、この傾向が現れ出している(「Schulze BLOG」)ことからしても、貸与制自体がリスクと考える人間が、よりこの世界を目指さなくなっていることを、貸与制申請者減が証明するように見えます。

     つまり、貸与制で現実的に救われる人材がいたとしても、救われない人と、救われないと考えて、この世界に来ない人材の話をしなければ、前記機会担保の前提は成り立たないのではないか、と思えるのです。

     貸与制移行論は、給費制が貸与制になっても、実害はない、つまりは、給費制ならばやれても、貸与制ではできないという人間の存在を、はなから数に入れず、それによる人材の偏りも考慮していません。「金持ちしか」論は、「貸与制」でも「やれる」という前提によって、排除しているといってもいいものです。それが、現実とかい離しているとすれば、やはりこの提案が、とにかく給費制廃止のために、あてがわれたものだったから、という説明が浮かんできてしまいます。

     そして、この貸与制がもたらす結果がはっきりと提示された場合、前者の「国民の理解」が得られない、という認識が果たして正しいのかも、疑う余地が出てくるように思うのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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