弁護士に突きつけられている裁判員制度の問題

     大阪弁護士会が、裁判員裁判の国選弁護人に対し、法廷での立証方法に関する「実演型研修」を義務付ける方向であると伝えられています。最高裁が2011年に裁判員と補充裁判員に行ったアンケートによれば、法廷での説明が「分かりやすかった」との回答は検察官65.7%に対して、弁護士は38.1%、逆に「分かりにくかった」は検察官4.5%に対し、弁護士17.2%。

     大阪弁護士会の対応は、この歴然たる違いを受けとめ、基本的には法廷でのプレゼンテーション能力向上を目指そうとするものです。これを報じた1月12日付け読売新聞は、同会の山西美明・副会長の次のようなコメントを掲載しています。

      「ここ数年、若手の弁護士が増え、経験不足も懸念される。弁護人の能力差で被告が不利益を受けることがあってはならない」

     これは、弁護士会のとらえ方としては、当然であり、会としての努力としても妥当なものとして受け入れられると思います。ところが、昨年12月に最高裁事務総局が発表した「裁判員裁判実施状況の検証報告」を見る限り、少なくとも最高裁のとらえ方、あるいは関心は、弁護人の「能力が劣っている」という点ではないような印象を持ちます。

     公判での主張、立証を通じて事件の実体が明らかにされ、量刑が可能になるような審理の重要性、そのために主要な事実については公判廷で証人尋問を行うという運用、そして証人尋問技術の向上の必要性は、当然のこととして指摘していますが、弁護人の「分かりやすさ」の低さについて、最高裁はこう言います。

      「これは、基本的には被告人の弁解そのものの理解しにくさが弁護活動に反映しているものと解される。その意味で、ここでいう『分かりやすさ』というのは主張、立証の合理性、了解可能性のことをいうと考えてよいであろう」

     さらに、最高裁は裁判員の職務従事日数が11日以上の案件で「分かりやすさ」が著しく低下していることに着目し、以下のように分析しています。

      「これは、技術的な問題というよりも、審理に長期間を要する事件では弁護人の方針自体が分かりやすいものになりにくいということの表れではないか」

     どうも最高裁の関心は全体的に、やはり「時間」の問題です。審理内容の分かりやすさの低下は「ある程度やむを得ない」が、審理に長期間を要する事件では公判準備、審理・評議については、「公判前整理手続の長期化が最大の問題」という表現も出てきます。

     時間の問題では、とりわけ検察官の証明予定事実記載書面の提出までの期間が20日超から2週間程度に改善されてきているのに対し、弁護人の予定主張記載書面の提出までの期間は30~40日と短縮化の傾向がうかがわれないとして、「これには検察官による証拠の開示という問題もあるが、裁判員裁判の経験がどのように蓄積されているかという弁護態勢全体に関する観点からの検証が求められているように思われる」などとし、40日前後を要している法曹三者の打ち合わせの短縮化の必要性も挙げています。

     つまりは、とにかく期間の短縮化、そこが弁護士側の態勢整備という努力にかかっている、ということを言いたいようです。しかし、「分かりやすさ」にしても、法廷での技術よりも「弁護人の方針」自体の問題というのであれば、当然そのため準備ということもかかわってきます。

     最高裁の指摘には、こんな弁護側からの反論もあります。

      「検察は起訴後の主張予定も時間をかけて検討できるのだから、起訴後14日程度で済むのは当たり前だ。対する弁護側は起訴されてからはじめて事件を知り、検察手元資料の一部を目にするだけだ」
      「検察と弁護は対等な関係にまったくない。弁護側の持つ武器は唯一『検討のための時間』である。必然的に、せめて公判前整理の段階で最善の対応を尽くして短期公判を補いたいと考えるようになる。最高裁の言う『弁護側の態勢充実』は、『弁護活動はもうやめろ』と言うのと同じである」(「裁判員制度はいらない!全国情報」第39号、「最高裁の『裁判員裁判検証』を検証する(上)」)

     もちろん、大阪弁護士会の対応は、こうした制度的な問題は別にして、実施されている裁判員裁判への現実な対応は必要とする立場であることは間違いありません。しかし、一方で、たとえ弁護士会の努力によって、技術において弁護士が組織で臨む検察に対抗できたとしても、時間短縮を至上命令とする裁判員制度にあっては、弁護士が対抗し切れない現実があることは、根本的な問題として今後も伝えられる必要があります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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