「環境適応」アピールの違和感

     山岸憲司・日弁連会長のブログの新年最初のエントリーでは、冒頭、チャールズ・ダーウィンが言ったと伝えられている、こんな言葉が引用されています。

      「最も強いものが生き残ったわけではない。知能の高いものが生き残ったわけでもない。最も環境の変化に適応できたものだけが生き残ったのだ」

     会長は、この言葉を言ったのがダーウィンではないという誤認説があることにも触れつつ、それでもこの言葉は真理だと思うという認識を示されています。ここまで読んで、なぜ、彼がこの言葉を年頭に当たり引用したのか、大体、予想できてしまいましたが、その後の展開は、案の定というものでした。彼が、この言葉を当てはめたかったのは、環境の変化にさらされている弁護士についてでした。

     前段で彼は地方でも二極化が進み、格差が広がっている弁護士の現実を認めながら、「まだまだ工夫の余地がある、創意工夫、アイデアによって業務を伸ばしていけると信じ、がんばっている弁護士たちが現れてきている」として、いくつかの事例を紹介しています。詳しくは、お読み頂ければと思いますが、要するに頑張っている弁護士がいる、活路を見出そうとしている弁護士もいる、ということを強調されています。

     それ自体は事実かもしれませんし、そういう評価の仕方もあるとは思います。また、こうした取り上げ方は、「改革」を基本的に肯定する側の描き方としては、これまでも目にしてきたもので(「『生き残り策』がテーマになるおかしさ」) 、「改革」の影響に言及しながら、可能性で締めくくるという形にも見えます。しかし、それは、多くの敗者を視野に入れない「生存バイアス」的なとらえ方にもとれ、常にそのことをもってして全体を支えきれる需要とつなげられるのかという疑問も生まれます。

     山岸会長のブログは、後段で、弁護士増員のペースダウンの必要性に触れ、急激すぎた増員で有為な人材が弁護士を目指さなくなることの懸念から、「合格者の減員をする(出口を絞る)、乱立して、膨張した法科大学院を改革する(入口を絞る)」必要性を指摘し、そのうえでこう言います。

      「有為な人材が希望を持って参入してくるには、資格を取れば、努力によって活躍の場が得られると示すことが大切です。このことを丁寧に説明し、理解を得ていく必要があると考えています」
      「日本人の法意識を改革していく中で、透明で公正なルールによって紛争を解決し、予防していくという文化が育ち、国民の意識、社会の意識が、もっと変わっていかなければなりません。もちろん弁護士の意識改革も必要ですが、国民の意識改革、国の制度改革、財政措置もなければ、弁護士の数だけ増やしても、いい社会になりません」

     彼は若い弁護士が、無償のニーズやボランティア的ニーズが大半では、事務所の維持ができない、という現状認識も示しています。ただ、どうもチグハグな感じがしてしまうのは、ここに示されている「改革」の失敗につながるはずの現状認識と、可能性に結び付ける結論です。「資格を取れば、努力によって活躍の場が得られる」ことを丁寧な説明によって理解させる、と言いつつ、実はそうしたものが成り立つ前提条件は、現状では基本的に存在していないと言っているようにとれるからです。

     国民が予防を含めて、司法を活用するという意識醸成、そのための法教育、弁護士を経済的に支える基盤。将来的な議論のテーマを掲げるのは結構だとしても、これが現状、弁護士界に有為な人材が来てもらうために、前記可能性の理解でなんとかなるという認識と並べられている不思議さです。むしろ、そうした前提条件も、無償のニーズでは事務所が維持できないことも、すべては需要が大量に生まれてくるという見通しの下に、度外視した結果が現状であることを多くの人は分かっているはずです。前記チャレンジする弁護士の可能性と増員ペースダウンの効果が、「資格を取れば、努力によって」なんとかなる根拠として志望者に受けとめられるのか、説明して理解してもらえることなのか、どうしてもそんな気持ちになるのです。

     ところで、冒頭、引用されている言葉をめぐっては、環境変化に適応できるには、強さも知能の高さも求められるのではないか、むしろそうした者が生き残るのではないか、という疑問がよく投げかけられています。この言葉は、弱肉強食的な強さよりも、環境適応能力の方を上位に置いているととれるものですが、そう考えて、弁護士の今に当てはめ直すとどういうことになるでしょうか。

     激増政策がもたらす競争による淘汰の利をいう側からすれば、その環境に適応して生き残ったものこそ、国民が求める弁護士ということになりますから、会長のいうペースダウンの必要性そのものも意味をなさなくなります。一方で、この政策によって、弱肉強食的な生き残りを迫られている弁護士に、強さより知能より、適応能力が必要というのも、今一つ、リアリティがありません。そして、そもそもその生き残りと結び付けて語られている、司法が頼られ利用される「望ましい社会」のために国民の意識改革まで必要という話も、もともと国民に伝わっていることなのかもさることながら、やはり適応を言いつつ、実は生存に必要な環境変化を訴えているように聞こえてしまうのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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