弁護士登録不要というニーズ

     新年明けましておめでとうございます。
     今年もよろしくお願い致します。

     宮城県富谷町が発表した、弁護士の特定任期付職員採用方針が話題となっています(平成25年度採用 富谷町特定任期付職員〈弁護士〉採用試験 受験案内) 。宮城県内の基礎自治体では初の弁護士採用方針になるそうですが、話題の中心は残念ながら、弁護士の自治体採用拡大傾向ではなく、同町側の発表にある次の一文の方です。

      「採用後の弁護士登録は必須でありません(町の訴訟代理人には選任しません)」

     この採用方針について報じた1月4日の河北新報は、この点に関して、はっきりと「弁護士活動に必要な仙台弁護士会への登録をしないのが条件で、町の職務に専念してもらう」としています。前記採用案内の一文にはラインマーカーが施されており、弁護士登録をしないこと(外すこと)を念頭にしたものであることがうかがえます。そうだとすれば、これは実は弁護士として採用される話ではない、ということになります。

     弁護士のブログで話題になっているのは、この弁護士登録不要という「ニーズ」の出現です(花水木法律事務所 小林正啓弁護士ブログ「Schulze BLOG」「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」)。これが何を意図したものなのかは、前記ブログも触れていますが、明らかです。つまりは、登録後の弁護士の負担の回避です。弁護士会費負担と公益活動の義務化。前者は自己負担に被せるということもできますが、年俸480万円とされる採用職員の経済的な条件の足を引っ張ることにはかわりありませんし、なによりも彼らのニーズとしては、そうした負担を上回る妙味を、弁護士登録に見出していないことがうかがわれるのです。

     富谷町の担当者に聞きましたが、河北の「登録しないのが条件」という表現には当たらないとの立場ながら、前記したように会費負担をしない、訴訟代理人を選任しない、という条件からは、むしろ当然のこととして、町とて登録を希望しない立場であるという趣旨の回答が返ってきました。前記したように、会費自己負担という選択も、職員の就労条件を悪くするだけのものというニュアンスでした。

     問題は、この現象を「改革」の結果として、どう受け止めるのかということです。これは、もちろん司法制度改革審議会が描いた法曹、とりわけ弁護士の活動の場が広がる社会という絵とは違います。つまり、法曹である必要はもはやない。一方、「改革」が予定した法科大学院を中核とした法曹養成は、法曹の質・量の拡充を目指したわけで、非資格者を前提としているとはとれないわけですが、それを脇に置いても、少なくとも能力において、こうした分野に特別に対応した人材を輩出した結果というわけでもありません。

     これを「改革」の結果というのであれば、増員政策による弁護士の経済的困窮がもたらした、弁護士登録資格者の新たな採用環境による、というべきだろうと思います。これに対する肯定的な評価もあるのかもしれません。つまりは、一定の能力を持つ人材の採用が環境的に容易になった、逆にいえば、司法試験合格者の社会的な活動の場が広がった、と。弁護士が経済的に追い詰められたことで生まれた「多様化」というような。

     しかし、これは法曹有資格者を前提とした「改革」のシナリオとは大きく異なります。それに対して、「改革」推進者は、まず答えを示す必要があります。現実的な負担の前に弁護士登録、つまりは弁護士会の必要性が、この増員政策の結果として否定されるということをどのように考えるのかということです。もし、弁護士会という形にこだわり、その維持を前提に、このニーズにこたえるとすれば、他に妙味がない以上、会費や公益活動という負担のハードルを下げるしかありませんが、その場合、弁護士会の存在とその意味がこれまでのような形で保てるのかどうかの問題にもなります。

     もちろん、専門職大学院としての法科大学院も、相当に看板を書き変える必要も出てきます。既に公務員試験や民間企業への就職を進学のすすめとしてうたう法科大学院も出現していますが、前記ニーズが彼らの何でもありに組み込まれていくのか、あるいは生き残りのために目的がすげ替えられていくのか、ということです。もっとも、仮にすげ替えられたとしても、このニーズにこたえることが、志望者にとって法科大学院という負担に見合うのかという問題は残ります。

     いずれにしても、「改革」の結果、生み出されたニーズの先に見えてきたものが、実は弁護士資格そのものを不要とするものであったという現実をどう受けとめるかは、「改革」と弁護士のこれからにかかわって来るテーマに思えます。


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    No title

    富谷町は、兵庫県明石市と好対照ですね。
    同市は、今でも「無料市民法律相談を行うために弁護士登録は必要だが、市民の理解が得られないことから弁護士会費は個人負担とする」というスタンスを固持していると聞きます。
    もっとも、無料市民法律相談を行うに当たり、弁護士法72条との絡みで弁護士登録が必要ということはないでしょう。
    「弁護士による法律相談」と名乗るのであれば、74条との関係で弁護士登録が必要となる余地はあるのでしょうが(阿部泰隆「自治体における弁護士職員採用の諸問題-明石市の例を中心に」参照)。
    なお、待遇の面でも富谷町と明石市は好対照ですね。

    さて、そもそも自治体がどのような人物を求めているかという点ですが、自治体においては指定代理人という制度がある以上、弁護士登録を必要としないのは当然とも思われます。
    もっとも、司法試験に合格していれば足りるのか、司法修習を終えていることが必要なのか、更には弁護士としての実務経験が必要なのか、という点については、自治体によってかなり異なるように思えます。
    ある程度の規模の自治体が採用するのであれば、弁護士としての実務経験が問われるのでしょう。
    一方、条例の審査等も担当してもらうことを求めるような自治体においては、率直なところ「あまりよく検討せずに流行で採用している」といったところなので、修習を終えているかどうかも問われないと思います。
    まじめに検討したうえで採用している自治体であれば、弁護士に条例の審査等を期待することはないでしょう(職員の法的能力があまりにひどい場合は別ですが)。
    とりあえず、司法試験合格者の就職先が拡大したといって喜ぶべきでしょうか。
    もちろんながら、「弁護士」の職域拡大ではありません。
    弁護士会も何ら関係がないところでしょう。

    No title

    熊本大学の件、現状の2000人合格を維持する限り、今後LS入学者の
    半分以上が司法試験に合格するのは道理ですから、公務員試験等
    他の資格試験断念組がローの主力になるのは遅かれ早かれ避けられない
    ことだと思いますね。一部の大学を除いて、もともと法学研究科修士課程は
    公務員浪人が大勢いたわけですから、その点からも熊本大学の発想は
    突飛なものでもありませんし。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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