「国選弁護 水増し請求」という現実

     弁護士の不祥事が報じられる度に、いつまで国民は驚き、あきれてくれるのだろうか、ということを、つい思ってしまいます。「弁護士がそんなことをするなんて信じられない」という認識は、「弁護士にもなかにはいる」に変わり、やがて「弁護士にいても不思議ではない」に。果ては「弁護士だからこういうことをする」が、常識になるのではないか、と。ネットをみれば、既に最終段階の言葉があふれていますし、いや、もうとっくの昔に、常識の域だという人もいそうですが。

      「国選弁護 水増し請求」。これを多くの国民はどう受けとめるのでしょうか。2006年から2009年に全国で少なくとも157人の弁護士が、接見や公判回数を水増しし、247件で約450万円を過大に請求。「ミス」という主張がなされていますが、詐欺には当らないための抗弁にはなっても、国民にそうとられないだろうことは、弁護士自身が分かっているのではないと思います。過大の方に振れている「ミス」。件数と額を見比べれば、「小遣い稼ぎ」ととられてもおかしくない不正に、「だからミスだろう」と考えてくれる国民がいてくれれば、弁護士にとってはまだ救いかもしれませんが、そうとも思えません。

      「強盗強姦事件で1回しか接見していないのがまずいと思って3回にした」というミスではなく、故意を認めたケースでの理由も伝えられますが(朝日新聞12月26日付け朝刊)、この理由にしても、「せこい」ととられる不正に対し「弁護士らしい」後付けの理由をひねり出したととられても仕方がありません。

     2008年に岡山弁護士会の弁護士による過大請求が発覚した時、残念ながら、他にもいるのではないか、ということが、会内外でささやかれました。事態を重く見た当時の宮﨑誠・日弁連会長も、再発防止を呼び掛ける要請文を会員に流していましたが、「故意」を前提にみてしまえば、この要請自体が弁護士職業倫理レベルの現実を示しているととられかねない事態ともいえます。

     裏付けのいらない自己申告の部分での不正は、弁護士だから手を染めないという信頼への直接的な裏切りに当たります。また国選弁護制度の社会的な意義を自覚して、少ない報酬でも、懸命に闘っている弁護士からすれば、国選で「儲ける」発想そのものが信じ難く、また迷惑なことでもあるはずです。

     ただ一方で、公的活動を弁護士の自己犠牲によって支える制度の無理をいう人もいます。まして、数を増やして、追い詰めれば、割が合わない国選弁護もやるだろうという発想は、片や自由競争を求める結果として課される経済効率的発想を考えれば、やはり無理がある、どこかにしわ寄せがくるということでもあります。

     しかし、皮肉なことに、こうした現実が伝わる以前に、今回のような不祥事報道によって、国民の目線が冒頭のように変化するほどに、弁護士の「心得違い」の方がより社会に伝わり、前記したような「無理」をいう主張にも、社会が耳をかさなくなっていく現実があることも、弁護士は今、自覚しなければなりません。


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    No title

    国選弁護の弁護人配点と報酬算定・支給業務を、以前の管轄裁判所の事務局(書記官)に戻すべきです。
    契約弁護士の一部が、相手が裁判所であれば到底出来ないはずの「詐欺的行為」を、某組織の何の資格も持たない職員相手に行ってきたわけです、後者が弁護士センセイに異を唱えることをあまりしないことをよいことに。

    No title

    過大請求に同情の余地はありません。詐欺です。
    詐欺にも等しいのではなく詐欺です。
    懲戒されて当たり前なのに、懲戒にならない。
    懲戒権限は速やかに弁護士会以外の機関が行使すべきです。

    No title

    吉田孝夫様もご指摘の通り、コメントされている方々が見落としておられると思うのが、国選事件の報酬算定と担当弁護士への支給を行っているのが法テラスであるということ。
    100名を超える弁護士からの過大請求を法テラスの地方事務所が見抜けなかったこと、事が大きくなる前に事前に防止できなかったことに、この組織内部やそもそも国選弁護の報酬制度設計・デザインに問題があるのではないか、ということ。
    実際、法テラスの地方事務所では、そこの地域の契約弁護士と旧扶助協会出身等のテラス職員が永年の知り合い、「癒着」の関係にあるわけでしょう?
    今回の報道記事も、もう2年以上前に分かっていたことを今更何故?という感があります。

    自業自得と思うのは、違法行為そのものもそうですけどそれ以上にそれに対する弁護士、弁護士会の対応もですよね。
    弁護士会による激甘処分→国民の反感を買う→さらに弁護士への評価を下げる、という結末が見えるようです。
    そうではなくて、弁護士会による厳しい処分、弁護士による違法行為への厳しい糾弾。
    これが弁護士自治を守り、弁護士、弁護士会への評価を回復させる唯一にして最善の手段でしょう?
    過小請求した弁護士がいたなんて事は免責の理由にならないと普通は考えると思いますが。そうやってかばっていても多分国民の反感を買うだけでは?

    No title

    法曹人口問題・司法改革問題掲示板http://6532.teacup.com/umezou/bbsにも書きましたが、本質的な問題に目が向けられていません。

    No title

    そもそも、「激増」、「自由競争」のもとで、「すべての」弁護士に素晴らしい品格を求めるのもどうかと思いますよね。

    市民が自己責任のもとで「素晴らしい品格の弁護士」を探して選ぶしかないのでしょう。

    市民側も自己責任。

    ま、むろん、水増し請求なんて論外なのは言うまでもないですけど。

    ところで、余談ですが、確か、反対に、過小請求も相当数あったかと思います。
    (今回のニュースでは知りませんが、以前水増し請求が問題になった時のニュースでは、むしろ過小請求による正当な報酬を受け取っていない金額の方が大きかったように記憶しています。)

    接見の記録をろくに残してなくて、逆に接見回数を過小に出している弁護士も結構いたりします。(年配の、事務所の経営基盤がしっかりしていている弁護士とかに多いみたいです。もともと国選なんてボランティアで、報酬をしっかり取ろうなんて思っていない人ですな。)

    ブログ主のおっしゃる通りはたで見てると弁護士全体への評価は危険水域に近づいてますね。
    しかも自業自得としか言いようがない。個々の弁護士は素晴らしい人もいるのにね。

    以前お会いした弁護士さんは危機管理や不祥事が起きた時の対応等の重要性について有意義なお話をしてましたが。説得力がなくなりそうですw
    大丈夫ですか?

    No title

    国選弁護が割に合わないのであれば、そもそも、それ自体を問題とするべきで、そのために自己犠牲が必要とか、他の収入保障が重要、といった問題意識は議論のすり替えにすぎません。

    また、国を相手に詐欺を働いておいて、税金から搾取しておき、処分が甘い現状では、弁護士自治の信頼度を大きく損ねるものでしょう。

    まずは、身を律することが必要に感じます。

    こうもマイナスのニュースが続くと来年のロー入試は大変なことになりそうですね。

    No title

    たぶん,今後は裁判所が接見回数や公判回数を厳しくチェックするようになるんじゃないですか。
    私が司法修習生だった時代(約10年前)でさえも,国選事件では露骨な手抜きをする弁護士が後を絶たず,もとより国選弁護が弁護士の尊い自己犠牲によって支えられているなどとは信じていなかったので,今更その程度のニュースで驚いたりはしません。嘆きはしますが。
    今どきの国選弁護は,事務所を構えて稼げる仕事を持っている弁護士には割に合わない一方,事務所を持たないタク弁や仕事のないノキ弁などにとっては貴重な収入源ですから,少なくとも東京などの都市部に関しては,取り締まりを強化してもなり手に不足することはないでしょう。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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