弁護士の「就職難」という表現

     弁護士の「就職難」という言い方を初めて見て、それが何をいっているのか分かった時、一瞬、違和感を覚えました。それはそうした事態への認識に対する違和感ではなく、この「就職」という表現に対してです。もちろん、法律事務所への就職という表現が間違っているわけはなく、むしろ業界内でもそうした言い方がなかったわけではありせんが、弁護士という仕事の独立した資格者のイメージからか、法律事務所への「入所」を除外して、企業への文字通り、就職、つまり、組織内弁護士を一瞬、連想してしまったからでした。

     仮に法律事務所への「入所」を、「就職」と区別する感覚があったとすれば、前記イメージからして「弁護士資格=就職」というとらえ方があったのだ、という人もいるかもしれませんし、それも否定はできません。そもそも弁護士が「就職難」になるなどということは、弁護士自身も社会も、誰も思っていなかったことです。それだけに逆に、その信じられない「就職難」という現実を前にしても、前記とらえ方から弁護士資格=永久就職という感覚が弁護士自身にあるのではないか、として、その「心得違い」が責められることにもなっています。

     一方で、「法曹の養成に関するフォーラム」の第12回会議で、委員の井上正仁・東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授は、この「就職」という表現を取り上げ、いわゆる「即独」も含めた「就職」概念の必要性を言っています。これは、同会議に示されていた論点整理案のなかにあった関係者からのヒアリングの要約の中で、「勤務弁護士のような収入保障のない独立採算制をとる事務所に就職した弁護士(いわゆる即独弁護士)」という表現があったことを井上委員がとらえたもので、「即独」の典型は自ら事務所を立ち上げるもの、そういうのが弁護士の理念の基本であり、そうしたものを含めて、職に就くという趣旨の表現を用いるべきで、既存事務所への就職に視野が限定され過ぎているというご主張でした。

     これは、一種、前記違和感の裏返しのような話で、「独立」した資格であるがゆえに、法律事務所への「入所」を「就職」と表現するならば、「独立」だって広い概念でいえば「就職」だろ、といっているようにとれます。これには、当時、ある種の意図的なロジックを読み取る意見もありました。即独を「就職概念」に含むことで、弁護士登録の事実によって、「就職難」という問題が存在しない、あるいは出来るだけ存在しないことにするロジックです(「ニガクリタケは偶に生えます」)。

      「弁護士資格=就職」という見方は、あり得ない前提として、現状を問題視する弁護士の「心得違い」を批判することにも使われれば、逆に当然の前提として、やはり弁護士の言い分を排除することにも使われているように見えます。「就職難」を淘汰の過程、「消える奴は消えろ」という立場からは、前者の使い方が都合よく、「なんだかんだいっても弁護士は食える」「就職難なんて大したことない」という立場からは、後者の使い方が都合がよい、ということになります。

     弁護士会自身は、もちろん、この「就職難」という言い方を、当然のように率先して使っています。弁護士の「就職難」という表現は、前記したような意外性も含め、現実を伝えるうえでは、確かにインパクトもあり、分かりやすいと思います。ただ、前記使用法の問題とは別に、根本的に気になることがあります。

     それは、この表現が国費の無駄ということを連想させないことです。彼ら新人弁護士には、法科大学院の補助金、司法研修所の運営費などおカネが投入されています。しかも、これは新人弁護士の問題だけではありません。司法試験に合格して、今月、司法研修所を卒業した65期生の一斉登録時点の未登録者が全体の4人に1人に当たる、およそ540人で過去最多になったことが報じられています(NHK NEWS WEB)。原因は見出しにある「弁護士の“就職難”が深刻化」というとらえ方です。

     就職難という文字に「“”」が付いているのは、やはり、冒頭の違和感につながる、一般的にこの表現が当てはめにくいとみての配慮ととれますが、それはともかく「就職難」という状況が、前記した形での税金の無駄につがっていることを、この字面は連想させません。いうまでもなく、「就職難なんていくらでもある」「断念するのは個人の勝手」で終わるからです。ただ、現実は弁護士の「就職難」は、この無駄にしても、修養期間の欠落によって「質」の安全が脅かされている現実にしても、社会的な影響として、一般の「就職難」とは、違う事情を抱えているのです。

     もちろん、この現実が伝わり、多くの人間がこの世界を志望しなくなり、利用されない制度への国費投入がなくなればいいという人もいるかもしれませんし、そうであるならば、そこで話は終わるかもしれません。ただ、「給費制」に目くじらを立てるならば、今、この無駄遣いを無視できるのか、ということと、そもそも「改革」の結果がそれでいいのか、という問題は残ります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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