「依頼者放置」の弁護士たち

     弁護士の不祥事として、懲戒事案でも「放置」ということが目につきます。つまりは、ほったらかし。事件を放置してなすべき手続きをしなかった期限徒過が、しばしば問題になります。被害そのものから表現すれば、これは「事件放置」ということになりますが、同時に、この実態が「依頼者放置」である場合があります。期限徒過という決定的被害にならないまでも、これは弁護士に対する苦情・不満として、これまでもしばしば耳にしてきたことでした。

     なぜ、こういうことが起こるのか。弁護士に聞けば、「余裕がない」という言葉も返ってきます。経済的にゆとりがなくなれば、いままで以上に多くの事件を抱えようとするものの、結局、一件一件の扱いが粗雑なる、と。この見方は、同業者として、大方、こうした現象が、そうした環境がもたらす「ミス」という見方により立つものです。

     ただ、これはさすがに、言い訳にはなりません。よくよく聞いてみると、期限徒過に関しては、「ひゃっと」するような経験をした弁護士も少なからずいるようですが、「ミス」をなくし、依頼者に実害を与えないことは、最優先させなければならないことはいうまでもありません。

     問題は、むしろ完全に「ミス」ではないととれるケース。つまり、確信的ととれる「依頼者放置」の場合です。およそどんな仕事でも重要とされる「報・連・相」(報告・連絡・相談)を回避あるいは軽視している場合といえます。これも、実はいろいろなパターンがあります。実は、根質丁寧に弁護士が説明しても、依頼者が理解・納得してくれないというケースがあります。100%納得していないものは、1ミリも前進させてはいけないと考えることもできますが、それでも基本的にその弁護士で闘うという了解を得ている場合、事案の経過によって、理解させられると、弁護士が考えてしまう場合もあります。その結果としての「しばらくほっておく」という方法が、いいのか悪いのかは、それこそ結果からの判断になってしまいますが、依頼者・市民が、およそ素人がゆえの要らぬ心配をしているような場合はともかく、これもまた、信頼関係構築ということを考えれば、「ミス」と同じで極力回避する努力は必要なことです。

     本当の問題は、前記ケースでもない場合、もともとそうした努力をしないという弁護士です。この中身は、一つは「心得違い」。依頼者を軽視し、はなから「どうせ素人に説明しても分からない」とさじを投げたような対応をする弁護士です。苦情のなかでは、多いパターンです。もちろん、これも依頼者側のタイプによる場合もあって、実は前記のような根質丁寧な対応をしているのに、依頼者側の過剰期待や不満から、そうとられてしまっているという弁護士側の言い分がある場合もありますが、明らかにそうではない場合は存在します。

     そして、もう一つは「能力」の問題です。そもそもの説得する能力、コミュニケーション能力がない、それを分かっていて説得を諦めている場合です。前者の怠慢も問題ですが、これも大きな問題です。まともな弁護士ならば、「そんなことでこの仕事はなりたたない」と言下にいうところですが、そうとらざるを得ない弁護士が存在することも、また事実です。もっとも前者のタイプとこのタイプの区別が、果たして依頼者・市民につくのか、という疑問もあります。

     この問題を考える時、依頼者・市民側にある専門家に対する依存心と、気おくれというものを無視することはできません。通り一遍の説明に対しても、専門家だから任せておけばいい、という気持ちと、あまりしつこく尋ねると心証を害するのではないか、尋ねてはまずいのではないか、という遠慮があります。前記「ミス」のケースを含めて「放置」という実害が、悲しいことに、この依頼者の感情と結び付いて発生してしまう現実があります。もっとも、「ミス」ではないケースについていえば、この感情の「悪用」という批判も成り立ちます。

     数か月の「放置」に、依頼者側がさすがに不安になり連絡をとるケースでも、「やっているところ」という、これまた通り一遍の回答を繰り返されたという話もよく聞きます。さらには、数か月後に、途中経過抜きに、いきなりこちら側の妥協を迫る「落とし所」を提示され、驚くとともに、不信感を強めたという声も耳にします。

     区別がつくのか、ということでいえば、弁護士の対応には、そもそも「プロ」の判断として良かれと思ってやったことと、そうではなく、弁護士自身にとって良かれと思ってやっていることの区別が、依頼者・市民側につきにくいという決定的な問題があります。

     その意味でも、本当に弁護士がそうした誤解をされずに、信頼関係を築こうと思えば、「報・連・相」の重視は当然であり、逆に依頼者側からすれば、弁護士「仕分け」の重要な要素にはなると思います。しかし、それもさることながら、根本的な問題として、なぜ、そうした「心得違い」と「能力不足」の資格者が存在し、依頼者・市民は、彼らと遭遇しなければならなくなっているのか、誰がその安全確保の努力と責任を負っているのか、また今後、負うことになるのか――そのことも重要なテーマになるはずです。
     

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    依頼者が悪い、事務員が悪い、弁護士の責任ではないねぇww。サラリーマンを経験してみるといろいろわかるかも知れませんね。

    ブログ主さんも大変ですね。本当。

    依頼者放置の原因

     依頼者放置の原因にはいろいろあって,依頼者が着手金や事件処理に必要な費用をなかなか入金しないとか,申立てに必要な書類をなかなか出さないとか,必ずしも弁護士の側だけが悪いとは言い切れない事案も少なからずあります。
     また,債務整理事件などでは,事件処理の大半を事務員に丸投げしているところが結構多く,事務員もノルマがあるので簡単な事件だけを先に処理してしまい,事務員の手に余る複雑な事件は長期間放置され,弁護士もその事実に気づかないといった例も少なくないようです。
     弁護士業務のビジネス化,薄利多売化というものが進んでくるにつれ,むしろ弁護士費用が安いのだからその程度のミスはやむを得ないなどと考える弁護士が増えてきており,まじめな従来型弁護士像を前提にした批判は次第に成り立たなくなってくるような気がします。

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    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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