「対企業」で描かれた期待と現実

     さすがに最近は、声高に言う人の数は減ったように思いますが、ついこの間まで、弁護士の仕事は増えこそすれ、減ることは絶対にないと、自信満々に口にする方が、弁護士会内には沢山いました。もちろん、その中身は、よく耳を貸してみれば、いろいろで、さほど根拠もなく、それこそ「気合い」の方ばかりを強調される方もいれば、「鉱脈は絶対に眠っている」という「改革」教の熱心な信奉者の方もいたように思いますが、いずれにしてもこの文脈のなかで、度々登場したのが、「企業が訴えられるケースが増える」というものでした。

     ライブドア事件のような株主に訴えられる事件や、ゆくゆくアメリカのような「消費者が勝てる」訴訟構造整備の社会的要請とともに、PL訴訟が増える未来を想定したものでした。これは、「勝てる」という見込みのもとに乗り出してくる株主・消費者側と、そんなことは起きない、訴訟でも負けないという見込みに立ってきた企業側双方に、弁護士の出番ができるはずという皮算用でもありました。企業がこれからは廃業を含めた致命的な打撃を受ける、ということも強調されました。

     しかし、こうした案件が増えているといっても、少なくとも当初の皮算用とは大分違っているという印象を持ってしまう現実があります。1999年の202件をピークに減少傾向にあった株主代表訴訟地裁係属件数は、2006年以降増加に転じているものの2011年依然215件です。提訴する側らすれば、依然として裁判に時間とお金をかかることを含め、株主の経済的メリットとしてインセンティブが低いといったこともいわれていますし、その意味では、利用されやすくするための制度的な担保をいう意見もあります。

     ただ、こうした意見を聞くにつけ、どうしても考えてしまうのが、紛争の向こうに社会が求めるものです。当たり前過ぎる話ですが、社会が求めているのは、こうした手段で救済される社会であると同時に、紛争に巻き込まれない社会、紛争がない社会です。つまり、訴えられなければならないような企業や事案がなくなることです。株式代表訴訟という存在も、救済手段であると同時に、違法行為の事前抑止に働けば、件数は少なくても、それは望ましい社会に向け、その目的は達成しつつあるとはいえます。

     もっとも、それが抑止として働くためには、こうした訴えを現実的な問題として企業側に突きつけていなければなりません。形骸化した制度では抑止にはならない。株主代表訴訟がまだ少ない現実と、日本でアメリカ型ビジネス弁護士が少ないことを結び付けてとらえる見方があります。前記したように勝訴でも株主に経済的メリットが少ない同訴訟は、本来的に経済的な利益を受ける株主の訴訟代理人である弁護士のインセンティブで成り立つ制度だというものです(「経営者に必須の法務・財務 大和銀行株主代表訴訟事件判決とビジネス弁護士」鳥飼総合法律事務所)。つまり、弁護士の経済的妙味からこういう訴訟をどんどん仕掛ける弁護士が、この制度を支えるということです。そうすれば、企業側にも、これに対抗する弁護士の出番が増えるはず、ということになり、ビジネス弁護士量産の必要論にもつながっていきます。

     これは、ひとつの理屈ではあります。弁護士が自らの経済的妙味と合致させる形で、紛争を増やすことが、正義だという大義名分を与えているようにもみえます。ただ、この流れは、一体、何が抑止するのでしょうか。あくまで社会は紛争がない状態を求めます。企業の自覚を促せば足りるという見方もありますし、救済を得ることが真に必要な場合、株主・消費者側も司法のご厄介になることが最善の利益となる場合で、真にそれを求める場合にのみ、そうした手段が行使されればいいというとらえ方もあります。企業側にしても、株主・消費者にしても、そうした手段に出なくて済む、かかわらなくて済むことが一番であることに変わりありません。現在の株主代表訴訟の数に、その基本的なことが反映していないとはいえないはずです。

     つまり、弁護士量産ありきのなかで、増えた弁護士たちは、焚きつけることも、絞り出すこともせず、自らの経済的妙味や生き残りを前にしても、果たして節度を守るのか、ということです。もともと株主代表訴訟にしても、弁護士費用を狙った濫用的な提訴が容易であるという点は、むしろ問題点として指摘されていたことでした。

     企業の不正はなくらない、あるいは浄化の過程として、まだまだ必要という、これまた大義名分は成り立つのかもしれません。ただ、現状からいっても、本当に必要とされる量産の規模が不透明であることもさることながら、あるべき弁護士の姿として「アメリカ型」といったことが弁護士の口から出ているのを見るにつけ、いつまで大義名分と弁護士の妙味が一致しているのか、そこに歯止めがかからないことこそ、社会そのものが「アメリカ型」になるプロセスなのではないのか、という不安も過るのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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