「紛争創出型」への覚悟と再考

     小林正啓弁護士が11月16日に行った福岡県弁護士会木曜会設立40周年記念講演の内容をブロクで分載していますが、先日アップされた第7回目で、弁護士会の進むべき方向として、「紛争解決・予防型司法から、紛争創出型司法へ」を提言する下りが登場します。株式代表訴訟の倍増を目指し、労働事件においても、労働者側弁護士も、使用者側弁護士も、両方応援して、訴訟を増やすべきだ、法的紛争を数多くつくり出すことが、弁護士会の取るべき途だと。

     これに対して、弁護士ブログ「黒猫のつぶやき」は、少なくとも建て前として存在していた「社会正義の実現」を目指すべきというコンセンサスが失われてきたこと、弁護士の仕事を増やすことが「司法制度改革の理念」のもとに正当化されていくことを、懸念を込めて指摘しています。

     ただ、この中で、小林弁護士は次のような非常に重要な指摘をしています。

      「『訴訟社会化など、国民は望んでいない』という意見もあります。私には信じられません。弁護士を増やして、『法の支配』と言っておきながら、訴訟社会化を望まないことは、矛盾以外の何者でもありません」

     あるいは結論は小林弁護士がおっしゃりたいこととは違うかもしれませんが、この指摘は正しいと思います。弁護士増員は訴訟社会化であり、それを結び付けないのは矛盾である、ということです。逆にいえば、訴訟社会化を本当に望まないのならば、この政策には反対しなければならないはず、ということになります。

     一方で彼は、訴訟社会化を危惧する意見を弁護士が言うのも馬鹿げたことであり、訴訟社会化を望むかどうかは、国民ひいては国会が決めることであって、弁護士が身内で決めることではない、国民が弁護士を増やし、一定の訴訟社会化を指向した以上、これを国民の負託として応えることが、弁護士会の使命であり、国民自身がこれを撤回しない限り、止めるべきではない、としています。

     これも、ある意味、正論だと思います。ただ、ここで仕切り直しの余地あるいは必要があるかどうかで認識が分かれるところです。「国民が弁護士を増やし、一定の訴訟社会化を指向した」といえるほど、この司法改革論議で弁護士による「紛争創出」を含め、弁護士激増社会がもたらすものを国民が本当に認識していたのか、それを大マスコミや推進派がフェアに伝え、提示したのかどうか、そして多くの弁護士自身がそのことに本当に自覚的であったのかどうか――そのことを今、問い直すのかどうかの問題です。

     つまりは、言った以上はやるべきだ、と言っているようにとれる小林弁護士の立場に立つのか、それとも弁護士・会自身が反省のうえに立ち、もう一度、フェアに判断材料を提示したうえで、国民の判断を仰ぐのか、ということです。既に激増政策がとられた結果が、いろいろな形で見え出している現在の状況は、10年前には示せなかった新たな判断材料にもなるはずです。

     小林弁護士の結論とは違う「かもしれない」としたのは、「黒猫のつぶやき」氏も、一応疑われたように、この小林弁護士の「紛争創出型司法」の提言を、当初、同弁護士一流の皮肉か、とも思ったからです。つまりは、言った以上はやるべきではなく、こうなるけどいいのか、の方に比重を置いた話なのかと。「今の日本で、訴訟の増えすぎを心配する必要は全くありません」「司法改革の流れを推進し、訴訟社会化を目指す中にのみ、弁護士会の活路はある」とはっきりと指摘されていますから、やはり結論は違うようには思いますが、「国民が撤回しない限り」ということをあえて書かれていることを含め、この一文は、国民にとっても弁護士にとっても、「改革」の現実に目を開かせる意味を持つのもののように思えます。


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    No title

    弁護士が増えて、競争によりアクセスしやすくなるとともに、値段も下がります。これまで、弁護士を使えなかった人も利用でき、泣き寝入りが減ることになります。

    これが、原則ですよ。もちろん、増員によって負の結果も起こるでしょうが、そちらばかりをことさら取り上げるのは、如何なものでしょう?

    そもそも、現実に存在する紛争を拾い上げることが出来ない弁護士さんが、「紛争創出」だなんて、はるかに困難なことを出来るって考えたんでしょう? 

    弁護士さんって、世間知らずと言いましょうか、本当に荒唐無稽な考えをしてますね!

    No title

    社会正義の実現、が失われたという理解があるようですが、それは失われていないと思います。むしろ、社会正義の実現、というお題目が、絶対的な物差しとして理解されているのが、そもそも誤りではないかと思います。
    その理由は、その言葉自体に含まれた定義の限界にあるかと思います。
    すなわち、「社会正義」というものが、「正義」とされない点、何が正しいのか、何を目指していくのか、ということは「社会」が規定する。
    その意味においては、「社会正義」は可変であるし、時の経過で変化します。

    社会は(それに対する好み、好き嫌いはあると思いますが)、少なくともあらゆる紛争について、司法の場だけでなく、公開の場における解決を指向しています。それが小沢裁判における検察審査会の方向性(裁判の場で審理すること自体に価値を見る)だったと思いますし、事件・事故などでも和解などではなく、真実探求の場としての裁判を被害者・遺族などは指向します。

    企業法務の世界でも、株主責任を生じかねなかったり、業法上の利益供与を疑われるなど、当事者間の和解が容易ではない環境にあります。
    勿論、正当な和解が禁止されているわけではないものの、相応の説明責任が課されるなどしている現状で、それを回避ないし明確化するための司法手続きの選択が非難されるものではないのが当然です。

    こういった情勢は、まさに「社会」が複雑化したために利害関係者が多く関与することとなった現状で、当事者間のみによる解決だけでは満足されない場合が多くなりつつあることを示しています。また、企業対個人のような、情報格差だけでなく体力格差のある当事者間の問題もあるでしょう。

    この方向性は、社会のコンセンサスとして(積極的ではなく消極的であっても)受け入れられていると思います。とすれば、紛争創出型、という表現は誤解を生みやすいですが、泣き寝入りする当事者が増えかねないことを考えると、社会が求める解決について実現することこそ「社会正義」と捉えることもできます。

    なんとなく、「社会正義の実現」という言葉には、弁護士が規定した「社会正義」に限定されているように思えてならず、その点が気になるところです。

    No title

    私は小林氏は皮肉的評論をするのが趣味の人かなと感じているので、発言の文言を真面目に解釈する意味は乏しいと思います。
    ただ、同氏の「皮肉の格好のネタ」に、大増員政策はなっているのでしょうね。

    -ハコモノのためだけに弁護士を増やして困窮においやれば、
    紛争を増やそうとしたり、目先のはした金のためだけにブラック企業や粘着質な人の言いなりに動く弁護士が、そりゃこれまでよりも増大するだろうね、と。
    その結果、泣き寝入りを強いられる国民がどれだけ増えたところで、そんなの大増員政策の当然の帰結でしょ。大増員政策に反対しなかった人達が、当該政策の当然の帰結である泣き寝入りの増大を強いられたところで、誰かが気にかけてあげる必要なんてないんじゃないの-

    という、彼の「皮肉」では。
    (もちろん私は、国民の大多数は別に大増員政策を支持してない、そもそも関心がないことはわかっていますし、当然小林氏もわかっているでしょう)

    私個人は小林弁護士の言い分は大多数の国民の考えにそうものだと思いますね。
    確かに程度問題でありなんでもかんでも訴訟に訴えるような社会はNoですが、司法が使い勝手が悪いために泣き寝入りを強いられる、違法行為が平然と行われるような現状は改善されるべきだと思いますから。
    誰もが司法を利用しやすくする程度に訴訟社会化するという事は司法改革の理念にも国民の利益、考え方にも合致するとおもいます。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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