失われた環境と「不幸」な新人の関係

     弁護士会内で評判の悪い法律事務所、要するに「札付き」の事務所に、そうとは知らない新人が採用されていく現実があります。「相談してくれれば、なんとかしたのに」。同情心をにじませて、先輩弁護士が耳にするのを聞きました。
     
      「札付き」の中身は、ボス弁が度々懲戒事案の対象として名前が上がっていて、しかもその内容が同業者から見て、あきらかにボス弁の業務に対する考え方、あるいはキャラに由来するととれる場合がほとんどだと思います。これまでも、それが原因で新人が辞めていくということもあります。事務所自体のカラ―になっているような仕事や依頼者に対する姿勢に関する評判ということもありますが、それも結局は、多くの場合、ボス弁のカラ―とつながります。

     つまり、先輩としては、新人に対して、「とりあえずあそこはやめておけ」という忠告ができたのに、という話です。こう話す先輩は、自分がやはりそうした形での「安全」を享受できた、あるいは担保されていた認識のうえに立って話しているようにとれます。確かに、一定限度、かつての弁護士会では、いまよりもそれが機能していたように思います。

     それが、劇的に変化している、という話を、ある弁護士ブログ(「弁護士 中尾慎吾公式ブログ」)が指摘しています。基本的には、それは採用方法の変化ということがあります。以前、ほとんどの事務所でとられていた「紹介」という方法から、いまや「公募」が主流になった。そのため、紹介の最大のメリットとして、新人からすれば、「紹介者がいる故に紹介先の事務所の質が一定程度担保されていた」。それが失われた、と。また、紹介ではなく、新人が自分で選ぶは場合でも、入所を決める前に先輩弁護士に相談できた。「現状はそのような事実上の判断システムがもはや機能していない」としています。

     一方、「公募」方式は、そうした機能をすり抜けるだけではなく、知名度のないような新参の事務所であっても新人弁護士を採用することが、とても容易になった。そうした事務所に対しては、そもそも先輩も情報を持ち合わせていないため、アドバイスしたくてもできない、ことになるというわけです。

     なぜ、こういうことになっているのか。前記ブログは指摘していませんが、結局は、弁護士の激増政策の影響は否定できません。つまり、弁護士同士が適正に面倒みれる新人の数と、会内の一定限度顔がみえる環境(大都市会では、ここに会派の存在価値をいう弁護士もいますが)が、前記したような「不幸な」新人を生まない状況を担保していたということです。もちろん、数が増えたうえに、経済的に余裕がない既存事務所側が、こうした新人への気配りそのものの余裕を失ってきているという声もききます。

     逆に言うと、この激増政策は、こうした環境担保に対して、配慮していないということもはっきりしています。つまりは、すべては自己責任でということです。前記ブログ氏の結論も、変な事務所に入ったならば、潔くその事務所を辞めて、他の事務所を探すか、あるいは自身の名前で事務所を立ちあげて「独立事業主として」弁護士活動を行わなければならない。現在、従来であれば勤務弁護士を採用することが難しかった事務所でも採用することが容易となったことを前提に常時正しい判断せよ、と忠告しています。

     現状において、このアドバイスは正しいと思います。そもそも「札付き」がなぜいるのかといったところで、この激増政策下でも、現実的に彼らもまた、しぶとく存在する現実を前提にせざるを得ません。ただ、ここでいう「潔く事務所をやめて他を探す」ことも、「独立事業主」としてやり直すことも、さらに、従来、採用できないような問題事務所を見分け「正しい判断」することも、現実的には、いずれも新人には容易ではない、いばらの道です。

     それを考えれば、いまやらなければいけないことは、まず、この現実をこの世界を志望する前の志望予定者にフェアに判断材料として伝えることと、そもそも、この環境破壊につながっている政策が、この状況と、フェアに情報を伝えられた志望予定者たちのとるだろう行動に、見合うだけの価値があるかどうかの再検討ではないかと思えてくるのです。


    ただいま、「弁護士の質」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    弁護士はなぜ飲み会での話題が下品な話ばかりなのか!?

    難しいことですね

    変ですよね

    残念ながらこれが一般社会においてもデフォルトですね。
    このような事務所、会社を弁護士社会だけでなく社会全体から排除、改善させるような行動でしたら国民も弁護士に共感するのではないでしょうか?

    ちなみに現在はそのような会社は一部ですがネットで晒されており、それが就職希望者の情報源、会社への抑止力となっているようです。

    No title

    どこの職場でも新人が一人前に仕事ができるようになるまで何年も時間をかけて育成する必要がある。
    弁護士だって資格があればすぐに仕事ができるわけではない。
    昔から即独する新人もいたが,弁護士業界への信頼が失墜しないように周囲の先輩がサポートして育成してきたが,過去のものになりつつある。

    今の時代ほど人材育成を軽視している時代はないのではないかと思う。
    現代社会を支える各分野の高度な技術は,時間,労力や金をかけて人材を育成してきたことによる。これを忘れて,高度な能力を有する技術者を目先の利益を確保するためにひたすら安く買いたたき,その結果,後継者の育成がされなくなり人材不足に陥っている分野は多いようである。

    弁護士の業界についても,人数だけを増やす一方で,手間をかけての人の育成を怠り,ただ競争しろというばかりで将来的に業界が成り立っていくのか,近いうちにも結果が明らかになりそうである。

    No title

    弁護士会内で評判の悪い法律事務所、要するに「札付き」の事務所に,そうとは知らない新人が採用される現実は昔もあったと思います。

    ただ,昔は,新人も,なるべく不幸な事態に陥らないように事前にリサーチを十分行なっていましたし,不幸にして,そのような事態に陥ったとしても,事務所を移籍することは比較的容易にできましたし,また,独立も可能でした。現在は,そもそも,まず就職が第一目標なので,評判の悪い事務所であれ,「背に腹はかえられない」「就職先がないよりまし」の状況にあるのではないでしょうか。また,不幸にして,そのような事態に陥っても,移転先もなく,また,独立はほぼ不可能な経済状況にあります。その辺は,増員の影響はあるでしょう。

    ただ,この辺のところは,弁護士ではない一般人には正直どうでもいいことかもしれません。冷たい言い方ですが,新人の弁護士さんに独力で乗り切ってもらうしかないのかなという気がします。弁護士自治の問題ではないと思います。

    ただ,昔は,新人弁護士は,業界内でもう少し大切にされていたという印象があります。それに比べ,最近は,新人の数が増え過ぎたせいからか,既存の弁護士に余裕がないからか,よくわかりませんが,あまり手をかけてもらっていない印象があります(当然,そうではないケースもあろうかと思います。あくまで,印象です)。

    弁護士登録後3年くらいの間にその弁護士の仕事の癖というものが凡そ培われ,その癖は一旦染み付くとまず抜けません。昔は,経験弁護士たちの面倒見が,後輩弁護士に妙な癖をつけさせない効果があったと思いますが,今は明らかに違います。
    手をかけてもらえなかった今の新人が,妙な手癖を覚え,5年後・10年後の将来,ルールから外れたことをやりだすのではないか,と危惧を持っています。弁護士の主張としてはありえない突飛・奇怪な主張をする若手弁護士が確認されているという話を既にしばしば聞きます。
    もっとも,これも,市場原理・自由競争の原理の範疇の話であり,そのような弁護士を引いた依頼者サイドの自己責任で解決することなのだろう,と納得するようにしていますが。

    正気ですか

    弁護士増員反対の理由がこれですか?

    「新人が就職で、変な事務所に入ったら可愛そう!」

    こんな理由による増員反対を、一般人が納得すると本気で考えているんですか?

    失礼は重々承知していますが、正気を疑いました。

    No title

    弁護士会内で評判の悪い事務所がむしろ一般市民向けにはなぜかそこそこ評判がよく多くの事件の依頼を受けている例も少なくないようです。
    極端に悪いことをしなければ,むしろ,目先の「市民目線」に立つことには長けているから,簡単に競争原理で淘汰されることはないでしょう。

    No title

    そのような「札付き」の弁護士ないし事務所を、なにゆえ、「弁護士自治」は放置するのでしょうか。存在を許容しておいて、激増政策にその対処を求めるのは、責任転嫁といえませんでしょうか?
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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