「街の法律家」は誰か

     「街の法律家」という言葉に、一般大衆はどんな職業の人間を想像するのでしょうか。この言葉から手繰り寄せていったとすると、現実には市民は、いろいろな人に出会うことになってしまうかもしれません。

     現在、この言葉もしくはこれに近い表現を、弁護士、司法書士、行政書士が使っています。ただ、ネットなどで見ても、行政書士がこれを標榜しているケースが多いようです。

     これは、ちょっとした論争になっています。

     2007年に行政書士会の全国組織・日本行政書士会連合会(日行連)が行政書士の仕事を紹介するために作ったポスターやパンフレットについて、日弁連が使用中止を求めたことがありました。そこで使われていた「街の法律家」や「Lawyer」といった表記が、弁護士業務をしているとの誤解を与えかねないとしたのです。

     日弁連の言い分としては、「法律家」とか「Lawyer」は法律事務についての代理権を持つ、主に弁護士をさすもので、そもそも司法機関と関係せず代理権がない行政書士には名乗る資格がない、というものでした。

     一方、行政書士側の言い分からすれば、要するに「街の法律家」といったって、市民は必ずしも弁護士を連想しない、というもので、結局、行政書士会側が突っぱねた感じなっています。

     行政書士と兼職の相性がいいとされる社会保険労務士でも、行政書士を兼ねることで「法律家」のイメージがつく、ととらえている人さえいるようです。

     英語表現としての適格性の問題はさておき、この論争のポイントは、日弁連のこだわる「法律家」という言葉ではなく、実はむしろ「街の」という方にあるのではないか、と思うのです。

     「街の法律家」という意味は、要するに「身近な法律家」ということです。市民のそばにいて、気楽に相談に応じることができる存在であり、市民のパートナーであるということです。

     そういう意味で、この表現は多分に、対弁護士を意識した言葉ととれます。なぜなら「敷居が高い」といわれ、今回の司法改革でも、「身近」になることを課題として掲げている弁護士の、いわば弱点をつく形になっているからです。より「身近」であるイメージを打ち出すことが、よりその士業のメリットを強調することにつながっているというわけです。

     つまり「街の法律家」の乱立は、士業による「身近」イメージの争奪戦といってもいいと思います。

     司法書士についても、対弁護士という姿勢は同じです。各都道府県にある司法書士会の連合体、日本司法書士会連合会(日司連)のホームページには、「市民に身近な『くらしの法律家』」というコーナーがありますが、そこでははっきりとそれが分かります。

     「弁護士は三大都市圏および大都市に約66%が集中している」
     「司法書士は全国に分散している」

     こう銘打って、各都道府県の司法書士と弁護士の人数を並べた表を掲載し、いかに弁護士に比べ、司法書士が偏在していないかを強調。さらに簡裁代理権を獲得していることを踏まえて、2009年現在「全国の簡易裁判所数438中、司法書士が存在する簡裁433(約98.9%)、簡裁代理権を持つ認定司法書士が存在する426(約97.3%)」として、いかにも弁護士が見向きもしなかった簡易裁判所を司法書士がこれだけフォローしている、という感じのアピールをしています。

     確かに司法書士会の場合、東京が3000人を越え、大阪と愛知がそれに次いでいますが、弁護士ほどの大都市集中傾向はなく、所属会員が50人から6000人(東京三会を合わせれば1万4000人)まで地域で大きな差がある弁護士会に比べ、司法書士会は二桁のところがなく、明らかに地域ごとの人数の偏りがありません。弁護士は「街の法律家」といっても、それは本当に大きな「街」、都会に沢山いる法律家である実態があるのです。

     弁護士としては、ここだけ取り上げられて、より「身近」を強調されるのは、あまり面白くないかもしれませんが、事実は事実です。「身近」という意味では弁護士は劣勢と、とらえている弁護士もいます。

     日司連のネガティブキャンペーンともいえるアピールが、どれだけ効果があるかは一概にはいえない面もありますが、そのことよりも、「身近」というテーマで、いかに弁護士を意識しているのかが、分かります。

     ただ、弁護士の偏在は急速に解消しています。また、増員された弁護士が、今後、これまでよりも活動の領域を広げることは予想されるので、簡裁を含めた「空白地」的描き方は難しくなることは考えられます。弁護士からすれば、能力と、いざという時にやれる法的手段の絶対的な違いを主張するでしょう。弁護士の増員よりも、先に「身近」な実績づくりをしたい各士業側の思惑も見えます。

     さて、いうまでもなく、「街の法律家」がだれを指すのかを決める究極の審査員は、利用者・市民です。これまでの話は、すべて自己申告の話といっていいでしょう。アクセスも、費用も、身近であることの要素かもしれませんが、それで直ちにこの称号が与えられるとも思いません。増えた弁護士、権限を拡大された士業が、ともに仕事の中身で国民の期待を裏切れば、それはそれでアウトですから。むしろ、各士業とも、そちらについて、楽観視し過ぎていることの方が気になります。

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ
     
    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    弁護士、検事、裁判官以外は、法律家なんて思ってないだろ。当然、司法書士も法律家とは思ってない。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR