「未修者」という法科大学院の無理

     法曹養成問題ついて発信しているブログ「一聴了解」が、第4回法曹養成制度検討会議の事務局提出資料の中のデータから、法科大学院で、法学未修者の4人に1人は2年に進級できず、ほぼ半数、2人に1人は、3年で修了できないという現実に注目しています。

     詳しくは是非、お読みいただければと思いますが、ブログ氏はこれでは他学部出身者が法科大学院進学に二の足の踏むのは当然であり、学生が適性試験や入試を経て、一定の資質は持ち合わせている前提なのだから、問題は学生の資質ではなくて、わずか3年間で未修者に合格レベルの法的素養を修得させようとする制度設計と、教育の質にある、としています。当然のご指摘だと思います。

     何でこんなことになっているのか。法科大学院の制度設計のなかで、この未修者の扱いについては、法曹界の人間をはじめ、およそ法曹養成と法学教育の、少なくともこれまでの実態を知っている人ほど、初めから首をかしげていたものでした。未修3年、既修2年という設計では、未修者は最初の1年で法学の基本知識を詰め込み、その後の2年で既修者と同じ過程へということになりますが、何で1年の差が、法学既修つまりは法学部での4年間と同質となり得るのか、ということです。しかも、若くして法学部で学んだ者と、想定されるような社会に出てから法科大学院で1年間学んだ者との間の、現実的な格差をいう意見もありました。

     実態を知っている人ほど、とは書きましたが、これはこういう切り口で、提示されていれば、当初から誰でも疑問に持ったことのはずでした。しかし、なぜかこの点は、通過しました。納得の仕方としては、二つしか考えられません。つまりは、前記「一聴了解」氏の話にも出てくる適性試験と入試のレベルが、法科大学院1年で既修者に追いつく資質を選抜しているか、それとも前記関係者の疑問を振り払い、法科大学院1年間の教育レベルが法学部教育のそれに追いつくことをやってのけるのだ、という話です。

     結論からすれば、誰もが首をかしげてもいい話が、この二つをなんとかやれるんじゃないかという、非常に不確かな前提のもとに、通ってしまったのが、この「改革」の現実ではないかと思います。

     何でこうなったのかという話をすれば、制度設計の経緯ということになります。

      「標準修業年限は3年とし、併せて、法科大学院において必要とされる法律学の基礎的な学識を有すると法科大学院が認める者(法学既修者。法学部出身者であると否とを問わない)については、短縮型として2年での修了を認めることとすべきである」

     司法制度改革審議会最終意見書の記述には、こうあります。未修者が対象の3年が「標準」タイプとして設定され、既修者対象の「短縮型」も「認める」ということであり、ここでまず3年という「標準」が設定されています。ここから考えられるのは、二つの意味です。一つは、未修者を基本、既修者をあたかも例外的な印象を与える描き方をあえてしたことです。これはいうでもなく、「多様性の確保」というこの制度の大義にかかわっています。つまり、未修者を前提としなければ、この新制度の存在意義にもかかわる「多様性」という問題をクリアするとされない、というヨミです。これは、一見して多様性確保において機会保障の観点で、明らかに開かれている旧司法試験体制に対抗しなければならないという、この新制度の抱えている現実の反映です。

     しかし、当初から、いくらなんでも、既修者よりも未修者を本道とするような制度になるのか、現実から一足飛びに、未修者が既修者よりも新制度を利用することになるのか、という疑問が専門家のなかに当然ありました。意識としてそれをつくるという前提は、法学部出身者じゃなくても、いわば「誰でもなれる」という制度が、志望者を生み出すという、現実の創出が必要ですが、それができるということも、多くの人間は懐疑的だったと思います。

     そして、もう一つは、3年という期間設定の意味です。1年で追いつくことが無理ならば、ここを長くとることが考えられなかったのかという話です。これもいうまでもないかもしれませんが、これはあくまで未修者にとっての制度的な妙味です。ここに法学部経由に匹敵するような時間的負担を作ったらば意味がない。むしろ意味ないととられる、生徒が来ない脅威の裏返しです。目標を高く設定したというかもしれませんが、ここに無理は百も承知で、また、できる裏付けもなかったこの制度を選択した理由があったのではないかという疑念が浮かんでくることになるのです。

     今、法科大学院制度はこのままではもたない、という認識を持ち始めている大学関係者のご意見を聞いても、実は初めからこうしたことは分かっていたのではないか、という気持ちにさせられます。これからの「改革」においても、この設計にどこまで期待しているのか疑問ですし、そもそも今後においても、ここで描かれたような未修者コースを本道とするような教育を大学が背負い込むことは現実的には厳しく、法学部の再建とともにやはり既修者「標準」にシフトする方向が現実的とする見方が強まっている印象を持ちます。

     「多様性」という理念の破綻。その理念の前に何に目をつぶったのか、なぜ分かったうえで駒を進めたのか――。その無理が、今、問われ直されるべきところにきています。


    ただいま、「予備試験」「日弁連の『法科大学院制度の改善に関する具体的提言』」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    3年コース標準という本道を軽視して多くの法科大学院が既修枠に重点を置いているのに、予備試験を本道でないと批判している現状は…。。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR