就職難を「多様化」と位置づけ出した大新聞

     この司法改革では、この国に大量の弁護士の需要が生まれ、質的にも弁護士は多様化する、という絵が描かれました。しかし、この絵の中のどこにも、弁護士の深刻な就職難を招来するなどということは出てきません。当たり前です。弁護士を経済的に支える大量の弁護士需要が、この国に存在しているという大前提がある限り、少なくともそれを信じた方々には、思いもつかないことだったはずです。そのあるはずの大量需要に対して、法曹の多様性を用意・確保することも、法科大学院を中核とする新法曹養成に期待されたことのはすでした。

     つまりは、多くの人からみれば、現状において、もはや「改革」の見込み違いは、はっきりしているというべきです。ところが、そうではないんだ、という論調を大新聞が掲げています。

      「弁護士増員は司法試験受験者の就職模様を変えた。それは単なる就職難というより、法律専門家の多様性、流動性を高めたといえる」

     弁護士増員にスポットを当てた、11月19日付け日本経済新聞朝刊、法務面の特集は、こんな分析をしています。司法試験合格者が弁護士登録しなかったからといって、就職難とは言い切れない。三井物産内定者は司法修習に行かずに内定した。2010年の司法試験合格者で司法修習に行かなかった者は52人と前年の22人から急増したが、むしろ就職先をみつけたため。官公庁は弁護士登録を認めない場合も多く、企業も資格にこだわらない、といっている。司法試験合格で必ず弁護士になるという「常識」自体が崩れ始めている――。

     就職難が、需要の見込み違いではなく、「多様性」向上の表れだという論調です。さらに、即独成功事務所、大学・メーカー転職成功組、さらには受験回数制限で司法試験を手控えざるを得なかった就職組まで、まさしく「生存バイアス」(「ある法学生の『選択』」)そのものという扱いで、「多様化」する弁護士・法科大学院修了者例として取り上げています。

     少なくともこの世界を見てきた方からすれば、この記事にあきれ返る方は少なくないと思います。前記見込み違いによって、法曹志望者たちの「仕方がない」選択が生まれていることを、どうしても認めないと立場に読めます。ただ、別の見方をすることもできます。「仕方がない」選択を無理矢理させるのが、この「改革」だったという見方です。激増させれば地方にもいく、分野的「空白地」に行かざるを得ない、強制的に弁護士を「多様化」させられる――。しかし、そうだとすれば、冒頭の描く方は、一体どうみるべきでしょうか。「多様化」とは、弁護士になりたいという志望者の気持ちを、結果的に断念させる地平に広がっているものとして想定されていた、と。そうだとすれば、それは先に言え、ということになります。もっとも、その化けの皮がはげた結果が、今の法曹志望者減の一つの要因ととれますが。

     日経の記事には、既存の弁護士の即独に対する受けとめ方について、ことさらに誤ったイメージを植え付けようとしているとれる下りもあります。

      「若手を受け入れる余裕がなくなってきた先輩側には『就職先なく、やむを得ず開業した未熟な弁護士』と揶揄する響きがある」

     こうした見方をする先輩が皆無といえるかは分かりませんが、私の知る限り、多くの弁護士は「揶揄」しているわけではありません。「未熟」な後輩になんとか救いの手を差し伸べたいとする気持ちともに、依頼者への影響やこうした弁護士が生まれる現状を、真剣に憂いている弁護士がほとんどとっていいと思います(「『採用しない』責任、『採用する』責任」)。

      「就職活動で苦労する修了生を生み出しつつも、弁護士ゼロ地帯の解消につながり始めた弁護士増員と法科大学院制度。現在、政府は両政策の評価と再検討を進めているが、利用者の視点で検証する姿勢は欠かせない」

     日経の記事は、こんな言葉で締めくくられています。「改革」の見込み違いを認めず、現実を歪めてまで、「村」の一員が、なりふり構わず、何を守ろうとしているのかは、明白というべきです。


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    そもそも司法制度改革に伴う法科大学院の理念である「多様性」とは、「法曹」の「バックグラウンド」の多様性のはずです。それが、この新聞記事では「法曹」が「法律専門家」に、「バックグラウンド」が「就職先(進路)」にすり替えられているような印象を受けます。司法試験合格者を「法曹」として輩出できなくなったこと自体が制度・理念の破綻だと認めた上で、想定外の事態として進路の多様性が生じた、と言うのであればまだ分かりますが。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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