日弁連内「やむなし」論の評価

     いまでは当たり前に目にすることになっている捜査の「可視化」という表現自体に対して、かつて検察幹部のなかには、強い反発がありました。「可視化」とは、文字通り「見ることができる」ということですが、弁護士会側が当初から使っていたこの言葉に対して、検察幹部は一部録音・録画の「試行」を検討・実施する段階になっても、「これは日弁連がいうような『可視化』ではなく、あくまで捜査の適正さを証明するための手段にすぎない」などと言っていました。そして、「『可視化』をいうならば、捜査構造全体の改革を議論してもらうことになる」と付け加えていました。

     ただ、当時から、この「可視化」を検察が受け入れざるを得なくなった場合、当然、検察側があるカードを切って来るだろうことはいわれていました。つまり、検察が長年欲しがっている武器、「新たな捜査手法」付与を、いわば交換条件とするということです。オトリ捜査、盗聴拡大から無令状捜査までが取りざたされていました。少なくとも、その中身はともかく、絶対にこういう話になる、という見通しです。

     検察に対する厳しい世論を背景に、「可視化」受け入れ「やむなし」の流れから、現実は予想通りの展開になっています。ただ、問題は、弁護士会側の受けとめ方です。従前から「新たな捜査手法」を人権上問題視する立場ではありながら、全面可視化には、この条件も「やむなし」という見方があることです。

     そして、これと全く同じような話が、今、少年法改正をめぐる問題でも聞こえてきます。少年審判に国選付添人が選任される対象事件の範囲を、長期3年を超える罪にまで拡大するとともに、非行事実の認定に必要な場合は、検察官が立ち会うことができる対象事件も、同様の範囲に拡大するという話です。9月に法制審議会に諮問され、少年法部会で審議が始まり、来年1月までに答申という予定になっていると伝えられます。

     少年付添人の全面的拡充は、日弁連側の悲願。一方で、検察官関与の拡大は、ますます少年法の理念から外れ、重罰化の危険からも、もともと問題視する立場。ところが、どうも執行部筋では、ここでも「やむなし」論が強まっているという話が聞こえてくるのです。

     もともとの日弁連側の主張である、すべての身体拘束を受けた少年やその保護者の請求で国選付添人を付ける制度からは、今回の形は裁判所裁量に委ねられることになっている点でも、後退しているという見方はありますが、国選弁護士が付かなければ、今後も日弁連が会員から特別会費を徴収して、いわば持ち出しで付添人に報酬を支払う(少年保護事件付添援助制度)を続けなければならない、今、この条件をのまなければ拡充を見込めない、という考えのもとに、「やむなし」論がいわれているようです。

     しかし、こういう交換条件は成り立つとみるべきなのでしょうか。これを政治的な「大人の対応」とするような考え方が、弁護士会のなかに広がっているとすれば、少なくとも弁護士という職責として、あるいは筋の通し方として違うように思えます。どうも「改革」でも、「一歩前進」論や「実をとる」といった論調で、妥協案を飲む弁護士会側のスタイルを見てきたように思いますが、それが本当にいわれるほど弁護士会側の思惑通りになっているのかには疑問もあります。

     かつての絶対反対の弁護士会の姿勢を「玉砕型」などと揶揄する意見は、実は内部もありますが、そうでない道を選んでいる弁護士会の姿勢は、今度は専門家集団として、むしろ国民には分かりにくい存在にもなります。だめなものは、だめという姿勢がむしろ必要であり、存在としても期待されるのではないでしょうか。

     今回の検察立ち会い拡大も、「新たな捜査手法」も、言ってみれば、戦略的に弁護士会側の「悲願」に付け込んできたものという見方をしている弁護士もいます。国選付添人拡充は切り離し、検察官関与には断固反対すべきという意見に対し、「やむなし」側からは両者を切り離して提案された場合、検察官立ち会いだけが通ってしまうという、弁護士会側からすれば、最悪の結果を恐れる見方も出されているといいます。

     日弁連、弁護士会のあり方にもかかわってくる議論という面からも、注目する必要があるようです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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