「修習辞退」という現象が意味する本当の深刻さ

     弁護士の就職難と経済的困窮という現実があるなかで、司法修習生の給費制をやめるということが、司法試験合格者の修習断念につながることの深刻さを、これを推進した方々は、どのくらい認識していたのか。そのことを改めて考えてしまいます。

     2008年22人、2010年52人、2011年62人と、増え続ける修習断念者の数。65期修習生の3割近くが修習辞退を考え、その84%が貸与制の不安、74%が就職難と弁護士の経済困窮を理由としています(日弁連調べ)。ただ、この数字からだけでは伝えきれない、彼らの置かれた状況を伝える声が、先日行われた日本民主法律家協会の司法研究集会でのビキナーズ・ネット前代表、渡部容子弁護士の報告で配布された資料に出できます。

     大学・大学院で奨学金を多額に借り、教育ローンも組んだ結果、1200万円近い借金を抱え、とりあえず修習辞退を決断せざるを得なかった合格者の声――。

      「弁護士になれば収入があるのだから返せるではないか、という意見もあるでしょうが、これから弁護士増員されていく中で、多額の返済を毎月行うことに耐えられるだけの収入を弁護士として得られるという確証はどこにあるのでしょうか」

     彼も、前記した統計の84%ないし74%に含まれる理由を挙げていますが、実はわれわれがもっと注目すべき、彼の思いは次につづられています。

      「そもそも私は、市民に身近な、気軽に法律サービスを安価に提供できる弁護士になることを希望しており、ボランティア的な公益活動も積極的に行っていたいと考えているため、弁護士という仕事に高収入であることを期待していません」
      「借金を返すために収入になる仕事を積極的に行い、そのせいで公益的活動ができなくなったり、安価なサービス提供ができなくなったりしてしまったら、私は何のために弁護士になったのか分からないと思ってしまう」

     この政策が、どういう志を摘み、どういう弁護士が生まれることを排除しているのか、をまさに証明する言葉です。ここでもまた、給与制体制でも、彼のような弁護士ばかりではなかった、という人もいるかもしれません。しかし、少なくとも、かつてならば生まれたはずの人材が生まれない現実は、もはや悪化という表現しかありません。

     一方で、修習辞退すらできないという人もいます。合計700万円近い借金を抱えている32歳合格者の声――。

      「修習を辞退することは、修習以外の選択肢があってはじめてできることです。まだ、若い学生の方々は、別の選択肢をとることもできるでしょう」
      「自己責任で反論されるかもしれませんが、私の入学した平成20年4月はリーマンショック以前で、合格者の就職状況もそれほど悪化していませんでしたから、借り入れ時点では『合格すれば返すことができる』と考えていました。おそらく誰もがそうだったと思います。これは自己責任を問う話ではなく、セーフティネットの有無の問題だと思います」
      「苦しんでいない方もいることも、しばしば話題に上ります。しかしそれはお金持ちの方です。『お金持ちしか法曹になれない』のは、まさに社会人にこそ当てはまる言葉です」

     もちろん、これから彼は、苦しいなか弁護士になり、成功していくかもしれないし、それを強く望みたいとは思います。また、それをもってして、彼自身が「やれること」を証明したと評価する人も出で来るのかもしれません。ただ、少なくとも、この状態が「多様な人材の確保」をうたった新制度の結果にふさわしい環境なのかということは問われなくてはなりません。「お金持ちしか」論にしても、少なくとも、この現実の前には詭弁のような扱いにはならないと思います。

     彼らの選択は、あくまで彼ら個人の事情によるものです。しかし、それで片付けられないのは、彼らと同様の事情を抱える合格者の存在はもちろん、その向こうには、本来、この世界に必要でありながら、彼らの状態を目にし、こうした声を聞いて法曹界を目指さなくなる多くの人間がいる、あるいは生まれるという現実があることです(「法曹志望者たちが断念した後の未来」)。

     断念する旧制度に比べて、新制度がもたらしている環境が、本当に「市民のため」あるいは市民が本当に求める弁護士を輩出するものになっているのか――。われわれがこだわるべき、その一点を彼らの声が投げかけています。


    ただいま、「給費制廃止問題」「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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    まとめ【「修習辞退」という現】

     弁護士の就職難と経済的困窮という現実があるなかで、司法修習生の給費制をやめるということが、司法試

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    No title

    分からんけど、そんなに返せないのなら、一回破産してから修習しに行けば?
    返済能力のない依頼者には、将来、そういう道を進めることもあるのだろうから。

    客観的に自己の現状を分析出来ない時点で、弁護士としての能力に疑念が。。。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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