「打って出る弁護士会」の論法

     東京弁護士会内の会派(派閥)、期成会の今年度の基本政策には、次のようなタイトルが付されています。

      「市民の司法アクセスの大幅拡充と会員支援の強化~人権の担い手として打って出る弁護士会を~」

     この「打って出る弁護士会」という威勢のいいフレーズが、まさしくかつて「改革」に「打って出る」ことを選択した弁護士会の「路線」を、そのまま受け継いでいるこの基本政策の基調を象徴しています。政策提言は多岐にわたりますが、基本には、弁護士激増政策を前向きに受けとめ、弁護士会活動の存在感を前面に打ち出す、会務拡大路線を読み取ることができます。そして、それは大都市弁護士会の「改革」推進派のなかにある、典型的な「論法」でもあります。

     しかし、弁護士会活動の存在意義は認められても、おそらくこの「論法」には、地方の弁護士に限らず、東京の弁護士のなかにも、よそよそしいものを感じる人間が、いまや少なからず存在するはずです。それは、根本的な現状認識の違いが、この「論法」との間に存在するからです。

     この基本政策は、弁護士増員政策という観点からの、「改革」の成果・到達点として、以下の点を挙げています。

     ①被疑者国選弁護人制度の対象事件拡大に伴い、弁護士の数と全国の配置状況に照らして対応態勢が確保できるのかという危倶があったが、各地の弁護士数の増加と弁護士会の奮闘により、順調に運用。身体拘束を受けた全ての被疑者に国選弁護人を付けるべきであるとの制度改革を求めるまでになっている。
     ②少年事件当番付添人制度についても全国の弁護士会で開始。対象少年の範囲の拡大も各弁護士会で進み、少年鑑別所収容の全少年に「国選付添人を付することができるようにする制度の実現を、日弁連が強く求めるに至っている」。
     ③弁護士過疎地域への対策、弁護士ゼロ.ワン地域解消が進んでいる。
     ④総合法律支援法で民事法律援助予算が増額。また、生活保護者については、から償還猶予および免除の運用が原則化している。
     ⑤日弁連が法テラスに委託して実施している「その他7事業」についても利用件数が増加、従来弁護士の援助が受けられなかった社会的弱者の権利救済が進展している。
     ⑥裁判員制度が実施され、多くの市民が刑事裁判の手続と判決に関与している。裁判員経験者の多くが、貴重な体験であったと述べており、市民が犯罪の背景や要因を深く考える契機になっている。

     基本政策は「総じて、弁護士数の増加により、市民が『いつでも、どこでも、だれでも』弁護士にアクセスできる環境の整備が全国的に進んでいる」とくくっています。前記の点は、いずれも増員政策の「成果」として、良く並べられるものです。ただ、これらが現象としては確かに認められても、これを単純に激増政策の効用とだけみることはできないことです。いうでもなく、これを支えてきたのは、個人事業者として自立せざるを得ない弁護士であり、こうした「成果」がその基盤たる弁護士の生活を必ずしも支えきれるものではないからです。ゼロ・ワン解消を含め、かなりの部分、採算性とは違う次元の有志の精神が支えてきたといってもいいものです。

     その点を、この「論法」がどうとらえているのか、という問題こそが、前記「よそよそしい」感じが生まれる根本にあります。その点の配慮をこの基本政策のなかに見つけようとすると、同政策が、やはり大量の弁護士の経済基盤を支えてくれるニーズが、この国に存在しているという見方に立っていることが分かります。対策として注目しているのは、結局のところ、法律相談、新分野進出。前者については専門分野別相談や登録制度弁護士制度創設、後者ついては社外取締役・監査役はじめ企業・組織活動への拡大を挙げています。

     アクセス改善、開拓、そしてそのための増員ペースダウンというのは、まさに弁護士会内増員論の、この点に関する基本的な「論法」ですが、この根本的な認識は、大量弁護士を支え得る相当な規模の経済的なニーズが、掘り起こしさえすれば、この国に存在しているというものです。果たしてアクセスさえ改善されれば、弁護士におカネを投入する用意がある市民が潜在しているのか、進出できる分野の規模は本当に増員数に見合うものか、漠然とした話ではないのか――当然に、こうした疑問が出てくる話なのです。

     かつて弁護士会活動の拡大・充実というテーマが、それを支える個人の経済基盤というものと、今日ほど結び付けずに、あるいは前提として取り上げなくても、「べき」論として提言することができてきたのは、やはり弁護士にそれなりの経済基盤があったからといえるかもしれません。挙げた手は降ろせないかのような「打って出る」こと一辺倒の弁護士会の姿勢は、本当の意味で会内コンセンサスができていることなのか、という投げかけもしなけばりません。

      「司法需要の増大とのバランスを逸した弁護士の増加により、弁護士が会務に結集する余裕を失い、会費の負担も過重となりつつある。弁護士会への全員加入に対する見直しの声すら起こりかねない」

     基本政策のなかには、弁護士自治に関して、こういう現状認識が小さく出てきます。多くの会員弁護士が置かれた現実からすれば、前記してきたような「論法」の無理も、それがよそよそしく受けとめられることも、大都市弁護士会の推進派の方々は、すべて分かってやっているのではないか、という、妙な気持ちにもなってきます。


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    会計士の増員失敗が、このような一般人のネタに使われるぐらいですから、司法試験の失敗ももう公知の事実になるでしょうね。(´Д` )
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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