大新聞が着目した弁護士増員の「実害」

     成年後見監督人の立場を利用し、後見を受けていた福岡県内の女性の財産約4400万円を詐取したとして、元九州弁護士会連合会理事長が逮捕された事件(「不祥事の理由とされた『会務多忙』」)を11月11日付け毎日新聞朝刊(西部、毎日jp)が、改めて次のような角度から取り上げています。

      「弁護士業界:苦しい台所事情 『司法改革で三重苦』」

     この見出しで明らかなように、この記事は、今回の事件の背景に司法改革での弁護士激増政策がもたらした経済環境変化があるという見方があることを伝えています。司法改革で、弁護士は10年前の1.7倍に。2006年ごろから全国的に相次いだ「過払い金返還請求訴訟」も収束し、弁護士への相談案件が減少。2003年に簡裁代理権が司法書士にも認められて競争に拍車。弁護士からは「仕事の取り合いが現実」との声も。全国の弁護士の年間平均所得は10年前から約18%ダウン――。

     見出しの「三重苦」とは、弁護士増、仕事減少、司法書士参入を指しています。あくまで同業者たちの声を借りる形ではありますが、実績のあるベテラン弁護士が今、なぜ、という疑問に、記事は、一つの回答を導き出そうとしています。以前のエントリーでも書いたように、弁護士が依頼者のおカネを詐取するという行為の重大性からすれば、すべて弁解がましく聞こえますし、それを同業者が口にすることに対しては、異論を唱える人もいるかもしれません。経済環境の変化を不正の理由にするな、甘ったれるな、と。

     ただ、むしろ、それだけに大新聞が、この着眼で今回の事件を取り上げたことには、意味があります。逆に、これはどんなに弁護士の「心得違い」をいってみたところで、市民が背負うことになる「実害」につながるということです。弁護士を激増させて、何の「実害」があるのか、ほとんどない、メリットが上回るという意見に対して、提示している現実です。弁護士を「甘やかす」必要はないけれども、一方で弁護士を経済的に追い詰めて、市民に現実的にどういうしわ寄せがくるのか。そのことを、少なくともこの記事には、前記異論も分かったうえで、市民にフェアに提示して、判断を仰ごうとする姿勢が読みとれます。

     つまりは、それでも激増政策を支持しますか、あるいはそれでも激増にメリットを見出しますかという話です。さらにいえば、増やすというのであれば、こうした市民にツケが回って来る環境は、何の手当てもしないで、ただ、増員政策を続けるだけで、大丈夫なのか、という疑問を喚起することにもなります。つまり、この政策が続く限り、この「実害」が生まれる危険な環境が続くのか、ということです。競争によって、問題弁護士が淘汰され、退場していくという考えに果たして丸投げできるのか、そのいつまで続くか分からない淘汰の過程で生まれ続ける犠牲者の問題を、この記事は気付かせるものといえます。

      「今さら何を言っているのやら。それを望んだのが司法改革だったんじゃなかったのか。多くの弁護士が現在の事態を予測し、警告をしてきたというのに。それを無視してきたのは誰だというのか」(「Schulze BLOG」)

     この政策に危機感を抱いてきた多くの弁護士からすれば、この記事に対して、こうした感想を持ってしまうことは、理解できます。その危機感をいう弁護士の声を、「自己保身」と一くくりにして、耳を貸してこなかったのもまた、大新聞でした。

     しかし、この政策は、やはり依頼者・市民の「実害」と、弁護士ではなく、依頼者・市民の現実的救済という観点からも、見直さなければなりません。


    ただいま、「弁護士の競争による『淘汰』」「地方の弁護士の経済的ニーズ」についてもご意見募集中!
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    No title

    日経新聞によると、未登録者が増えたのは就職難じゃなくて法律専門家の多様性、流動性が高まったからだそうですね。
    http://www.nikkei.com/article/DGKDZO48547320X11C12A1TCJ000/

    弁護士増員はあくまでも利益が多いというのが大手新聞のようです。

    競争を排除?

    ▷弁護士を嘆く さん

    アメリカの富裕層の重税とか、全く違う話を比較に出されても困りますね。米国の持ってる人は払えるのでしょうが、日本の弁護士は単なる個人経営者。比較なんかできません。

    刑事事件、少年事件、環境訴訟、憲法訴訟、消費者事件、こうした事件の大部分は金になりません。被害者から、さらに解決名目で通常金額なんか取れませんよ。

    こうした分野では、弁護士は手弁当で受けて、訴訟や法改正の原動力になってきました。

    現状の自然淘汰を進めると、そうした活動から担いてがなくなる、というだけの話です。そして、その影響を最も受けるのは、弁護士費用を十分払えない一般市民なんですけどね。

    アメリカみたいな訴訟社会になって、弁護士が救急車の追っかけになったり、ドラキュラのようだと揶揄されるのが理想というなら別ですが。

    おまけに、参入障壁になっているのは、もともとロースクール卒を受験資格にした現制度です。
    そして、莫大な税金と生徒の高い学費を費やして試験に受かっても、現在の合格者数ですら就職口がないなら、この制度の存在意義が問われてしかるべきです。

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    協力な参入規制による、競争の排除を特権と言っているのです。

    嘆きの弁護士さんは、オバマ政権による富裕層への増税をどう考えているのでしょう。

    増税などすれば、貧しい人に寄付する富裕層がいなくなるので、割を食うのは結局市民だというお考えなのでしょうか?

    特権?

    ▷弁護士を嘆く さん

    何を特権とおっしゃってるのでしょか。訴訟を行うことは仕事柄とうぜんです。医者しか医療行為をしてはいけないことを特権とは誰も言わないでしょう。

    法曹人口を杜撰な需要予測で増やした結果、修習を終えた者の400人余りが二年連続で就職口がないという現実を無視してませんか。彼らの育成にはすでにローの支援で莫大な税金がつぎ込まれています。それが無駄になっているのです。

    食えないから皆盗っとになるなんて誰もいっていません。現状が進めば、誰ももうボランティア活動なんてできなくなるし、お金になる仕事でないと受任しなくなるだけの話です。弁護士は公務員ではありませんし、霞を食って生きてはいけません。

    そうした結果、割りを喰うのは結局市民というだけのことです。そんな改革を継続していいのかが問われているのです。

    大学利権のためだけに、政策的に弁護士やその家族を困窮させてるわけですから
    当然の帰結ですよね。かといって犯罪は正当化できないのは当たり前ですが。

    大増員政策翼賛派からすれば、想定の範囲内のはずですがねえ。

    特権を与えられて、不当な高額報酬を貰えないと、悪事を働くぞという脅しですな。

    弁護士って、バカなんですか? 恥知らずなんですか?

    http://www.mbs.jp/news/kansaiflash_GE121115205300630267.shtml

    大阪弁護士、6000万詐欺で逮捕

    これからもぞくぞくでてきそうですね。これが自然淘汰論の帰結ではないでしょうか。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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