不祥事の理由とされた「会務多忙」

     元九州弁護士会連合会理事長が、成年後見監督人の立場を利用し、後見を受けていた福岡県内の女性の財産約4400万円をだまし取り、使い込んでいたことが発覚。福岡県弁護士会が懲戒処分と刑事告発も検討するという報道が流れています(10月26日付け西日本新聞朝刊)。

     ブロック会の理事長という立場に加え、彼は同弁護士会の綱紀委員を務めていたことも伝えられており、弁護士会の自浄能力を含め、弁護士全体の信用失墜につながる事件であることは間違いありません。県弁護士会会長が会見で「言葉も出ない」と語ったことも報じられていますが、事態は相当深刻と考える必要があります。

     新聞報道によれば、その元理事長が県弁護士会の事情聴取に対し、事実関係を認めたうえで、次のように語ったとされています。

      「事務所経費や生活費に使ってしまった。理事長時代の業務が忙しく、仕事ができずに収入が減ったことから、お金に困っていた」

     どんなことを言ってみたところで、弁護士がおカネを詐取するという行為の重大性からすれば、すべて弁解がましく聞こえてしまいそうですが、問題は、このなかで彼が言った理事長時代の業務の多忙による収入減が原因という話です。実は、この手の不祥事にかかわる弁解のなかで、「会務の多忙」を理由として挙げたものを、あまりお見かけしたことがないように思うからです。

     彼は、なぜ、ここであえて、このことを挙げたのでしょうか。その真意も、また、それが事実であるかも、今、正確に確認できませんが、もし、彼がこれをあくまで「弁解」としてひねりだしたものだとすれば、弁護士としての「公的な」活動が一因とする、いわば、弁護士としては体裁のいい酌量の余地を織り交ぜたことになると同時に、むしろ弁護士会側からすれば、不当な言いがかりということにもなります。

     ただ、前記したような事態の深刻さから考えれば、弁護士・会は、むしろそう片付けない方がいいように思うのです。彼が行ったことの理由にならないことは、もちろん、どんな多忙な会務を抱える弁護士でも、犯罪行為に手を染めない人間は染めないという事実で、それこそ説明がついてしまいますが、会務が個々の弁護士の業務にどういう影響を与え、あるいは圧迫している現実があるのかは、直視すべきことだからです。

     弁護士の間でいわれているもので、「多重会務者」という言葉があります。多数の委員会をかけ持ちしたり、会務をいくつも抱えている立場を、「多重債務者」をもじっていったものです。この現象は、「仕事ができる人間に仕事が回る」ということと、「仕事を引き受けてしまう人間に仕事がまわる」ということによって起こっているともいえ、当事者がこの言葉を口にする分には批判なニュアンスよりも自嘲的な響きを帯びます。

     しかし、一方でこれは弁護士会の病理的な現象ともいえます。それはなり手がいない、という問題とともに、その裏返しとして、会務が多過ぎるという問題としても指摘されます。会員数が少ない地方会での負担ということもありますが、そもそも弁護士会が会務を作り過ぎているのではないか、無理をし過ぎているのではないかという見方が会内にあり、むしろ、高額な会費への負担感を感じている会員が増えているなかで、後者の見方は強まっている感があります。

     会員が増え、会費収入も増えているのに、なぜ、会員の負担は減らないのか、という声を当の弁護士からも聞きます。また、会外からは、会員増で弁護士会は相当潤っているのではないか、といった目線を向ける向きもあります。そこには、人やおカネが増えたらば増えただけ仕事を増やす、挙げた手は絶対に降ろさない会務拡大路線を追及する弁護士会の根本的な姿勢が、既に限界にきている、という現実があるように思えるのです。

     しかも、この問題は、現在、激増によって、個々の弁護士の業務が経済的に厳しい状況にあるということを、前提として考えなければなりません。「圧迫」という現実があるなかで、どのような会員のコンセンサスが得られるのかという視点です。

     このことに関して、ある弁護士のブログが(「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」)、次のように的確に分析しています。

      「会務=公益だとしても、会務が、すべて弁護士の手出し&労働で行われていることは、市民の99%が認識していないと思われます。このことから、認識してもらえないなら(あるいは、自分の仕事(弁護士としての)のスキルアップに役立たないなら)意味が無いからやめるべき、と考えるのか、または、市民に認識してもらう必要はない、弁護士(会)としてやるべきというコンセンサスがあるからやっていると捉えて継続すべき、と考えるのかについては、議論が分かれるところだと思います」
      「前者の考え方は、会務も『弁護士業界』のアピールないし広告、もしくは自分のスキルアップ手段として捉える考え方です。後者の考え方は、会務とはそうした次元のものではなく、完全に利他的なものであって、何らの見返り(自身の弁護士としてのスキルアップも含め)も期待してはならない、とする考え方です」
      「若手の多くは、弁護士会の会務に対して、前者に属するものに限定すべきという考え方に親和的な人が多いのではないかなと、勝手に考えています。もちろん、前者と後者は渾然一体となっていて、そのいずれに属するかはっきりと分けられない種類の会務もありますから、一概に言えません。しかし、会務に対する携わり方を外から見ていると、『ためにならない会務』からはどんどん人が離れているように思えてならず、だからこそ、会員が増えれば会務も充実するという考え方は、あまりにも見方が甘いし、現実が見えていないと思うのです」

     既に限界にきている今までの弁護士会のやり方を、抱え込んでいるベテラン層が存在していることは事実です。その無理は、どう考えるべきなのか。元理事長の弁解は、およそ受け入れられませんが、この事態に対して、弁護士・会が考えるべきこと、あるいはやれることを、ここから読みとることはできるように思えます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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