それでも弁護士を目指すのか

     分かっていても、時々、妙な気持ちになります。

     「法曹人口を増やす」とか、「計画通りならば、10年後は5万人」とか。

     こういう法律家たちが、「職業選択の自由」という言葉を知らないわけではありません。法曹になるかならないかは、国民の勝手。つまり、こうした意見と議論は一つの大きな前提のうえに成り立っています。

     それは法曹、とりわけ弁護士が、これからも多数の国民が目指す、「人気商売」であり続けるならば、ということです。

     これまでは、「日本一の狭き門」といわれた司法試験に志願者が殺到していたのですから、「門番」の調整一つで、確実に増員できる、という話だったでしょう。

     でも、法曹志望者注目の法科大学院も「7、8割合格」の化けの皮がはげ、弁護士になったはいいが、職はない、羽ぶりのいいのは一部に限られ、全体の平均年収は警察官よりも低いらしい、といったことが、広く国民に浸透したならば、どういうことになるでしょう。

     どんなに法曹界の人間があがこうと、食えないところに人は集まらず、増員は夢に終わるはずです。だからといって、「増員問題は存在しない」ということにはなりません。仮に、将来的にこうした形で増員が不達成に終わるとしても、その間に多数の法曹と法曹志望者、ひいては依頼者である国民の血が流れることになるからです。

     実は有識者を含めて増員論の方のなかには、市場原理を重んじて、多数の弁護士がサービス競争を行い、「淘汰」されていくことで、いずれ質も確保できるというお考えの方も多いわけですから、そういう方こそ、食えないところ、おカネにならないところに、人が来ないことも、人一倍よく理解されているはずですし、当然であると受け止めてしかるべきということになります。

     つまり、彼らもそこまで国民からこの仕事が見放されるとは、ゆめゆめ考えていないということです。質については、「淘汰」で楽観視されているということですから、もちろん今、弁護士会が懸念しているような就職難や経済難は、全く問題なし、と考えていなければおかしいことになります。以前書きましたように、それこそが「淘汰」のプロセス。食えない奴は退場しなさい、という話のはずですから。

     もっとも、政府が選んだ「有識者」の方の中には、食っていかれるかは別に、司法試験で上位3000人に資格を与えたら、という人もいるくらいですから、そういう方々も質の確保については、あまり念頭にないか、相当に楽観視されているかの、どちらかではないかと思う時もあります。

     まして、「淘汰」の間の実害などは、増員派の眼中にはないように思われます。

     弁護士会内では、相も変わらず、根拠が示しきれない「ニーズ論」と、現実的なニーズ不足・弊害論の対立が平行線の状態です。もっとも、「二割司法」はいささか誇張しすぎだったととらえる方は、増えてきているようには見えますし、現日弁連執行部も、またこのほど政府が設置を決めたフォーラムでも、年3000人を見直し、増員をペースダウンする気配になってきてはいます。

     ただ、これらも含めて、今、行われているのは、やはり冒頭の前提に立った議論のように思えてなりません。将来、法曹界を志望するかもしれない、市民の目に、この世界がどう映っているかとは、全く別の次元で行われている議論です。

     「7、8割合格」のうたい文句にひかれ、法科大学院に入ったものの、合格できない人や、「修了後5年以内3回」の受験回数制限に苦しむ人の、「新法曹養成残酷物語」もマスコミに紹介されてもいますが、それでもこの世界の多くの人間は、まだまだ国民はこの世界を見放さないという自信があるようです。やはり、この世界の人間は、自らがどう見られているかということを、よく理解していないのではないか、と思ってしまいます。

     増員慎重派の弁護士の中には、増員計画を立てた時点で、もっと自治体や企業の弁護士需要を調査すべきだったとする人もいます。増員による質の低下についても、予想がついたことではないか、という見方もあります。しかし、増員派の大マスコミは、そのことはいわず、依然「官民で就職口を増やせ」と言っています。「まずは、推進派の法律事務所と新聞社が新人弁護士を採用しろ」という声が出るのも無理からぬことのように思います。

     ネット上のYahoo!知恵袋では、「法曹界はもう魅力がないのでしょうか」という問いかけに、こんな回答がなされています。

     「高収入、高地位を求めるのであれば、やめておいた方がいいんじゃないですか。高収入、高地位を確保できるのは、特定分野のエキスパートや大手渉外事務所の弁護士など、弁護士でもごく一部です。三振のリスクもあり、地位・収入を求めるのであれば他に様々な職業もあります」

     法曹界の自信とは裏腹に、もはやこれが、一般の常識的な受け止め方になりつつあるようにすら思えます。まあ、それでも法曹界の人間は「われわれが来てほしい人材は高収入、高地位を求めている人間ではない」といった正論で反論されると思いますが。

     宇都宮健児日弁連会長は、機関誌「自由と正義」の1月号の年頭所感で、昨年立ち上げた「法曹人口政策会議」でまとめる基本政策について、「市民・国民の理解」「世論の理解・支持」を強調しています。

     もちろん、これは弁護士の利用者である国民の理解ではありますが、それは、その法曹人口の未来を支えている弁護士志望者である国民の理解にもつながっていることを忘れてはなりません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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