「ハシシタ騒動」が残しているもの

     話題となっている「週刊朝日」10月26日号掲載の「ハシシタ 奴の本性」を最初に読んだ時、まず、企画自体がこの先にどうなるんだ、ということに強い興味をかきたてられました。初回から、「悪口」ともとられかねない表現での、フルスロットルの橋下徹氏への攻撃、「被差別部落」につながる出自にふれる暴露的内容。これに問題化する声が上がらないわけがなく、当の橋下氏が黙っているわけもない。だから、むしろ興味はそれを乗り越えて、同誌がこの連載をどう進めるつもりなのかの方にありました。

     展開は予想通りになりました。しかし、ここで肝心なことは、前記興味の前提でもありますが、同誌と、おそらくこの企画を把握していたはずの朝日新聞も、この展開、つまりはこの企画に対し、当然批判が出され、問題化することを予想しなかったわけがない、ということです。つまり、批判は覚悟のうえ、百も承知でやったはずではないのか、と。

     今、その目線で初回記事を読めば、そこにはこの企画に対する、いわば確信的にこの切り口で望む自信が読みとれます。「この連載で橋下の政治手法を検証するつもりはない」、この連載で解明したいのは「橋下徹という人間そのもの」であって、「一番問題にしなければならないのは、敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格であり、その厄介な性格の根にある橋下の本性」であり、それに迫るために「橋下徹の両親や、橋下家のルーツについてできるだけ詳しく調べあげなければならない」と、はっきりと宣言しているのです。つまり、そうした批判を乗り越えてでも、この企画の意義を社会に納得させてみせる、というつもりかとも思えたわけです。

     だから、むしろ驚いたのは、同誌側が早々に白旗を上げ、これが連載中止という全面敗北に終わったことでした。お詫びが掲載されるという11月2日付けで何を語るのかも、関心をもっていましたが、その意味では、ここでは何も語られていないのと同じでした。「差別を是認したり助長したりする意図」はないが、「不適切な表現」と「ジャーナリズムにとって最も重視すべき人権に著しく配慮を欠」いた、と。しかも、これが部内の誰かの独断で間違って載ってしまった、通過してしまったというのではなく、表現方法や内容について、編集部での検討だけでなく、社内の関係部署のチェック、指摘も受けながら進めたと、同誌編集長は言っています。組織として、入念にチェックした結果である、と。

     ここで二つの疑問があります。一つは、問題が表現上のミス、行き過ぎであったというとならば、きちっと謝罪・訂正し、あそこまで確信的に宣言した企画の目的は達成するという選択肢がなかったのか、ということです。もっとも、この企画には、どうしても手法として、問題視されるようなことを抜きには進められないから断念せざるを得ないということなのでしょうか。それが、こういう展開になって、はじめて分かった、というのも、信じ難い話です。それとも、何か予想外の批判の強さに、持ちこたえられないという判断が働いた結果でしょうか。

     そして、もう一つは、一体の何のミスということになるのか、ということです。組織として入念なチェックが行われるなか、前記したように誰もこの展開を予想しなかった、ということでしょうか。表現的にも誰も問題視しなかったのは見落としのようなミスなのか、それとも分かったうえで大丈夫、問題ない、それでもやるという確信があった話なのか。そのどちらかで、大分、話が違ってきます。今後の検証でも、前記チェック過程がどれも正しく機能しなかった、という通り一変の「反省」では、説得力があるとは、とても思えません。企画意図が間違っていた、とは同誌はいっていない以上、そこはこのチェック過程で経てゴーサインを出したこと(企画自体は正当と見たこと)については、「反省しない」立場を貫かなければならないはずですが、そこも注目してみていかなければなりません。

     鋭い切り口で現実をえぐり出す数々の作品を世に生み出してきた、それこそベテランのノンフィクション作家である佐野眞一氏がかかわっているだけに、彼にも本当のことを聞きたくなります。

     この問題をめぐっては、弁護士のなかからは、出自を理由とした「差別文書」として批判する意見( 「なんばの弁護士-梁英哲弁護士のブログ」や、やはり問われるべきは橋下氏の政治手法であり、こうしたアプローチが結果としてその批判を妨げることにつながるといった、表現・手法において問題とする見方が多く聞かれます。しかし、その一方で、弁護士の立場からも「人権を侵害していない」という主張( 「Everyone says I love you !」)もあるほか、同和地区特定をめぐる批判についても疑問視するジャーナリストの見方(「マリードフットノート」もあります。

     いうまでもなく、週刊誌が連載中止に追い込まれるという事態は尋常なことではありません。何が問題にされなければならなかったのかは、この騒動が、後々、別の問題を残したということにならないためにも、きちっと明らかにされなければなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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