「割りに合わない」という対応

     依頼者が弁護士に持ち込んだ案件について、「割に合わないから引き受けてくれない」という話を、最近、よく耳にします。もちろん、こういう話は、慎重に耳を貸す必要があります。裁判そのものは、弁護士費用などを含めれば、勝っても賠償金額に見合わない、足が出るというであれば、それは「依頼者にとって」割に合わない。だから、もし、そうであるならば、そのことは弁護士がきっちり説明していなければなりません。

     ただ、そうした案件で、気になることは、前記説明か十分でないために、すべて「弁護士にとって」割が合わないから引き受けてくれない、と理解されているのではないか、と思えるものがみられることです。そして、もう一つは、実は案件によっては、引き受ける弁護士はいる、ということもまた、伝わっていないことです。

     もっとも、弁護士が割に合わないから引き受けない、引き受けることができないということを、頭から問題にできる環境には現実的にない、という言い方もできるかもしれません。弁護士に生存競争を求めるのであれば、より実入りのいいものに弁護士が向かうこと、向かわざる負えないことは当然であって、それが経済的に弱い立場の庶民にとって、望ましくないというのであれば、考えなければならないのは、その「環境」の方です。

     要するに、依頼者にとって割に合わないことが原因であることが伝わっていないもの、本当に弁護士が割に合わないから引き受けないものがごちゃまぜで、そのことを依頼者がよく認識していないのではないか、ということです。そして、後者については、弁護士によって、解釈が違う場合もあるということなのです。

     交通事故の後遺障害14級で弁護士特約がないケースは、ほとんどの弁護士が引き受けない、ということがいわれています。ネット上などでも、そうした情報が流れていることも影響しているようです。ただ、交通問題に詳しい弁護士からは、弁護士の実入りが少なくても、引き受ける弁護士はいるし、案件よって、大きな妙味は期待できなくても依頼者のプラスにもできる、という話を聞きました。最近も、CМなどを派手に打っている法律事務所に「14級」ということで、電話で事実上「門前払い」にされた依頼者の案件を受けたところ、「受けてくれる弁護士さんがいるんですか」と驚かれた、ということがあったといいます。こうした案件は、紛争処理センターへという対応もあるようですが、実際には過失相殺などで争いがないケースでなければならない、といったハードルもあります。

     問題は、こうしたことを含めて、きっちり説明がなされているのか、それが依頼者に伝わっているのか、ということです。現実的に依頼者にとって、どれくらい割に合わない話なのか、逆にある程度は見込める話のかをフェアに伝えていなければ、当然、依頼者はフェアな選択ができず、仮に弁護士の見立て自体に誤りがなくても、すべては弁護士にとって割に合わないから拒絶された、ということとして理解されかねないということです。

     もっとも前記した「環境」ということからすれば、今の方向が結果として、堂々と割に合わないことをもってして事件を選ぶ、あるいは選ばざるを得ない弁護士を増やすのか減らすのか、弁護士の採算性の追及が現実的に一般の依頼者にどのような影響を及ぼすのか、といった問題が、果たしてフェアに伝えられているのかということも、やはり疑問に思わざるを得ません。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    「回収見込みが低い投資はしない」というのは企業も個人も同じです。就職できない可能性が高い業界に800万も1000万も借金して飛び込むくらいなら他の業種に行くのは当たり前です。今や上位ローも下位ローも志望者が激減しています。法曹を漸増させるか激増させるか,という暢気な話をしている場合ではなくなっています。

    No title

    > 通行人さん

     私は、ブログ主が「依頼者にとって」割に合わない場合と、「弁護士にとって」割に合わない場合に分けて書かれていたので、私も同様に、「依頼者にとって」割に合わない場合と、「弁護士にとって」割に合わない場合に分けて書いています。したがって、あなたの批判の前段部分は的を外れていると思います。
     次に、あなたの批判の後段部分ですが、かりに弁護士にとって「何もしないよりまし」という程度で、「割に合わない」ことに変わりはないとしても、以前は「何もしないよりまし」という理由で引き受けようとする弁護士さんは少なかったので、私の主張(の趣旨)は適切であるといってよいと思います。

    > 黒猫さん

     わかりました。そういう事情があるのですね。それは約束(契約)を守ろうとしない依頼者が悪いですね。しかしだからといって、依頼しようとする人全員がそうだということにはならないので、(依頼者側に選択の余地を残すために)事情を説明したうえで、着手金を多めにするなどの対応をとればよいのではないかと思います。

    > もめ48さん

     私の主張はすこし異なりますが、御指摘の疑問にお答えします。
     「利益率の高い仕事」の数には限りがあります。したがって、(1) 弁護士の数が少なければ、弁護士は「利益率の高い仕事」のみを行うでしょう。一部にはその際、時間の空いたときに、「利益率の低い仕事」を行う弁護士さんもいらっしゃるでしょう。しかし、(2) 弁護士の数が増えれば、弁護士は「利益率の高い仕事」のみならず、「利益率の低い仕事」も積極的に受任しようとするでしょう。
     ここで、弁護士の数が多い場合と少ない場合、「利益率の低い仕事」が受任されやすい場合はどちらか、といえば、それはあきらかに (2) です。したがって、大衆の立場で考えれば、(一定の能力を備えた)弁護士の数は多いほうがよい、ということになります。


     なお、私のブログにも、この問題について書きました(↓)。よろしければご覧ください。

    弁護士が増えると弁護士に依頼しやすくなる
    http://blog.goo.ne.jp/memo26/e/0263df6ace1ab00d8512accf885931ed

    No title

    刑事国選は、「自白事件+裁判員対象事件でない」という限定でなら、まだマシでしょうね。
    金額はわずかですが、数か月で終了する・確実に入金がある・弁護人の責任もさほど重くはない、という利点があるらしいので。

    あと、「弁護士をもっと経済的競争淘汰させるために、合格基準をもっともっと下げてとにかく弁護士の肩書きつけた人間を増やせ」 との立場からは(memo氏がそうなのかは知りません)、
    仕事がないから割に合わない業務・お金を用意できない依頼者の相手してるような弁護士は、とっとと淘汰されていなくなれと、
    そんなのには目もくれず、利益率の高い仕事を獲得できる弁護士だけが生き残るべきだと、
    という主張になるはずですがね。

    No title

    依頼者にとって経済的に「割が合わない」事件の場合でも,依頼者が「カネの問題ではない」と主張して事件を依頼しようとすることはあります。
    しかし,実際に事件を引き受けてみると,やはり経済的に割が合わないためか,依頼者が事件処理のための打ち合わせや証拠資料の収集などに非協力的で事件処理に支障を来たす場合も多く,また事件処理が終了しても約定の報酬を支払わない依頼者が多く,ひどい場合は報酬を請求された依頼者が逆ギレして,(割が合わないことについて)受任時に適切な説明がなかったと主張して紛議調停や懲戒請求を起こし,結局弁護士の方が報酬をもらえず泣きを見るということさえあります。
    したがって,弁護士業に慣れてくると,依頼者にとって経済的に割に合わない事件や勝訴の見込みが低い事件は,依頼者が何を言おうと受任せずお帰り願った方がよい,逆にそうしないと弁護士という職業はやっていけないということを誰もが学ぶことになります。これは法曹人口が増えても基本的に同じことであり,ただ法曹人口が過剰になると,そうした経験則を知らない若い弁護士が安易に事件を引き受けてしまうケースが増えるというだけです。

    No title

    〉依頼者としては、「カネの問題ではない」という場合もあるからです。

    それはそうですが,これは,結局,その場合に,依頼者が,労力に見合う正当な報酬を支払えば解決する問題だと思います。
    例えば,経済的利益で報酬額を決めずに,タイムチャージで報酬額を算定するとか。
    そうすれば,弁護士にとっては,割がある事件になります。
    依頼者が金の問題ではないと語りながら,報酬については,労力に見合うものを支払わないから,弁護士が「割にあわない」といって断るだけのことではないでしょうか?

    〉しかし、弁護士の人数が増えれば小さな事件も「割に合う」ようになると思います。



    〉実際には増員の結果、国選弁護は弁護士にとって「割に合う」として大人気になっています。いまや、弁護士の間で、国選の「取り合い」が生じているのではありませんか?

    別に割にあうからではありません。
    たまたま暇な時に,事務所で「ボーとしている」よりましだから,ではないでしょうか?あと,公益活動のため,とか。1年に1回くらいは刑事をやらないと忘れてしまうといけないから,自身の決めたノルマとして,国選をしている弁護士もいます。

    まあ,ボーとしているよりは・・・はさておき,国選が取り合いというわけではありません。
    最高裁案件,死刑判決が大いに予想される案件,否認案件,高裁案件(特に,否認案件・実刑案件)は,いつまでも生き受け手がなく残っているかと思います(最終的にはなくなるので,誰かが受任しているのでしょうが,刑弁委員会の先生でしょうか?)。

    話を戻します。極端な例ですが,たとえば,コンビニの店長から,「100円のアイスを万引きされた。盗んだ奴はわかっている。本人は認めていないが,あいつにまちがいない。俺は見た(ただし,防犯カメラには死角となり一切写っていない)。どうしても裁判して回収して欲しい。気持の問題だ。お金の問題ではない。訴額が低いので,着手金なし,成功報酬は10円でやってほしい。受けてくれないのは質の低い弁護士だ」と言われた時に,増員の結果,総弁護士の数が一体何人になれば,この事件が,「割に合わない」事件から「割のある事件」になるのでしょうか?

    No title

     「依頼者にとって」割に合わない場合に、「きっちり説明」せず、単純に「割に合わない」と言って断る弁護士がいるなら、それは言語道断だと思います。なぜなら、依頼者としては、「カネの問題ではない」という場合もあるからです。それにもかかわらず、「カネの問題」にしか目を向けない弁護士がいるなら、そのような弁護士は人の心がわからない人間であるといえ、「質」の低い弁護士であると言って差し支えないと思います。


     次に、「弁護士にとって」割が合わないから引き受けてくれない、という場合についてですが、弁護士にとって「カネになる事件」がたくさんあれば (弁護士の人数が少なければそうなります) 小さな事件は「割に合わない」ということになります。しかし、弁護士の人数が増えれば小さな事件も「割に合う」ようになると思います。

     たとえば以前、国選弁護は弁護士にとって「割に合わない」とされ、積極的に受任しようとする弁護士さんは多くはなかったですし、増員が始まった頃、増員すれば「割に合わない」国選なんか引き受ける弁護士はいなくなる、などと「予言」されていた弁護士さんもいらっしゃいますが、実際には増員の結果、国選弁護は弁護士にとって「割に合う」として大人気になっています。いまや、弁護士の間で、国選の「取り合い」が生じているのではありませんか?

     結局、増員すれば「割に合わない」事件を引き受ける弁護士はいなくなる、というのは単なる誤解・思い込みで、実際には逆の現象が生じていると言ってよいと思いますし、また、(増員が続けば) そうなるはずだと思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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