弁護士の「使い勝手」

     一般的に利用者の視点に立つ、ということは、「使い勝手」、つまり使う側の便利さという視点で語られることが多いと思います。それは、弁護士についても同じです。

     弁護士の「使い勝手」は、大きく二つの観点で語られます。

     ひとつはアクセス。弁護士が身近にいて、市民が求めたときに、すぐに接する、たどりつけることができる存在である、ということです。それは、たどりつくための手段の確保と数の問題としてとらえられます。

     日本司法支援センターの活用、弁護士会の窓口・会広報の充実化、弁護士の偏在の解消、そして弁護士の増員というテーマにつながっています。

     「国民に身近な司法」という司法改革のキャッチフレーズが意味するところも、前記したようなテーマの先にある、市民にとっての「使い勝手」をよくすることと換言できなくはありません。

     司法関係者の理解としては、この見方に比重があるように思えます。ところが、一般市民の感覚だと、どうもそちらよりも優先順位が逆ではないか、と思えるのが、もう一つの観点、それは「おカネ」です。

     弁護士をこれまでより安価で利用することができること。それが、「使い勝手」をよくすることなのだという見方です。もともと弁護士の報酬がいくらかかるのかが、市民に分かりづらかったことがありますが、とにかくおカネがかかる、高いというイメージを市民は持っています。できるだけ、弁護士のご厄介になりたくい意識につながっていることは確かです。

     また、そもそも今回の弁護士増員という「改革」は、金銭的に弁護士を「使い勝手」いいものにしようとする経済界の意図を背景にしている面もあります。これについては回を改めます。

     もちろん弁護士からいわせれば、高いかどうかは別の話ですが、少なくとも「身近な司法」というテーマの中で、弁護士費用の低額化が、一番の課題として取り上げられたわけでありませんでした。

     社会の弁護士が増えることへの期待感も、どうも法曹界でいわれるアクセス障害解消よりも、違うところにあるような描き方があります。

     別の回にも引用した、「本人訴訟」に関する読売新聞1月12日夕刊の記事(「『本人訴訟』への弁護士の姿勢」)には、弁護士の増員についてこんな記述が出てきます。

    「競争が生まれることで弁護士費用が下がり、依頼しやすくなると予想されていた」

     ところが、弁護士が増えたのに「本人訴訟」が増えているのは、依然として費用が高額だからだ、というのです。「読売」は、「司法改革 効果に疑問」という見出しまでふっています。競争による低額化は「改革」の効果として、注目されていたことなのだということを強調しています。

     弁護士からすれば、低額化の競争に妙味があるとは思わないでしょうが、ここを最優先にみていないのは、必ずしもそのためとは思いません。そういう競争が必ずしも市民のためにならないのではないか、と考える人もいたのです。もちろん、質が低下すれば、それは「使い勝手」以前の問題でもあります。

     ここで二つの考え方があります。法的サービスを常に一定のレベル、一定のコストで提供する責任を司法が全面的に負うという考え方。もう一つは、レベルに応じたコストを、あくまで国民が選択することができる形を確保する、という考え方です。前者が主に弁護士など法曹界の旧来からの考え方、後者は主に弁護士の隣接士業、つまり弁護士以外の法律専門職の方のなかにある考え方です。

     大まかにいえば、前者の立場に立てば、競争による低額化には弁護士側が、むしろ神経をとがらせなければいけない話になりますが、後者は市民側が、低額化による選択、あるいは弁護士だけに限らず、士業全体で比較した選択が可能になる利便、「使い勝手」と同時に、そのリスクは自己責任で負う、ということになります。

     どうも「改革」の期待の仕方として、社会は後者に傾きつつあるように思いますが、果たしてそれが大丈夫なのかは、まだ疑問があります。それは、一つには情報の問題があると思います。国民の選択がフェアにできる環境が果たしてあるか、あるいは現実につくれるのかどうかということです。もちろん、自己責任とはいっても、一定の「質」が担保されていない、ということになれば、それは低額化のリスクでは片付かない問題です。

     そして、さらに肝心なことは、前記した二つの考え方について、それこそフェアに市民に提示されたとき、市民は本当はどちらに期待するのかということもあります。

     それにしても、弁護士増員で低額化するということは、低額で支えられる弁護士の増員状態を意味します。それは、劇的な件数の増加か(もっとも一人の力では薄利多売にも限界がありますが)、劇的な弁護士の収入減少によらなければなりません。

     日弁連内の増員推進派はもちろん前者を期待し、それ以外の方々は、後者を懸念しているともいえなくありませんが、大マスコミは「そもそも弁護士は儲けているから、まあどちらにしても大丈夫だろ」といっているように見えてしまいます。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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