韓国の法曹養成事情が教えるもの

     わが国より少し遅れて進められているとされる韓国の司法改革ですが、その契機となる事情としては、わが国とは少々異なることがいわれてきました。

      「前官礼遇」

     裁判官、検察官任官経験者が退官後に弁護士となり、有利に扱われる(有利な判決を受ける)ということです。それを利用して、そうした弁護士が経済的に成功を収め、前官の弁護士グル―プが弁護士会で支配的になるという状況もある、と伝えられています。弁護士報酬の改正などをめぐっても、この問題への対策が焦点だったようです(「弁護士の報酬に上限を設定」KBS WORLD )。

     日本民主法律家協会(日民協)が今年4月に行った韓国司法制度調査の報告等が「法と民主主義」7月号で掲載されています。その中で、調査団のインタビューにこたえた李京柱・仁荷大学教授はこう語っています。

      「日本と異なり、韓国での司法改革の動機には、必ずしも新自由主義的な発想は語られていません。むしろ『前官礼遇』に象徴される裁判所と在野法曹との癒着や腐敗を一掃すべきという国民の声が大きく、これが司法改革を牽引する力になったと思います」

     韓国側からみて日本の司法改革が、自分たちとは違う新自由主義的発想のものと受けとめているのは興味深いところですが、それもさることながら、韓国では「腐敗一掃」という国民が「改革」を牽引する動機があったということは決定的な日本との事情の違いというべきです。片や日本では、この「改革」をなんとか国民的な運動にしようとする政府、法曹界一丸となった、いわば上からの啓発運動が行われながら、結局、最後まで牽引したのは国民の声ではない、少なくとも、韓国のような国民の司法に対する大きな不満、批判的な目線のなかで、「改革」が進んできたわけではない、という現実があります。

     その「改革」のなかで、韓国は法曹養成については、法学部教育・司法試験・2年間の司法修習という従来の形を、適性試験・法学専門大学院(韓国版ロースクール、3年制のみ)・弁護士試験に。同大学院設置大学の法学部と司法修習を廃止し、3年の法学専門学院の課程修了で弁護士試験の受験資格を得るという形(司法試験は2017年まで実施。司法研修院は2020年まで存続)にして、すべての法曹が同試験を経るという形での「法曹一元」が実現しています(裁判官任用までの期間は3年から10年まで段階的に長くするもので経過措置がとられている)。この議論でも司法研修院(司法研修所)は、前記事情から、法曹のなれあい、癒着の場として国民的な批判もあったようです(「韓国の法曹養成制度」三澤英嗣弁護士)。

     法科専門大学院は25校、定員2000人に絞られ、合格率80%の制度設計とされていますが、1期生(2009年入学、2012年2月末卒)組についていえば、合格率85%を達成しています。日本の制度を「反面教師」にしたといわれ、5年遅れてスタートした韓国の法科大学院制度は、こうした内容を見る限りは日本よりも大胆かつ堅実のような印象も受けます。

     ところが、前出「法と民主主義」誌上に掲載されている報告(「韓国の法曹養成事情」鈴木秀幸弁護士)は、同国の別の状況も伝えています。合格者増員による弁護士の急増。1977年までは毎年60~70人だった司法試験合格者は、1981年からは約300人、2001年には1000人に。1999年に登録人員4659人だった弁護士数は現在1万940人に上っています。そのなかで、弁護士需要は全国的に増加せず、就職難もいわれています。今年は大学院卒業組1500人に加えて、司法研修院組800人が加わる合計2300人が就職先を求めた形で、約1万1000人の専門的職業集団に毎年約20%の新規参入が行われようとしている事態です。

     法学専門大学院制度に対しては、前期動機として語られていることとは別にグローバル化した世界経済の中での競争力強化の一環として、渉外系の弁護士を作りだす必要から、「英語ができる、しかし法律の学習の浅い学生を85%から90%という高い合格率で大量に法曹として輩出させる目的」(前掲報告)が描かれている一方で、実際の弁護士需要の有無、毎年この数の供給が必要なのかを裏付ける資料はない、という状態です。

     ロースクール側は、あくまで「弁護士は過剰ではない」という立場。さらに、民主的な弁護士の団体(「民主社会のための弁護士たちの会」)も、実は今回の司法改革、法曹人口増員政策を推進した側で、もともと自分たちが唱えた改革だけに反対できない苦しい立場に立たされ、国、自治体、企業に弁護士が就労できる制度の新設を求めているが、十分な制度にはなっていない。こうしたなかで「今後、有為な人材の多くが法学専門大学院を目指し続ける客観的条件があるのだろうか」(前掲報告)ということを疑問視せざるを得ない状況になっている――。

     まるで、どこかの国のパラレルワールドを見るような気持ちになってきます。やはり、現実的に弁護士が置かれる環境を考慮せず、進められた「同床異夢」の「改革」がたどりついた同じ状況が見えてきます。このことは、わが国の「改革」をどこから立ち返って見直すべきかということにも、示唆を与えるもののように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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