法科大学院「価値」の模索

     司法試験合格後に、法科大学院へ――という話が聞こえてきました。ある司法試験関連予備校が、現役東大生向けに作成したパンフレットで、予備試験経由で大学在学中に司法試験最終合格した後に東大法科大学院で学ぶ、というルートを勧めているという話が、ブログ「一聴了解」で紹介されています。司法試験を気にしないで、最先端の法学教育を修得する、ということが歌い文句のようです。

     これは、あくまで予備校が勧めていることですが、一方で、岡山大学法科大学院が全国で初めて、司法修習を終えた同法科大学院出身の弁護士を対象にした、組織内弁護士の育成機関を開設するというニュースも流れてきました(山陽新聞10月14日付け朝刊、「Perfect & Complete」)。弁護士登録できる場所を提供して常勤・非常勤の実務家教員らが指導し、3年をめどに組織内弁護士として推薦して、企業等に送り込むという構想のようです。

     いうまでもなく、前者と後者は、異なるコンセプトを持っています。ただ、共通する着眼点は、法科大学院の「価値」ということです。つまり、「価値」を見直す形で、活用できないか、というテーマに踏み込んでいるものなのです。いずれも、それが司法試験合格後という話がミソです。合格しなければいけない、という、合格させなければならない、という「成果」と法科大学院の「価値」を切り離したところに、その活用の道を探れないのかという試みにとれます。

     逆に言えば、このことはやはり司法試験合格という結果が、志望者にとっても、社会的な意義としても、現在、法科大学院の存在価値に結び付けられてしまうことが、いかに重たい現実なのかが見えてくるようにも思います。もっとも、前者についていえば、予備試験ルートプラス東大法科大学院が、志望者の価値を高めるという方を中心にみれば、同ルート拡大策に法科大学院が手を貸すことになりますし、他の大学でこれが一般化できるかとうかは疑問ですが、「一聴了解」氏がいうように、「ロー推進派は、憎き予備校から思いもよらず、ローの価値を高く評価されて溜飲を下げるかも」しれない話にはとれます。

     見方を変えると、こうした方向は、法科大学院からすれば、発想の転換であるもしれません。受験資格化にしがみつく本道主義は、これまでも指摘したように、別ルートを認めたら、直ちに利用されなくなる、見離されるという関係者の脅威を背景にしているととれます。ルートを強制せず、他のルートとその「価値」で勝負して志望者が選択するという真っ向勝負に出る自信のなさの表れです(「受験資格化を必要とする理由」)。少なくとも、前記した方向は、法科大学院の現実的な「価値」を模索する挑戦につながっています。

     また、後者の組織内弁護士という着眼は、最近、増員推進派から聞こえてくる、需要がないのではなく、需要と供給が分野的にかみあっていないとする「ミスマッチ論」(「需給の『ミスマッチ』という言い方」)とつながります。当然、この論の先には、あるとされる企業系あるいは国際的なニーズにこたえる弁護士の養成が、当然、法科大学院教育のなかにも描き込まれるべき、という見方もできるからです。

     もっとも、冒頭の動きについて、前者は「一聴了解」氏がその分析のなかで、メリットという点ても疑問符をつけていますし、後者も、「Schulze BLOG」氏が、企業・自治体のバラバラなニーズへ対応の難しさや、彼ら側の受けとめ方としては懐疑的という見方も示しています。

     ただ、いかに実務家のために必要な教育を施すという本来の趣旨に合致していても、やはり司法試験合格後に「価値」を求める法科大学院に、その存続の未来をかぶせる方向が本格的に生まれるとするならば、やはり「改革」が当初、描いた絵が大きく変わっていることだけは、はっきりと認めなければなりません。


    ただいま、「予備試験」「日弁連の『法科大学院制度の改善に関する具体的提言』」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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