大法律事務所「転機」が示す現実

     日本の4大法律事務所(西村あさひ、長野・大野・常松、アンダーソン・毛利・友常、森・濱田松本)の所属弁護士数が、今年、減少に転じた「異変」について取り上げましたが(「大法律事務所所属弁護士数の『異変』」) 、彼らの台所事情を伝える記事が、10月8日付け日本経済新聞朝刊に掲載されています。企業法務を扱う、これら大事務所の拡大路線が転機を迎えている、としています。

     長島・大野・常松が2度目のシンガポール進出に挑戦するという話。1996年に東南アジア統括の拠点を開設したが、アジア通貨危機で日本企業の進出に陰りが見えたことから1999年に撤退、当時は金融機関破たん処理など国内案件が忙しかったという事情もあった。ところが、2008年のリーマンショックで、国内法務市場の伸びが鈍化、2度目の挑戦で海外に活路を探ることになった。他の大事務所も、同様にアジアを中心に海外拠点の拡大に力を入れ始め、国内地方への進出も、海外進出する地元企業の取り込みが狙いである――と。

     また、大手事務所の寡占化が進み、大手に有力顧客企業が集中。その結果、競合関係にある別の会社の仕事を同時に請け負うことが難しい事例が増加していることなども紹介しています。前記4事務所にTMIを加えた5大事務所の弁護士減少にも触れ、2000年以降大量採用したアソシエイトが、パートナー(共同経営者)になれず退職していることが主因、としています。

     この記事をどういう情報として読み、受け止めるのかは、もちろん弁護士によって違うと思います。この記事の結論としては、国内の「恵まれた状況」が失われた弁護士が、活路を見出そうとする海外で、実績が乏しい中、シェアを握る欧米大手にどう対抗できるのか力量勝負、といった括りになっていますが、あるいはこの問題意識を、そのまま受けとめている方もいるかとは思います。

     ただ、全国ベスト50大事務所にも参加していない、この国の9割近い弁護士の受けとめ方が、果たしてそうしたものになるのかは疑問です。国内市場の伸び悩みを「海外に活路」という切り口そのものに、よそよそしい気持ちになる多くの弁護士が存在することは確かです。

     そして、改めて感じてしまうのは、弁護士をこの国で激増させるという状況は、この記事が伝える現実は、どうつなげてみるべきなのか、ということです。まだまだニーズはある、とわれている企業系法務の担い手たちが、今、国内市場の伸び悩みに、海外に活路を見出し、生き残り策を探ろうとしている、という話。これは、「改革」が質・量ともにこの国で必要になると描いた法曹の姿の話とは、どうつながるのでしょうか。

     この企業法務こそ、その増員政策の、まさに「活路」の一つとしていわれています。最近、聞こえてくる、弁護士の必要性はあるが、それに応える人材のミスマッチが問題という論調からすれば、法曹養成自体が、より企業ニーズにあった弁護士を大量に育てよ、と言っているようにもとれますし(「需給の『ミスマッチ』という言い方」、その一方で、数の「受け皿」としての過剰期待は困る、という話も聞こえてきます。

     記事は直接触れていませんが、結局、国内の弁護士の市場規模を度外視した増員のしわ寄せが、彼ら大事務所にも影響してきた、つまり彼ら自身が、拡大路線を持ちこたえられなくなった、と見えます。首都圏においても企業法務系事務所は、実は過剰との見方もあり、もはや地方企業の取り込みでなんとか道を開こうとする姿勢に重ね合わせれば、彼ら大事務所の必死さの表れとも、とらえることはできます。彼らも、また求められる場を、生き残るために探さなければならなくなっている、と。

     彼らが声高にいう、「国際競争力」ということが、弁護士に求められる資質の一つであり、現に同紙か指摘するよう、これから彼らに待ち受ける対抗戦では、それが重要になることが事実だとしても、また、その戦いに勝つために一定の数が必要だとしても、ここもまた「改革」が描いた絵とは大分違ってきているという印象は否めません。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の競争による淘汰」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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