明石市・顧問弁護士全員解嘱という選択

     ここのところ何かと弁護士関連の話題を提供している明石市が、今度は4人いる顧問弁護士全員の委嘱を9月30日付で解消したという報道が流れています。今春の任期付き弁護士職員5人との関連で、「顧問に月額12万円の顧問料を支払う理由付けが乏しくなった」などの解嘱理由が流れています。

     もっとも、この5日前に、今年3~5月、顧問弁護士のうち1人の弁護報償に要綱の例外規定を3件連続で適用し、計227万円を上乗せしていた問題が発覚。市議会で市長の背任行為の可能性を追及されたことも報じられており、当然、それが背景事情にあるという見方があります。もちろん、市側はそれを認めるわけもなく、上乗せ3件は難しい案件で、例外規定に該当するとしており、人選や支出の問題ではない、としているようです。

     自身も弁護士という泉房穂市長については、顧問弁護士の増員や任期付き職員の弁護士会費の公費負担(のち取り止め)といった話題が取りざたされる度に、やはり、その出自との関連がいわれるわけですが、少なくとも弁護士の「受け皿」を、自治体を含めた広い分野で開拓しなければならないと主張している日弁連内の改革推進派からすれば、まさに孤軍奮闘のようにも見える同市長の取り組みには、好意と期待の視線を送っていてもおかしくありません。

     ただ、今回の事態は、その立場からしても、やや複雑な受けとめ方になります。つまり、弁護士職員の採用という選択が、顧問弁護士解消につながるという流れが示されたということです。前記背景事情からしても、もちろんこれはおカネの問題として説明されることになるわけですが、一部報道で市側の説明として紹介されているように、職員からの法律相談や簡易な訴訟を、この弁護士職員が扱うという新たな環境がある、つまり根本的に相当程度の弁護士職員での代替が可能なった、ということになります。

     現実的には、弁護士職員採用は、顧問弁護士の活用と比したときに、経済的財政的に自治体には難しい現実もありますが(「法曹養成制度検討会議の注目点」)、仮にそれが広がったとしても、弁護士の経済的な「受け皿」としての期待感に重ね合わせたとき、このゼロサム的な増減は、果たしてどうとらえるべきか、ということです。顧問弁護士の失職分を吸収し得る、大量の弁護士職員採用を描くのであれば、さらにハードルが上がることにもなります。

     一方で、顧問弁護士の役割ということを考えたときにも、この方向を不安視する声が弁護士の中から出ています。

      「私が懸念するのは、インハウスは団体内で一定の業務指揮命令を受ける立場にあるのが一般的です。法律家としての自分の信念だけで自由に判断ができるというわけでは必ずしもない。そうであれば、外部の顧問弁護士を切ってしまってインハウスだけにするというのは、本当の意味でのリーガルチェック機能が働かなくなる場面というのも、きっと出てくるはずだと思うのです。団体の外で独立した立場だからこそ、モノが言えるというのもあるはずなんです」(「Schulze BLOG」)

      「(組織内弁護士は)その組織におけるニーズにより、いろいろなバリエーションがあり得ますが、訴訟を担当する以上は、訴訟に対する知識、経験、ノウハウといったことが相応にないと、その任に堪えない、ということになりかねません。難しい案件については、紛争の初期から外部の弁護士に委ね、訴訟になった場合は組織内弁護士と共同して担当する、あるいは外部の弁護士だけで担当するなど、内容に応じてフレキシブルに対応するのが、その組織のためになる、ということが多いでしょう。記事を見ると、外部に頼むと高いから内部でまかなう、といった、底の浅い安易さが感じられてしまうのですが、きめ細かく、案件に応じたケースバイケースの対応ということが求められるのではないかと思います」(「弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の『日々是好日』」)

     市民に対しては説得力を持ってしまうおカネの問題はかっちりやっています、というアピールとともに採用されることになる、できるだけ自前でやるという方向が、外部の弁護士が担当するという顧問弁護士の意味合いを、逆に消していってしまうのではないか、という懸念です。

     もちろん、これを実験と考えるならば、経験の少ない内部弁護士の仕事の結果は、任期付き弁護士の自治体採用ということ、そのものの実績としてカウントされますから、この実験の行く末に注目している自治体の今後の姿勢にも影響しますし、前記「受け皿」として期待する方々にとっても、良い話にはなりません。

     明石市は今年度から、県弁護士会との橋渡し役として設置したばかりの、法務連携アドバイザー2人についても、「役割を終えた」として、顧問弁護士解嘱とともに、廃止したことも発表されていますが、市長の孤軍奮闘の先は、まだ見えないという印象を持ってしまいます。


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    批判する側から批判される側に

    最近の明石市に絡む出来事に対するコメント等を見ていて、気になることが2点あります(特定の方を批判するものでは決してありませんのでご了承ください)。

    1.報道されている情報はきちんと拾っているのか?
     要綱基準外の報酬を支払った件につき、市の要綱基準額が低すぎることが問題であり、基準を越える報酬を顧問弁護士が受給することに問題はないといった内容の見解をよく見かける。
     しかし、報道されている情報をよく確認しているのだろうか?
     市と顧問弁護士との間では契約書を交わしておらず、要綱が契約内容を定める。もっとも、顧問弁護士であっても受任するかどうかは自由である。要綱の基準額で受けるのが嫌なら、受任しないという選択は当然にある。また、受任に際して、ハードケースであること等を理由に要綱の例外規定を適用して特例額を支給するよう交渉するのも自由である。さらに付言すれば、市長がどのように基準外の支払手続きを行ったのかについては一般には顧問弁護士の関与しうるところではない。
     しかし、受任後に、単に市の基準額は低すぎるから基準を上回る額を払うことで合意したというのであれば、話はだいぶ変わってくるのではないか?
     明石市のケースでは、同一の顧問弁護士に委任した事件すべてにつき、委任後かなりの日数が経過してから、同時に特例額を支給する旨の決裁が起こされており、しかも当該決裁には例外規定適用のための特別の事情について何ら記載がないという。つまり、そもそも例外規定を適用したといえるのかさえ危ういといえる。こうした状況では、上記のように考えるのが素直ではなかろうか。
     受任に際して、事件の難易度等を理由に額の交渉を行った事案とは言いがたいことを認識しているのだろうか?それだからこそ、市議会などから批判の声があがっていることを認識しているだろうか?

    2.弁護士が批判される側に立っていることを意識しているのか?
     一般に弁護士は正義の旗の下に行政などを批判することが多いと思われるが、本件では弁護士が批判される立場にあることを意識しているだろうか?
     自治体の法務部門は企業の法務部門と同じくコスト部門である。市民がそうした業務にこれまで以上の税金を支出することに消極的になるのは当然である。そうした状況下において、自治体における任期付き職員の採用を進めたり、顧問弁護士の報酬を改善しようとするのであれば、市民にわかりやすく説得的なメリットを提示して理解を求めることが必要なのは言うまでもない(そして、これが困難なことも言うまでもない)。
     にもかかわらず、「額決定のプロセスはともかく、支払額は旧弁護士会報酬規程に基づくものだから問題ない」とか「弁護士を任期付職員として採用する以上、一般職員とは異なったそれなりの待遇を用意するべきだ」というような主張をするのであれば、「弁護士の感覚は世間の常識と乖離している」といった批判が飛んでくることは容易に予想できるだろう。
     弁護士の職域拡大を叫んでいる人たちにしてもそうだが、世間から自分たちの行動がどのように見られているかを意識するべきではないだろうか?

    No title

    明石市民からすれば、なるべく税金を使ってもらいたくなく、弁護士職員を採用をするにしても、数は少なければ少ないほどよいでしょうし、 顧問弁護士も、弁護士職員で足りるというのであれば、0としてほしいといったところでしょう。

    これは、結局、弁護士職員がきちんと機能すればそれでよいでしょうし、機能しなければ、「安物買いの銭失い」となるだけじゃないでしょうか?

    きちんと機能するとは、結局のところ、裁判になった場合に、難しい事件を勝訴に結び付けたり、あるいは、交渉案件で、弁護士職員が金銭その他の面から、明石市のためになるような和解活動をしてくれるかでしょう。

    経験豊富とは言い難い弁護士職員がそのような役割を十分に担ってくれるのか?弁護士職員は、サラリーマンなので、難しい交渉をまとめようが、報酬に反映されない(されにくい-少なくとも成功報酬型の給与体系ではないと思われます)反面、勤務時間内だけ働けばサラリーが出るというのであればそのようなインセンティブは薄いのでは?任期が決まっているので、長期の事件の場合、解決のインセンティブが薄いとか、難しい案件は引っ張って(早期解決は目指さないで、精力的に取り組まないで)先延ばしにするのでは?とか、いろいろ問題点も指摘できますが、そうならないことを願うばかりです。

    なお、顧問弁護士への報酬の支払いが、要綱よりも高額であったとの報道ですが、明石市側の見方はあえて触れません。弁護士側からすれば、能力のある弁護士は別に明石市の要綱に従う必要はなく、要綱をたてにとって自らが求める金額を払ってもらえないのであれば、断るだけのことではないかと思います。

    「弁護士職員だから組しやすし」として、他の弁護士その他の勢力から狙い撃ちに合わないことを切に願うばかりです。

    市民からみると

    日弁連からみれば「孤軍奮闘」なのでしょうが、市民からすればそんなことのために税金を使われてたまったものでないのでしょうね。
    弁護士職員を採用をするに当たっても「2人募集」と説明していたのに突然5名も採用していますし、何がしたいのかまったくわからないのではないでしょうか。
    (とりあえずインハウスではトップの暴走を抑止することができないことはよくわかりましたが)

    友人の顧問弁護士への報酬水増しも、市民からすると憤慨ものでしょうね。
    要綱の例外規定を適用したと説明していますが、着手金額決定の決裁には例外規定適用の要件である「特別の事情」について何も触れていないそうですし。
    特定の顧問弁護士にだけこっそりと報酬算定基準を旧弁護士会基準に差し替えたというのが実体でしょう。
    背任ではないかとの声があがるのもやむを得ないかと思います。

    No title

    実務的には、インハウスを置いたうえで、訴訟などの場合には外部弁護士を案件ごとに雇うのが合理的だと思います。
    外部弁護士を雇う際にも、自己の組織や案件の性質によって、相応しい外部弁護士を選択することができるのは、同業者である弁護士のほうが長けています。
    (経験豊富な企業法務人であれば、同様なことができますが、育成に時間とコストがかかります。)

    明石市のような対応は、顧問弁護士委嘱よりも合理的かと思います。
    日常的には組織内弁護士として対応しつつ、有事には外部弁護士を活用する指揮者として活動する。
    顧問弁護士委嘱でも同じ機能を果たすことが可能かどうか、そういう観点では、真に組織(この場合では明石市)の立場に立った案件指揮が取りうる点、持ちうる時間の全てを1依頼者に注げない顧問弁護士よりも専念できる立場である点、そういう意味でより組織の為になると思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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