弁護士の「経済的な価値」という視点

     11年前に発表された司法制度改革審議会の最終意見書は、「今後の社会・経済の進展に伴い、法曹に対する需要は、量的に増大」し、「質的にも一層多様化・高度化していく」との見通しに立ち、弁護士に関しては今後、「個人や法人の代理人、弁護人としての活動にとどまらず、社会のニーズに積極的に対応し、公的機関、国際機関、非営利団体(NPO)、民間企業、労働組合など社会の隅々に進出して多様な機能を発揮し、法の支配の理念の下、その健全な運営に貢献することが期待される」と予想しました。

     いま、この予想が正しかったのかどうか、そしてそもそも「社会の隅々に進出」すべきとする考え方、あるいは「法の支配」といった言葉で括られた理念の下の予想の立て方そのものが正しかったのかが、問われるべきところに来ています。ただ、司法試験年合格3000人の未達成や、弁護士の就職難の現状から、予想通りになっていないことは動かし難い事実ではあっても、依然、それを時間の問題としてとらえ、前記理念の下の予想の立て方自体は、全く省みない姿勢を推進派は維持しています。

     つまりは、依然、「改革」は前記司法審の発想のもとに、進められようとしているわけですが、改めてそれを今、見ると、こと弁護士の増員ということの関連でいえば、ある種の誤解を生むことになったということができます。それは、弁護士の経済的な価値という問題です。前記発想に基づけば、需要の増大に伴い、弁護士の社会的な価値が高まり、それに応え、広い活動分野に進出するための増員政策が望ましい、と多くの人が考えたのかもしれません。しかし、それに伴い弁護士の経済的な価値も高まると考えたとすれば、それは疑ってかかるべきだったというべきです。

     なぜならば、その需要そのものが、経済的な効果を生むものとして存在しているかが明確ではなかったからです。要するに、有償・無償はごちゃ混ぜで議論されていた。つまり、弁護士の数を経済的に支える意味での需要が、この中にどれくらい見込めるのか、という話がぼやけたままだったのです。

     さらに、弁護士の経済的な価値という意味では、「改革」が数を増やすことによる弁護士費用の低額化といったことを描き込み、あるいはむしろ弁護士の経済的な価値が下がるほど、社会にとって使いやすい存在になるということを想定していたとすれば、それもやはり採算性のあるニーズの存否を無視しては弁護士が成り立たないこと、そして、そもそもそうした状況では、弁護士のなり手はいなくなるということに考えが至っていなかったといえます。

      「法曹の養成に関するフォーラム」からの横滑りメンバーが目立つ法曹養成制度検討会議委員に、新たに加わった和田吉弘弁護士が、同会議に提出した意見書のなかで、現状の合格者2000人体制でも弁護士の供給過多が生じ、就職難が発生している事態を踏まえ、こう書いています。

      「このような現状は、まさに社会の要請に基づく市場原理によって生じているものであり、弁護士の数が需要に比べて飽和状態になっていることを端的に示すものである。これは、司法制度改革審議会意見書が全く予想していなかった事態である」
      「司法修習修了者の就職難は、弁護士という職業の経済的な価値が急速にしかも大きく低下してきていることを意味している。とくに会社員や公務員等の職にある人は、今の職による収入を失ってまで弁護士を目指そうとは思わなくなってきており、大学生も、将来の安定した職業として選択しなくなりつつある。弁護士という職業の経済的な価値の低下が志願者が激減した理由の1つであることは、間違いないと思われる」
      「これに対して、司法試験の合格率が低いから志願者が集まらないと言われることもある。しかし、では合格率を上げれば志願者が増えるかというと、もし司法試験の合格率を上げるために合格者を増やした場合には、弁護士という職業の経済的な価値がさらに低下して、結局志願者がさらに減少するに至ると思われる」
    「司法試験の合格率を上げれば志願者が集まるという主張は、弁護士という職業の経済的価値はいかに数を増やしても低下しないという、経済原則を無視した考え方であるように思われる」

     もし、弁護士の経済的な価値がちょっとやそっと下がっても、それでもやっていかれる、それでも志望者は減らないと、「改革」構想者が考えたとすれば、そこにはそもそも「弁護士は相当儲けている」という見方があったとみることもできなくありません。ただ、「弁護士という職業の経済的価値はいかに数を増やしても低下しない」という考え方があるのならば、それはやはり大量にあるとされた需要を、前記したように採算性を無視した形でとらえているという根本的な問題があるように思います。和田弁護士が「飽和状態」というなかで指摘する需要も、当然、有償なものと考えなければなりません。

     したがって、こうした議論に際し、またぞろ「需要はまだまだある」論が展開されても、問題はそれが採算性のあるものなのか、大衆が大量の弁護士を支えるだけのおカネを投入する用意があるものなのかを無視するものならば、それは少なくともこの議論には意味がなく、また誤解が生じることになります。いうまでもなく、仮に大量の弁護士をもって、大量の無償性の高い需要に対応すべきというのであれば、それはそれで経済的な基盤整備を考えなければならないことだからです。そうであれば、弁護士の経済的な価値の低下という問題も消えていくはずです。

      「検討会議」が和田弁護士の主張を、どう議論するのかは注目点です。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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